PHILIPSのカナル型イヤホン(インイヤー・ヘッドホン)。同社はスポーツ系、ノイズキャンセル系、ヘヴィデューティ系、Bluetooth機能付きなどインイヤータイプのモノだけでも多くのラインアップを持つが、単なる単機能型だけでも多くの製品がある。
まず定番として同社を代表するSHE97xxシリーズがある。このシリーズは新型旧型併売なので大きな勢力を持っているし、他にもセミオープン型やフラットケーブル型もある。そんな幅広い同社の単機能型イヤホンラインアップのボトムを支えるのがSHE3000番台シリーズ。実売で1000円台、特売では3桁で入手できるこのシリーズは、カラフルな多色展開と合わせて、カジュアルなイヤホンとして人気だ。
ただそうは言っても「ゴールデンイヤー」という、社内でサウンドチューニングを手がける人員を検定で厳しく選んでいるPHILIPS、最廉価帯のイヤホンでもきちんと「音になっている」というのは定評があるところ。そんなスタンダードイヤホンを使ってみた。
パッケージ的にはスリムタイプで、CDショップのレジのあたりにぶら下げて売られるような製品。
内容的にもリモコンもないイヤホン本体と3サイズのイヤーチップ(M装着済み)のみと潔い。
ハウジング自体はコンパクトでありながら、実は微妙に(装着時の)前後対称ではなく、ステムが少し傾いでいて、耳道への角度的アプローチは良い。
色も鮮やかなパープル(このシリーズには他に、ブラック、ホワイト、ピンク、イエロー、グリーンがある⇒並行輸入品にはさらにブルーとグレーもあり)。
基本小型ハウジングで軽く、耳のサイズが小さい人でも大丈夫そう。
ただ2点イマイチポイントも。
まずケーブルが結構硬め。細いわりにはしなやかさがやや足りず、装着していて服などに当たると、ケーブルが曲がって力を逃がすのではなく、直接ハウジング側に動きが伝わってしまう。
また(これはcybercatの耳の構造起因かも知れないが)比較的イヤホンが浮きやすい。中央部の膨らみがあまりなく円錐形であるイヤーチップの問題か、短めステムの影響か、小さいわりには「据わり」が悪く、外で使っていると浮きがちになる。
この2点が原因で、耳から浮くと当然低音スカスカの音になってしまうので、そこがイマイチ。ただ、他の人に使わせるとそんなことはない、というので多分、相性?
音色傾向としては弱ドンシャリ...というか、かまぼこ形の周波数特性で、落ち込む直前の周波数(特に低域)をチョイ上げめにして、広帯域感を演出しているというか。また、ステージは広くないので、音が密集してきこえ、それが一種の迫力にもつながっている。
キャラクターとしては、女性ヴォーカルのJ-POPなどには相性が良い。ただバランス指向で特徴が突出していないので、比較的オールラウンダー。
そんなスタンダードイヤホン、いつもの曲で評価してみた。
まず再生周波数帯域的には意味がないかも知れないが、いつものハイレゾ楽曲から(再生環境はDP-X1A直刺し)。
吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”(24bit/96kHz/FLAC)
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は、ライドシンバルとフットクローズハイハット、リムショットといった金物系が優勢で右に引っ張られる(この曲の定位、ジャズ系楽曲によくあるタイプで、中央にドラムスがなく、右半分にある)。よく聴くとベースも出ていないわけではないが、この良録音の芯のあるリアルなベースではなく、やや腰がない音。ただベースソロになって他の楽器が邪魔しなくなると、重心低めの音でグルーヴィ。
宇多田ヒカルの“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(24bit/96kHz/WAV⇒FLAC変換)
からの「First Love」は、意外にも「聴きやすい」。ヒカルの震える声と、深く響くリムショット、ファットなベース音が中心で悪くない。一方ストリングスの広がりや、ドラムスの残響(リムショット以外)は小さく、こぢんまりとしている。
同じ女声バラードの「空」は、女性声優洲崎綾の1stファンブック
