山崎まさよし。ミュージシャン志望だったのに、役者として世に出た面白い男(←どうもオーディションを間違えたらしい)。今でこそ、秦基博やさかいゆう、かつてはスガシカオなど存在感があるアーティストを抱えるオフィスオーガスタ所属だが、最初に所属したキティ・レコードの経営難でデビューまでにはかなりの紆余曲折を経ている。
その分?彼の書く詞は鋭い。ただその鋭さはスガのような世の中の不条理や男女間の行き場のない情念をえぐり出すような鋭さではなく、日常に潜むみんなが感じる心の流れをスパッと切り出したような鋭さ。
多作な彼は現在デビューほぼ20周年だが34枚のシングルを出している。その半ばに位置する16枚目のこの作品も、そういった「特別でない」日常の心情が切り取られている。
スチールギターっぽいボトルネック奏法で始まり、ちょっとサザンロック調の雰囲気がある「僕と不良と校庭で」。♪突然の君の便りは懐かしい不器用な文字と/どこか遠い国の空の絵葉書/あの頃やがて僕らも大人になると思ってたけど/はっきりとした未来は描けずに過ごしていた/校舎の上に広がる5時限目の空/退屈な世界史より風に揺れてる窓の外ずっと見てた♪なんかこんな時代あったなァと振り返り、山崎の歌詞を、歌を追っているのに気づく。この曲はドラムスなども入っているが基本全て彼のひとりバンド(ちなみに山崎はアマチュア時代はドラマーだった)で、あまり華美でない曲の造りが彼の切り取った心情をダイレクトに伝える。
心の奥で鈍くきらめく過ぎた想い出を歌う「最後の海」。尖った言葉は使われていないンだけれど、刺さるなぁ..♪電車を乗り継いで君と海に行ったのは/夏も終わりに 近づいたいつかの昼下がり~あの時君に何か言おうとしてみたんだけれど/わずかな命を焦がしてる蝉の声にじゃまされた/太陽が傾くまで君は波と戯れてた/細い君の後ろ姿をテトラポッドから見てた♪こちらの演奏はもっとワンマンっぽさが光る。最小限のパーカッションとアルペジオ中心の生ギターが淡々とした山崎の声を支えるが、華は間奏に使われるハーモニカ。これは上手い。
DVDは「僕と不良と校庭で」のPV。公園でギターをつま弾きつつ歌う山崎の姿に、公園で咲く花、孫とボール遊びをする老婆、団地のキワを走る線路、子ども達が漕ぐブランコといった「“懐かしい”日常」を挟み込む前半~後半はスタジオワークのカットが中心になる。最後にはメイキングも付いている...というものだけれど、基本彼の曲は一人でのマルチプレイが中心なので、後半のレコーディング風景は要らなかったかも(レコーディング風景が面白いのは、メンバーのぶつかり合い-意見衝突だけではなく、技術や感性のぶつかり合いも含め-をしながらも、一つの良い作品を創り上げていく過程の風景なのだが、全楽器セルフプレイなので制作陣との意見交換くらいしかない)。表題曲とカップリング曲、ともに「詩人」山崎まさよしが感じられる。そこで歌われる景色は特別なものではなくて、でも、大切なもので。大切なものは日常にある-そう感じさせてくれる作品です。
【収録曲】
<CD>
1. 僕と不良と校庭で
2. 最後の海
3. 僕と不良と校庭で (original karaoke)
4. 最後の海 (original karaoke)
<DVD>
1. 僕と不良と校庭で (video clip)
「最後の海」
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購入金額
290円
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購入日
2012年09月30日
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購入場所
Yahoo!オークション
フェレンギさん
2017/10/23
cybercatさん
2017/10/23