私は家で音楽を聴くときには、イヤフォンはほぼ使わず、ヘッドフォンのSENNHEISER HD650を主に使います。イヤフォンはあくまで外出時の音楽再生や、出先での展示機等の試聴用機材として使うという考え方です。
昨年購入したJH AUDIO Michelleは私の耳には形状も良く合っていて、歩いていても位置がずれるようなことはありませんし、音質面でもモニター的な使い方が出来るシビアさを持っていながらも十分音楽を楽しめるもので、これをメイン機として愛用しています。
しかし、その後もう少しリラックスして聴ける音質のものも欲しくなり、安く手に入ったNoble Audio Savantを併用するようになりました。
音質的な水準が高く、明確に個性が分かれた2つが手に入ったことで、当分は高価なイヤフォンを買う必要は無いと考えていました。もっとも、その後も久しぶりにダイナミックドライバー機として面白いと思った、Acoustic Research AR-E100を買い足したりはしましたが…。
そんな状況でありながら、まさかのハイクラスマルチBAイヤフォンを新品で買うことがあろうとは、私自身その瞬間まで予想していませんでした。
きっかけは実に単純で、仕事で秋葉原に行った際に時間が少しあったのでヨドバシカメラに立ち寄ったところ、特価コーナーに通常の処分価格からさらに半額となった、この64 AUDIO U4が並んでいたことでした。
正直に言って64 AUDIOのような高級モデル専門ブランドは自分には縁が無いだろうと思い、今までイベント等でも試聴すらしたことがなかったのです。幸いクリアシェルのデモ専用機ではあったものの試聴も可能でしたので、そのとき持っていた唯一使える水準のプレイヤー、ONKYO DP-CMX1で試聴させていただきました。
標準添付のイヤーチップは個人的には好きではないComplyでした。それもあり、低域は結構強いなというのが第一印象でした。ただ、普及価格帯の低域重視モデルとは異なり、籠もりのようなものはなく重量感とパワー感のある低音がどっしりと存在しているという印象です。そして中域のヴォーカルやアコースティックギターの音色は素晴らしいものがありましたし、高域は量こそ少なめなものの緻密でクリアです。
一音ごとの質は極めて良いものでしたから、使いこなしでフラット方向に持って行ければ素晴らしいものになるのではないかと思い、値段に若干気後れしながらも結局購入してきました。
処分価格になる前はこの値段(94,920円)だったようです。実際にはもう少し値引きされた上での半額でした。
前述の通り、フラットな方向に持っていこうと考えた結果として、添付のケーブルやComplyは使わず、他の組み合わせを試すことになります。
小音量でも音場が崩れない
購入時の試聴ではONKYO GRANBEAT DP-CMX1を使いましたが、アンバランスケーブルの選択には手持ちのポータブルオーディオ機器として最も駆動力に優れる、ONKYO DAC-HA300を主に使いました。DAC-HA300で鳴らした方が中~高域方向が明瞭になり、ローブースト感がいくらか緩和されるのです。
また、イヤーチップは標準状態で数種類試した結果、Acoustune AET08が割合しっくりきたので、ケーブル選定の間はこれに固定します。
標準添付ケーブルは低域方向は良いのですが、音場が意外と広がらず楽器の質感もさほど感じられません。デモ機のケーブルとは少し違っていたのか、デモ機よりは明らかに質が落ちます。
そこで普段AR-E100で使っているBispa <咲>を使ったところ、濃密な空間がそこそこの広さも伴って展開され、U4が本領を発揮し始めます。ただ、<咲>もやや高域方向が落ちるケーブルですので、どうしても分厚い低域に対して高音の絶対量が不足します。
高域が強めのケーブルということで、次にSoundsgood A2を試してみましたが…。
意外なことに全く相性が良くありません。確かに高域はよく出るのですが、音場の密度がいきなり薄まってしまったのです。この組み合わせではU4の良さが消えてしまいますので、直ぐに諦めました。
そこで今度はケーブルの色づけを感じさせないことが最大の特徴である、Estron Linum musicを使ってみました。
結果的にはこれが大成功で、低域と高域のバランスはかなり改善されました。取り敢えずはLinum musicで常用することにします。なお、バランスケーブルは選べるほど種類を持っていませんので、後日U4に見合ったケーブルを別途用意したいと思います。Linum musicで使っていたSavantは、差し当たってBluetoothケーブルでワイヤレス化しておこうかと…。
