リチウムイオン(Li-ion)バッテリーの直列セル間の電圧差を解消するためのモジュールパーツです。
バランサーと呼ばれます。
この基板1枚で4直列まで対応できます。5直列以上の場合は複数を使用します。1直列あたり18650タイプで4セルくらいまでの並列を想定した設計かと思われます。
#パワーウォール #powerwall
※ ここでは、バッテリーのセルを並列接続したものをさらに直列に接続したものをアレイと呼びます。業界の習慣として、アレイの大きさは、たとえば3並列x7直列の場合、7S3P と表現するようです。
※ また、ここではアレイのうち並列部分のことをバンクまたは並列バンクと呼びます。
バランサーが必要な理由
一般に、バッテリーを直列にして充放電する場合、直列のどの段(バンク)にも同じ大きさの電流が流れます。ところが、バッテリーには個体差が必ずあるので、何の管理もせずに充放電を繰り返していくと個々のセルの電圧の差は広がる一方になります。
Li-ionバッテリーでは、放電は3.0Vを下限とし(放電終止電圧)、充電は4.2Vを上限とします(充電終止電圧)。この範囲を超えて使用するとセルの寿命が極端に短くなったり、セルが使用不能となります。アレイ中に使用不能なセルが発生すると、アレイ全体が機能低下します。
特に、充電終止電圧を超え充電を続けると(過充電、オーバーチャージ)、セルの発熱や膨張、発火などの原因となるので、設計上最も注意しなければならないポイントの1つです。
何のバランスを取るのか
バッテリーアレイの並列バンクどうしの電圧差ができるだけ小さくなるようにバランスを取ります。
ちなみに、並列バンク内はセル間のバランスを取るために機構を設ける必要はありません。
アレイを組む前に行うセルの選別工程で、一定程度(この実験では少なくとも1100mAhくらい)の充放電能力が確認できれば3000mAh近い能力があるセルと混在し直接接続して並列バンクを形成しても差し支えないようです。*
充放電動作中に並列バンク内のセルで電圧差が生じた場合は、自然と電力の授受が行われます。このときの電流は、アレイ全体に対して行う充放電の電流とくらべると十分に小さい値です(アレイが安定稼働ししている場合)。
ただし、アレイを組む時点ではセル間の差を小さくするためにどのセルも満充電の電圧に揃えておきます。そうでないとセル間で電流が発生してしまい、当「マイ・パワーウォール」のバッテリーホルダのようにセルごとにヒューズ機構を設置している場合は、状況によってはその機構が働いて復旧が面倒になるからです。
*性能が異なるセルを並列接続しても差し支えないことについて
組電池を形成する場合、本来は、同じ性能のセルばかりを集めるのが定石だしそれが理想です。しかし、並列に接続する場合には性能がある程度バラついていても差し支えないとわかりました。
充放電終始電圧の管理は並列バンクをひとまとめにして行えばよいということです。
これは急速充放電(セルあたり1A以上)の場合には妥当しないかもしれませんが、実際、12セルで構成する並列バンクで充放電能力(バッテリー容量)が1100mAh~3000mAhくらいのセルが混在した状態で数十回の充放電(アレイ全体で最大1.5A程度まで、セルあたり100mAくらい)を繰り返した後、バッテリー容量と内部抵抗を使用前後で比較しましたが、顕著な劣化は見られませんでしたし、充放電動作にも問題は見られませんでした。
ただし、充放電能力が混在したバンクでは、セル性能は平均化され、能力の高いセルの性能が発揮されないと推測されます。
このプロジェクトでは、中古セルを寄せ集めてアレイを構成していることもあり、タイトな性能追求は二の次にして安定して稼働できることを優先するという考えなのでこれでよしとします。
バランスを取るという概念
すべての並列バンクが同時に放電終止電圧や充電終止電に達することが理想です。
実際には、バンクの内のどれかが早く終始電圧に達します。
バッテリーアレイにはBMSというコントローラが別に接続してあり、7直列のアレイの場合、
充電時、
- どれかのセル(並列バンク)が 4.20Vを超える
( 4.17V~4.25Vの範囲で設計されているようですが、手元の実機では近くまで4.25Vまで充電できています。)
放電時、
- どれかのセル(並列バンク)が 2.75V(同、2.67V~2.83V)を下回る
という条件で、充電電源または負荷回路とバッテリーの接続を切るしくみとなっています。
