レビューメディア「ジグソー」

自身の卒業とシンクロする心情がいとおしい

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽とは自己表現です。自分の想いを、音に紡ぎ、歌詞に織り込み、歌い届ける。でも、そんな人に想いを届ける方法は一つではありません。小説という、言葉を使った想いの伝え方を使うクリエイターとコラボして、「卒業」という人生の節目を表現した作品をご紹介します。

 

新山詩織。高校在学中にデビューし、そのままプロとなったシンガーソングライター。デビュー年の2013年は立て続けにおよそ3ヵ月ピッチでシングルをリリースしたが、高校卒業前に造られたこの1stアルバム“しおり”と、それに収められた先行シングル“今 ここにいる”

をもって緩やかな制作体制に移行、その後はシングル年1~2枚、アルバム年1枚ピッチくらいの落ち着いたリリースとなっている。

 

彼女の魅力は「等身大の主張」。同年代のシンガーソングライターに家入レオ

がいるが、レオのように脆く危うい思春期のこころや、叫びに聞こえるような内面の吐露、子供⇔大人を揺れ動く不安定な心情というような、青春の昏さや脆さを歌うのではなく、詩織はそのときそのときの状況・心情を、背伸びせず「ただ開く」という感じの素直さ。

 

もちろん彼女の歌の中には、明るいものだけではなく、どうにもならない不安や切ない想いを歌ったものもあるのだけれど、彼女から感じるイメージは明るい風。そこにはドロドロとした青春の闇は感じない。

 

そんな彼女の「高校卒業アルバム」=“しおり”は、そのリリース直後にシングルPVを収めたDVD同梱盤をご紹介したことがあるが、

今回はそれとは別の小説同梱盤。ケータイ小説の「魔法のiらんど」での人気作家AKuBiyが詩織とコラボした小説ブックレット「卒業、春」が入っている。

 

楽曲は以前紹介したものと同じなので、違った曲を取り上げると、まずアルバムのスタートの「Looking to the sky」が、ある意味衝撃。ソロシンガーのデビューアルバムの1曲目としてはかなり「バンドサウンド」で、サウンドプロデューサー笹路正徳をはじめとするスゴ腕ミュージシャンをバックに詩織のややハスキーな声が、想いを込めて歌う。♪Looking to the sky/この空超えて/見えたものに/嘘なんてひとつもないから/前を向いて馬鹿にされても/それが自分なんだから/ダメそうなときもあるけど/明日の空に/負けないように♪詩織の描く詞はいつもまっすぐだ。その歌を知念輝行と笹路のエレギがガッツリ支える。

 

河村“カースケ”智康のラフな感じのドラミングがいい味出してる「たんぽぽ」。少ししゃがれた詩織の声が♪誰も知らない/光り輝くたんぽぽ/気づいてほしい/私のこと見上げてる/知りたい事/沢山あったけど/後悔のまま/昨日は白くなって消える/そんな繰り返し/続いてるの♪と歌う。少しカントリーチックにスライドギターが入ったダルな感じの演奏が日差しを感じさせる。

 

ラストの「Don’t Cry」はフワっとした音響設計に、A~Bメロはバックビートにスネアを入れないカースケのドラミングが詩織の伝えたいことを支える。パァッっと開けるサビでは♪Don’t Cry/いえない/yeah yeah/たった一言/それだけで/世界/変わってしまうから/誰もが同じフリしてる/それなのに/言えなくてゴメン♪と最後の「ゴメン」に万感の想いをぶつける詩織の年相応さがいとおしい。

 

AKuBiyによる小説「卒業、春」は、つかず離れずのコラボ具合が良い。詩織(をイメージした人)を主人公にするようなド直球なベタベタコラボではなく、もう少し離れた形で、高校卒業時期を迎えた若者の心情が綴られる。進路を決めきれない美船が、恋人のいる同級生の山崎に惹かれる。そんな彼女に山崎の友人で、少しワルっぽいツバサがアプローチする様になる。山崎への想いを封じながら高校最後の夏を過ごす美船。出逢いの当初はいた彼女とは別れ、ややゴーインに美船の世界に入ってくるツバサ...そんな恋愛模様とは別に、彼らは進路を決める時期でもある。仲間内で最後まで進路が決まらなかった美船は、インターンシップとして行った養護施設で失語症の少年と出会う。その少年の心に触れたいと想った美船は、自分の進路をスクールカウンセラーに決め、大学受験する事にする。そんな彼女を見守るツバサと、自身の彼女の受験で距離を置かれ、美船に絡むことが多くなった山崎の間でユレル美船の心。ツバサ⇒美船⇒山崎...単なる一方通行だったら良かったのに..?そんなユレル彼女たちの心のバックに流れるのが「シャロン」というバンドの曲。音楽を傍らに人生の選択期を歩む彼等のその後は...?というお話し。この「シャロン」の歌う歌が、詩織の歌を思い出させるという、ユルい感じのコラボ。

 

この小説自体は「魔法のiらんど」に発表されているが、このアルバム同梱にあたって、後日譚「あたらしい、朝。」が加わっている。彼等の「その後」を識りたければ、必読で。

小説は160ページ近いものだが、一気に「読ませる」
小説は160ページ近いものだが、一気に「読ませる」

 

小説とのコラボで高校卒業という人生の節目が大きくクローズアップされる。それが詩織の心の動きとも重なって、人生の転換点にいる彼女をより近く、感じられる。

 

自分にもかつてあった、そんなキラキラして、脆くて、切なくて、懐かしい、「あの頃」のニオイを久しぶりに想い出させてくれた作品です。

 

【収録曲】
<CD>
1. Looking to the sky
2. ゆれるユレル
3. 今 ここにいる
4. 「大丈夫」だって
5. たんぽぽ
6. Everybody say yeah
7. 午後3時
8. ひとりごと
9. 17歳の夏
10. だからさ
11. Don’t Cry

 

<小説>

ブックレット「卒業、春」by AKuBiy(魔法のiらんど)

 第1話「おぼつかない、春。」

 第2話「おぼろげな、夢。」

 第3話「せせらぎの、歌。」

 第4話「ひらけ、道。」

 第5話「それぞれの、恋。」

 第6話「まばゆい、光。」

 第7話「はじまりの、春。」

 after story「あたらしい、朝。」

 

「Don’t Cry」

更新: 2018/03/29
胸キュン度

コドモ⇒オトナは一方通行じゃない。コドモ⇔オトナを繰り返しつつ...

..ゆっくりとそうなっていくんだったよね。

 

  ..想い出せたよ。

 

    ..ありがとう。

  • 購入金額

    3,360円

  • 購入日

    2014年03月31日

  • 購入場所

    フタバ図書

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