レビューメディア「ジグソー」

時代を表す「名盤」

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。「ベスト盤」というのはいろいろな編み方があります。デビューからの軌跡を年代順に追ったもの、「バラード」などテーマを決めていくつかの作品からよりだしたもの...その中でヒットしたアーティストの「ここ近作」から今一度ヒット曲を選び出したようなセレクトの仕方もあります。あるアーティストの絶頂期とも言える「プラチナ3部作」を中心にヒット曲だけを集めてリリースされた作品をご紹介します。

 

Boz Scaggs。AORの話をすれば必ず名が上がるアーティストで、現在も精力的に活動を続けている(最新作は2018年5月リリースの“Out of the Blues”←日本盤は8月予定でまだ未発売)。初期はややドロくさいR&B色が強かったが、ファンキィでいながら洗練されたアレンジの曲が多くなった1970年代後半にブレイク、AOR(Adult-Oriented Rock)と呼ばれたその頃の音楽のムーブメントを語るのには欠かせない存在になっている。さらに彼の曲の演奏やアレンジ(一部は共作)をしていたのが、TOTO

結成のきっかけの一つでもあったと、音楽史上でも重要な役割を示している。

 

そんな彼の活動のピークは、1976年の“Silk Degrees

から1980年の“Middle Man”までのプラチナ(以上)アルバム3連発の時期だが、その“Middle Man”の発売を追うように、ベスト盤がリリースされた。選曲は、その3枚を中心に、“Silk Degrees”のひとつ前のゴールドアルバム“Slow Dancer”から一曲、同年公開のJohn Travolta主演の映画“Urban Cowboy”のサントラより一曲、“Middle Man”のレコーディングメンバーを中心に新曲一曲という形でBozの「一番濃いころ」を網羅した選曲になっている。

 

MISS SUN」はこのアルバム唯一のオリジナル曲だが、これがいい!まさに「ザ・AOR」。バックはマンマデビュー時のTOTOで、曲を書いたDavid Paichがキーボードとシンベ、ドラムスにJeff PorcaroとBozなじみのメンツに、シンセにSteve Porcaro、ギターにLukeことSteve Lukatherが参加している。Bozのメロウで深い声と、ミドルテンポのオトナの楽曲が心地よい。途中のキーボードソロもあっさりとボズのヴォーカルを盛り上げるモノで、オトナのアレンジ...つか、アウトロワンコーラスはBozが歌ってすらおらず、女性ヴォーカリストLisa Dal Belloが熱唱する「引きどころ」が上手いアレンジ。

 

名プロデューサーDavid Fosterと組んだ「JOJO」が、もう完成度が素晴らしい。この曲はバックが完璧。Huey Lewisでのプレイが有名なベーシストJohn PierceとドラムスのJeffが織りなす盤石リズムに、Ray Parker, Jr.のパーカッシヴなミュートギターとLukeの単音オブリというソウルフルな感じの音、さらにこれにDavid Fosterのシンセが加わると都会的な「粋」が生まれる。Bozの存在感アリアリの歌唱とつかず離れず美しく切なくサックスを歌わせるのはAdrian Tapia。彼のプレイはあまりたくさん残っていないが「Europa」などでの名演を聴くと、「泣き」のプレイが得意なのかも。

 

大ヒットアルバム“Silk Degrees”と、粋の極“Middle Man”に挟まれて若干わりを喰っている“Down Two Then Left”からは、淡々とした「HARD TIMES」。カチッとしたノリの曲だが、むしろ“Silk Degrees”の頃より古めの音造りで、Jeffの「響き」を大切にしたドラムのチューニングがよく判る。周りをかためるのも、Jeff、Rayといった「馴染みの」メンツに加え、Air Play

のJay Graydon!、ドラムも鍵盤も弾きこなすVictor Feldman!

と超豪華なメンツを集めていながら、バッキングに徹させるという贅沢な使い方。アウトロのソロはBoz自身だし。

 

ベストアルバムというと何でもかんでも詰め込んで、ボケてしまいがちだけれど、これはそんなことはない。「あの頃」のBozが、「あの頃」のAORが、そして「あの頃」の自分の思い出がギュッと詰まっている。

 

LPサイズの四つ折り歌詞カードってほとんど見なくなったな...
LPサイズの四つ折り歌詞カードってほとんど見なくなったな...

 

21世紀になって、これに数曲足したリマスター版が出たけれど、それには1988年の「Heart of Mine」が入っている。これはこれで「AOR第一人者」そのひとともいえるBobby Caldwellの曲なのだけれど、やっぱり少し「違う」。純度良く1970年代末の「あの頃」が詰まったファーストイシューの方が、やっぱり好きかな。ジャケットのBozも若いし←ソコ?

 

【収録曲】

1. LOWDOWN “Silk Degrees”
2. SLOW DANCER “Slow Dancer”
3. MISS SUN
4. LIDO SHUFFLE “Silk Degrees”
5. WE'RE ALL ALONE “Silk Degrees”
6. HOLLYWOOD “Down Two Then Left”
7. YOU CAN HAVE ME ANYTIME “Middle Man”
8. JOJO “Middle Man”
9. HARD TIMES “Down Two Then Left”
10. LOOK WHAT YOU'VE DONE TO ME “Urban Cowboy: Original Soundtrack”

 

「MISS SUN」

更新: 2018/06/04
必聴度

これで「あの頃」のBozはカンペキ!

ヒット曲がB面(30cmアナログ盤時)に固まっている“Silk Degrees”に、より洗練度を増した“Middle Man”、二つのビッグヒットに挟まれてやや割を喰っている“Down Two Then Left”からも上手くチョイスされ、1970年代後半のBozはこれでほとんど網羅できる。

  • 購入金額

    2,500円

  • 購入日

    1989年頃

  • 購入場所

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