レビューメディア「ジグソー」

人生変えた盤(のひとつ)

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽にしろ画にしろ小節にしろ、芸術作品は時にその人の指向性/嗜好性を大きく変えることがあります。自分にとって新たなジャンルとの出逢い(もしくは再会)となった作品をご紹介します。

KENSO。日本のプログレバンド。

プログレ...つまりProgressive rockはその発生のころ(1970年前後)は内外多くのグループが活動していたし、1980年頃には最後の大花火たるPink Floydの“The Wall”、プログレのエッセンスを凝縮した「3分プログレ」のASIA

や“90125(ロンリーハート)”で華麗な復活を遂げたYESといった往年のスターバンド、もしくはその経験者によるバンドがひしめいていたが、1980年代も後半になるとプログレの退潮は明らかになり、フュージョンやジャズロックへと世相は移っていき、日本にあまたいたプログレバンド(四人囃子や美狂乱、Novelaなど)も活動停止を余儀なくされた。これらのバンドのいくつかは近年、再結成・再始動などでもう一度活動し始めているが、活動の「濃さ」はともかく、1980年から継続して活動し続け、むしろ国外でカルト的人気を誇っている日本のプログレバンドがKENSO。

リーダーの清水義央の出身校の名(神奈川県立相模原高等学校)から名付けられたKENSO 、清水は現役の歯科医であり、バンド活動は実入りより支出の方が多いとのことで、それゆえKENSOはセミプロバンド、もしくはアマチュアバンドに分類される。他のメンバーの多くはプロミュージシャンであり、清水のテクニックも高いので、「技量的にはプロ」なのだけれど、それを生業としていないという意味で。

そんな彼らのメジャーデビューアルバムが本作、“KENSO”。実はインディーズでの最初のアルバムタイトルも“KENSO”だったので、それと区別するため“KENSO (Ⅲ)”とか“KENSO (3rd)”などと表記されることもある本作だが、インディーズ時代のヴォーカル入り楽曲も含んだ楽曲とは違うテクニカルでまとまったインスト曲と、清水に加えて今でもメンバーであるキーボーディストの小口健一や、今は正式メンバーではなくなっているが節目節目のライヴなどには協力しているドラマーの山本治彦などが揃っており、KENSOとしての「音」の核が完成したこの作品こそ「現在のKENSOに続くKENSO」としてのデビューアルバムと言えるかもしれない。

クラシカルな導入に続いて、変拍子の高速ユニゾン/キメを挟んで、導入部のテーマが緊張感あるリズムとともに繰り返される「Sacred Dream I (聖なる夢 I)」。今でも繰り返し演奏されているこの曲の中間部の変拍子のグルーヴは「シャイニン・オン 君が哀しい」をヒットさせたポップグループLOOKと掛け持ちしていた山本による。

当時購読していた雑誌の関係で自分がKENSOを識るきっかけになったリットーミュージックの「マイ・サウンド・コンテスト」作曲・編曲賞受賞曲=「Power Of The Glory」。イントロからしてリズムマシンで機械的にはじまり、フィルインの部分で山本のタム回しにすり替わり曲に入るのがさすがのアレンジ。クラシカルな色調とキメの応酬が繰り返される導入部から、一度根元響子のオーボエなどが入って緩やかになりリズム的「だまし」があった後、山本のダイナミックなドラムスで旧に復するというしっかりとまとまった構成。

「Turn To Solution」は日本プログレ界で既に名を馳せていたSense Of Wonderの難波弘之

をゲストに呼んだ6分超の大作。全体として緊張感のある変拍子曲なのだが、リズムが一度緩やかになって壮大なイメージになる中間部で清水と掛け合いのソロをとるのが難波のシンセ。ここは難波の歌心あるラインに清水の緊迫感ある泣きのフレーズが絡んでとても良い。

他の曲もユニゾンや変拍子などのテクニカルな面と、どこか「和」を感じさせる懐かしいメロディといった情緒面とが比較的コンパクトにまとまっており、さまざまな曲調をつなげ合わせただけの冗長な「いわゆるプログレ」にはなっておらず質が高い。それまで高校時代の先輩に手ほどきされたプログレから離れていたのが、これを起点にEmerson, Lake & PalmerやGenesisに改めて遡るきっかけともなったので、cybercatの音楽的嗜好の中にテクニカル系プログレというジャンルを埋め込んだ作品。
プログレ系としては王道のCRIME(NEXUS)レーベルでデビュー
プログレ系としては王道のCRIME(NEXUS)レーベルでデビュー
ある意味プログレ「再発見」のきっかけとなった作品です。

【収録曲】
1. Sacred Dream I (聖なる夢 I)
2. Power Of The Glory
3. The Breeze Whispered Through My Mind(微風が...)
4. Far East Celebration
5. La Liberte De L'esprit (The Liberty Of Spirit)(精神の自由)
6. Patter Of The Groovy
7. Turn To Solution
8. Nostalghia
9. Sacred Dream II(聖なる夢 Ⅱ)
10. Beginnings(胎動)
11. Sea(海)[Live/Bonus Track]

「Power Of The Glory」

  • 購入金額

    2,884円

  • 購入日

    1989年頃

  • 購入場所

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