充電時に、どれかのバンクが充電終止電圧に達して充電が中止されると、他のバンクは充電未了のままとなります。このまま放電フェーズへ移行すると、充電未了のセルほど放電終止電圧に早く達し、この時点ではまだ放電終止電圧に達していないセルが存在します。
このような状況は、アレイとしてみかけの充電容量が減少することと同義と言うべきであり、装置としてもったいない事態です。
そこで、バンク間のバランスを取るための方法の一つとして、早く充電終止電圧に達したバンクだけにダミー抵抗を接続して一定程度(実際には0.1~0.15Vくらい)電圧が下がるまで電力を熱にして放出する方法があります(パッシブバランス)。
パッシブバランスでは、せっかく発電した電力のうちアンバランスの原因となる過大な分を熱に変換して捨ててしまうので、もったいない仕組みとも言えますが、エネルギーのロスよりもバッテリーの安定使用を優先する必要性の方が大きく、回路機構がシンプルなので小規模レンジの商業製品でよく採用されています。
他に、早く充電終止電圧に達したバンクから他のバンクに電力を送り込む方式もあります(アクティブバランス)が、ロスが少ない代わりに技術的難度が高いです。
なお、バランス動作は、充電終了後だけではなく充電中にも行われます。
充電のためにセルに加えられた電力がバランサーによってダミー抵抗へ迂回することになりますが、迂回できる電力は充電用に供給される電力に比べてわずかなので、充電を打ち消すほどではなく、セルの充電は遅れこそしますが、BMSによるコントロールで停止するまで充電は進みます。
このモジュール
Li-ionバッテリーのパッシブバランスを実現するための専用IC(HY2213-BB3A)が採用されています。
データシートによると、4.200±0.025Vで過充電状態を検知し、 4.190±0.035Vで検知した状態を解除します。検知結果はHアクティブとして、 NチャンネルMOS-FETを動作させるための出力が得られます。
データシート;
http://www.hycontek.com/wp-content/uploads/DS-HY2213_EN.pdf
1セル(1並列バンク)用のICなので、アレイでは直列の段数分の回路を使用することになります。
HY2213 の出力は、HM2302A というMOS-FETへ渡され、 MOS-FET がONになると、充電中のバッテリー(バンク)と620Ωとで回路ができ、放電が開始されます。
このモジュールの電源は、外部電源を必要とせず、対象とするセルの電力を利用します。とはいえ、数μAで稼働でき、かつセルの電圧が下降中はスタンバイモードに入りほとんど電力を消費しないので、Li-ionセルの充放電への影響は最小限です。
ただ、モジュールに実装されたダミー抵抗が620Ωなので、4.2Vに対するその電流はたった0.006Aと計算でき、放電量はわずかです。セル数が少ない場合は、このような小電流の放電で足りるのですが、実験中のアレイは12並列x7直列なので、さらなる放電能力が必要です。
※ 後日追記
「4.2Vに対して620Ωなので、その電流はたった0.006A」と書きましたが、セルの内部抵抗(18650セルの場合100mΩ前後、劣化すると増加する)を考慮すると、1セルのバランサーとして使用する場合は、もっと流れるのかもしれません。販売サイトの説明には67mAとあって誤記ではないかと思っていましたが、実測確認をしておきたいと思います。
並列セルを対象にする場合は、バランサーから見てバッテリーの内部抵抗は並列数が多ければ多いほど見かけ上減少するので、ダミー抵抗の値から計算できる分の放電ができると思って正しいはずですが、意図したとおりの放電ができているか実測しながら進めたいと思います。
2017/09/14
追記ここまで ※
7S12P用の実験
そこで、元々実装されている620Ωの抵抗に56Ωを2個並列してみました。
合成抵抗は、約27Ωとなり、計算上0.15Aの電流で放電できるようになりました。
実測グラフからわかること
アレイ全体の電圧経過を表わすグラフです。
理論値で最大電圧は29.4V(4.2V x 7直列)、最小電圧は21.0V(3.0V x 7直列)です。
(電源が太陽光パネルなので、日の出から日没まで充電が行われますが、拙宅は東向きなので午後からの充電量はわずかです。)
縦軸が電圧(27.5~29.5V範囲、0.5V目盛)、横軸が時間(このグラフは6日間の範囲)です。