さて、最初にイヤーチップをAcoustune AET08に固定したのですが、もう少し相性の良いものを探してみましょう。
まず普段万能型として重宝しているSpinFitですが、U4にはしっくりきません。ノズル先端がイヤーチップの開口部からあまり奥まってしまうと、低域が強調されすぎてしまうのです。
かといって、SENNHEISER IE60用では、今度はノズルが飛び出してしまいイヤーチップの意味がありません。
意外なほど好相性だったのは、audio-technica ER-CKM55でした。たまたまクリアタイプのMサイズを買ってありましたので、これを装着します。
この組み合わせでは低域の明瞭度がより上がることで、無駄な低域がそぎ落とされる印象なのです。高域方向も少し増えて、結果的にはどっしりとしたピラミッド型に落ち着いたという印象です。
ここまで追い込んだ時点で、改めていろいろなソースを聴いたのですが、大音量時以上に小音量でのバランスの良さが強く印象に残ります。64 AUDIOのイヤフォンが搭載する「もう一つの鼓膜」APEXモジュールが効果を発揮しているのでしょうか。Michelleなどは自然と音量を上げたくなる音質傾向なのですが、U4は音量をさほど上げなくてもじっくりと音楽に浸れます。
この辺りまで来ると、単に低域が出ているとか高音が綺麗だとか、そのような単純な次元では評価できません。ヴォーカルの余韻で思わず辺りを見回してしまうような生々しさ、ギターの弦が震えている様子、そういったものが頭の中に展開されていきます。
今までイヤフォンではどうしても何かしらの欠点が見えてしまうことが多かった、David Garrettのヴァイオリンも、不自然さを見せることなく楽しませてくれます。分析的に聴けばかなり緻密かつ微細に表現しているのですが、U4で曲を聴いているとそんなことはどうでも良くなってくるのです。
もっと早く聴いておくべきだった
U4は元々10万円前後で販売されていた機種で、64 AUDIOのユニバーサルモデルとしては中の下程度の存在です。
しかし、今まで聴いた多くのイヤフォンとは格の違いを感じるほど圧倒的に「音楽」を奏でてくれます。優秀録音盤や器楽曲は勿論、アニソンを聴いてもこのイヤフォンは素晴らしいのです。
例えば「夢で夜空を照らしたい照らしたい / Aqours」を聴いてみると、曲の中盤からは殆ど全ての場所を複数人のメンバーで歌っている曲なのですが、それが誰の声なのかということが、特に集中して聴いていなくても完璧に聴き取れるのです。それだけ空間がきちんと把握できてしまうと、歌っている光景が見えてくるかのようなリアリティを感じさせられます。
もっとも、標準添付のケーブルとイヤーチップの組み合わせであれば、ここまで素晴らしいとは思わなかったでしょう。決して安物というわけではないのですが、添付品がイヤフォン自体の魅力を少なからずスポイルしているのは少々残念です。もっとも、このクラスを買う人は、最初からリケーブルを厭わないでしょうけれど…。
今まで試聴できる機会は何度かあったのですから、敬遠せずに聴いておくべきだったと今になって後悔しています。聴いていなかったからこそ、物欲がわかなかったという意味ではプラスだったのかも知れませんが。
64 AUDIOは現在U12以下のモデルは殆ど製造を完了してしまい、より高価な方向にシフトしてしまっているようです。そう考えると元々10万円クラスのモデルとはいえ、むしろコストパフォーマンスの高いモデルだったというべきでしょうか。少なくとも私は完全に満足してしまっています。
-
購入金額
42,890円
-
購入日
2018年03月09日
-
購入場所
ヨドバシカメラ
harmankardonさん
2018/03/16
良いですね.
私も64Audioは聴いたことありません.
>U4に見合ったケーブルを別途用意
恐ろしい言葉です...
jive9821さん
2018/03/16
有難うございます。満足度は高いものの価格も相応に高いブランドですので、果たしてこれを知ったことが良かったのかは…。
アンバランスケーブルとして組み合わせることに決めたのがLinum musicですから、バランスだからと言って特に高いものを入手するつもりはありません。ただ、一応今回はeイヤホン辺りできちんと試聴して決めようかと…。