レビューメディア「ジグソー」

ソニーミュージック一貫生産復活第一号

ここ数年、内容はともかくとしてアナログレコードのブームが静かに起こっています。しかし、日本国内でアナログレコードをプレスできるのは東洋化成ただ1社という状況が長らく続いていました。

 

ここ数年はプレス枚数は上昇の一途をたどっていて、特にタイトル数の多いソニーミュージックはこのまま外注に頼り続けて良いのかという意見が出始め、自社生産を再開する形となりました。もっとも、ソニーミュージックはアナログレコードの生産打ち切りが特に早かったこともあり、かつての設備やノウハウを持った技術者は全く残っておらず、東洋化成など競合他社にも助力を仰ぎつつ、中古のカッティングマシンを何とか組み直すなどして、辛うじて生産体制を整えて自社一貫生産のレコードをリリースすることとなりました。

 

そしてその第一弾タイトルとして選ばれたのは、1982年に民生向けCDタイトルの第一弾(ディスク番号35DP1)として発売された、ビリー・ジョエルの大ヒット作「ニューヨーク52番街」(原題は52nd Street)でした。

 

記念タイトルとはいえ、重量盤などではない通常規格のLP盤となります。そもそもソニーの設備ではどうやら重量盤はプレスできないようで…。その割に1枚もののアルバムで4,104円は正直高いと思います。

 

 

 

 

 

 

 

袋を開けると、かつての通常版LPを可能な限り復刻していることが判ります。ライナーノーツも当時と同じ内容のものが入った上で、さらに再発CDと同内容のものが追加されているという形です。日本のレコードのお約束とも言える帯も、1978年発売当時の品番「25AP1152」とほぼ同じデザイン・内容です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーベル面のデザイン等も、メーカー名がCBS/SONYからSONY MUSICに変わっている以外は、ほぼ当時のままといって良いでしょう。

更新: 2018/05/30
総評

音質はやや不自然

取り敢えず、私が普段使う組み合わせで再生してみました。

 

 

 

 

 

実はこの盤の制作に関する情報は、Impress AV Watchの記事で関係者インタビューなどを交えて紹介されています。

 

その記事によると、アメリカ側に本盤の制作に使うために音源をリクエストしたところ、24bit/96KHzのハイレゾ音源が届けられたとのことで、これはデジタル再生に最適化されたコンプレッションがかかっていることなどから、そのままでは使えない音質だったそうです。そのため、ハイレゾ音源を可能な限りレコード向けの音質に加工し直して、マスタリングに回したとのことでした。

 

結果として出てくる音は、まず基本的にはハイレゾ音源のものに近くなっています。しかし、目立つ音の分だけがかつてのレコードに近づけられているような、何とも不自然さが残る音になってしまっています。率直に言えば、この音を出すためにレコードをプレスする必要は無いでしょう。私の環境ですら不自然さが残ることがはっきりと判るのですから、先日試聴したTechnics SL-1000Rなどで聴いたら全く音にならないような気もします。

 

確かにノウハウがない中、一から全て組み立てていくという作業は想像を絶するほど難しいものでしょう。しかし、何のために敢えてLPでリリースするのかという原点に立ち返れば、この音で良いという結論には落ち着かないはずです。少なくともレコードに長らく親しんでいるような人であれば。

 

今後もレコードのリリースを積極的に行うのであれば、レコーディング段階からLPリリースを意識したものをきちんと用意して、レコードであることのメリットを活かした音を持った作品を届けてくれることを願います。過去の音源に中途半端に手を入れるだけであれば、ハイレゾ配信で十分なのですから。

 

更新: 2018/05/30

1978年リリース時のディスク番号について

ちょっとしたおまけネタですが…。

 

1978年リリース盤が「25AP1152」であるということは本文中で触れています。これは実物が手元にありますから、直ぐに確認できるのです。

 

普段レコードを買い集めていて、このディスク番号が違うアーティストの作品で連番になることはなかなか無いのですが、実は私の手元には1番前の「25AP1151」、2番前の「25AP1150」も存在しているのです。

 

まず25AP1150は、中心メンバーであったTerry Kathの死後、新メンバーを加えた上でリリースされたシカゴの12作目「Hot Streets」です。そして25AP1151はTOTOのデビュー作「TOTO」(邦題「宇宙の騎士」)なのです。

 

自分が好きなアーティストの作品が連番で3枚続くというのも珍しい事例で、昔からずっと印象に残っていたのでここで触れてみました。

  • 購入金額

    4,104円

  • 購入日

    2018年05月29日

  • 購入場所

    楽天ブックス

11人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • タコシーさん

    2018/05/30

    昔の音源でLPではないのですね デジタル→アナログ...あれれ!
    ビリージョエルのテープ音源はアメリカでもデジタル化されて残っていないんでしょうね
    此までしてLPで出す意味合いがあるんでしょうかね CD共同開発者自らね 時代は変わったものですよ ソニーらしくないですね
    新録音でデジタル録音ならこれくらいLPの音が良くなるって言っても買わないかな...
    私なんぞは昔の音楽が聴きたい...それにはLPしかないのです CDも有るけど 雰囲気がね...
    LPは音楽聴くぞと言う気になりますよ
  • jive9821さん

    2018/05/30

    > タコシー さん

    東洋化成のLPも含めて、今時マスター音源は殆どデジタルデータで納品され、DAWで加工されてカッティングに回されるそうです。そのように作られたLPでも中には十分素晴らしい音質のものもありますし、それ自体は別に構わないと思うのですが、今回はデジタルの良さもなければ、元音源の良さもないという半端な出来であることが不満に繋がっています。

    私が使っているような庶民的な機材ではさほど気になりませんが、先日試聴したSL-1000Rで聴くと、昔の録音がこんなに音が悪かったのかと気付かされてしまうこともありましたし…。

    レコードで音楽を聴くというのは、それ自体が一つの儀式なんですよね。「今から聴くぞ」という意識を持たなければレコードは手にしませんから。BGMとして聞き流すのは、専らPC+USB DACの音になってしまっています。

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