付属の特典CDより。良くも悪くもヴォーカルフォーカス。左右の広がりが小さく、右chのアコギと左chのエレギが近く、かぶりつきで聴いているような雰囲気。その直裁的な声には、味や色は薄いが。
おなじあやちゃんが今度はキャラ声で歌う「ヴィーナスシンドローム」
は音過剰系の打ち込み楽曲。連打されるバスドラは歪み気味。左右を駆け回るシーケンスパターンは「まわり方」が小さい。中心にあるヴォーカルは比較的よく聴きとれるが、情報過多のこの曲をうまくさばけていない感じ。
飽和系打ち込み楽曲の対極、空間を切り取る人のテクニックで聴かせるテクニカル系フュージョンは、T-SQUAREが日野'JINO'賢二をゲストに招いた「RADIO STAR」を“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
から。これは坂東クンのリムにかかり気味のスネアがパシィィ!と響いてエネルギー高い。ただ、JINOのベースはやや控えめで、丸めの音となって「出て」こない。ベースソロの部分も、むしろ坂東クンのバスドラの足技の方が前に出る。持続音はやや苦手なのか、バスドラのアタックの方が高域成分あるのでそのせいか。
帯域が広めで再生機器に力量を要求するクラシック系楽曲は、“艦隊フィルハーモニー交響楽団”(交響アクティブNEETs)
の「鉄底海峡の死闘」。全体的にこぢんまりとはしているが、バランスは意外に悪くない。金管系の押し出しは良いし、ティンパニのアタックも鋭いので、勇壮なこの曲の迫力を表現できている。一方、間を埋める弦の震えや、パーカッションの響きは薄く、「質量」が感じられないカルいノリ。
逆に上下帯域が狭い70年代ロックはEaglesの不朽の名作「Hotel California」
で評価。なんとなく懐かしい感じ。もともと上下ナローな元曲と、上下(高低)伸びきっていないこのイヤホンから紡ぎだされる音は、昔カセットテープで聴いた「Hotel California」に近い肌触り。ギターが良いとかベースがどうとかいうのではなく、全体的に華もないがアラもない。
まとめると
・帯域は広くないが中低域と中高域に弱くピークがあり、弱ドンシャリ
・高中低では低>高≧中のバランス
・ステージの広さは広くない(左右、前後とも)
・ヴォーカル、とくに女性ヴォーカルは埋もれない
という感じ。
自分にとってはおさまりがイマイチだったが、音質そのものは売価1000円前後なら「アリ」。ただ、今はこの機種廃番だと思うのだけれど、なぜだか市場では流通在庫が3000円代に高騰している。現在ではその価格帯で良質な中華イヤホンがたくさん出てきているので、その価格では買う意味はないかも。
ま、これを入手したのは2012年末の「フィリップス オーディオ製品 記者発表会」
だったので、その当時は確かに高コスパだったけれど....
【仕様】
再生周波数帯域:20 ~ 20000Hz
インピーダンス:16Ω
最大入力:20mW
能率:103dB
ドライバー形式:ダイナミック型
ドライバー口径:8.6mm
ケーブル長:1.2m
ドンシャリ気味の音造りだけれど、実は「シャリ」はあまりない
中域より少し上を持ち上げているので、高音多めにきこえるが、中高域がほとんどで高域という程は伸びていない
ヴォーカルはよく聴こえる
中高域の盛り上がりと合わせて、ヴォーカルは聴き取りやすい。特に女性ヴォーカル域。
耳にフィットすると力感ある中低域が楽しめる
重低音域まではないが、ビートの核となる中低域は充実していて、コンテンポラリー系は悪くない
全体的に音場は狭い
こぢんまりしている。左右も、上下も。
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購入金額
0円
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購入日
2012年12月14日
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購入場所
Philips 記者発表会
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