たとえば、1日目、開始電圧27.8Vで午前6時頃から充電がはじまり、午前10時頃28.82Vで充電が終了しています。
アレイ全体で29.4Vに達していないのに充電が終わったのは、どれかの並列バンクが4.25Vに達したためBMSがコントロールした結果です。
並列バンクどうしの電圧差がもしもっと大きければ(バランスが悪ければ)、まだ充電が進んでいないもっと早い時点で充電終了となっていただろうし、もしもっとバランスが良ければさらに充電を進めることができていたことになります。
グラフで充電が終了したとき、4.25Vに達したバンクのバランサーはすでにONになっていて、放電を開始しています。
午後8時くらいまで緩やかにアレイの電圧が下がっているのがバランサーによる放電です。
バランサーによる放電が終われば、電圧は一定になり(この日は28.50V)、このとき各並列バンクの電圧差は、充電終了時点にくらべて小さくなっています。
バランサーによる放電以外に電圧が降下している部分は、LEDライトなどで電力を消費している部分です。
2日目は日照が少なく充電が少なくバランサーも発動していませんが、次の3日間は充電終了時の電圧が上昇(28.82V → 28.99V → 29.02V → 29.12V)とバランサー動作後の電圧も上昇(28.50V → 28.55V → 28.66V)しています。
これはバランサーの効果により並列バンク間の電圧差が小さくなっていくことで、充電終了電圧が理論的な最大値に近づいていると説明できます。
理論的には、仕様上の充電終止電圧29.4Vを超えてで充電が終了し、バランス動作後にもさほど降下せず29.4V近くで持続するはずです。
バランサーの動作として、グラフのように充放電を繰り返すほどに並列バンク間のバランスが整っていくのが理想なのですが、長期的な現実でどうなるのか実験は続きます。
実機へ向け実装
この後、
- 改造バランサーをユニバーサル基板で作成する予定です。
⇨ 製作しました。(2017/09/26)
- 7S20P 以上のアレイに拡大した場合もこのモジュールを使用して抵抗だけ増やせばよいのか、他の方法を検討する必要があるのか、試して行きます。
4枚 4.8 USD
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購入金額
132円
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購入日
2017年07月頃
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購入場所
Aliexpress
supatinさん
2017/09/13
(*・ω・)*_ _)ペコリ
18650がこんなに沢山結線されてると素人的には恐怖を感じてしまいます
特性を理解したうえで状態をモニタしてるからこそ運用可能なんでしょうね
まるでラボラトリーのような景観 流石です
(*´꒳`*)
ちばとどさん
2017/09/13
たしかに壮観にみえますよね。今、84本のセルで実験しています。もちろん、初めて通電する時は恐る恐るでした。計算上大丈夫でも現物でどうなるか、何があるかわからないので。
> 特性を理解したうえで状態をモニタ
理解というか体感かもしれません。これくらい電流を流すとセルがどれくらい温まるとか。
モニターは実験という目的上、実機よりも詳細にしています。
過電流対策は1セルごとに行っています。
だから絶対安全というわけではないですが。
昨日も山手線車内で発煙させちゃった若者がいましね。
製品の設計が余裕のない設計だったのかなと思います。
または、取り扱いで原因があるとすれば、過電流と外力によるセルの変形くらいです。
設計者も、利用者もちょっと気をつけていれば安全なのにと残念に思っています。
思い通りに電気が溜まっていくのがわかると楽しいですよ\(^o^)/
aPieceOfSomethingさん
2017/09/13
ちばとどさんのバッテリーネタはいつも楽しみにしています。
今回は、バランサー基板なんですね。しかも激安。1枚1.2USDですか..。
Aliexpressってなんでも売ってるんですね。感心しました。
改造バランサー基板も楽しみにしています。
ちばとどさん
2017/09/14
今の関心事がバッテリーなのです。おつきあいありがとうございます。
どのあたりがゴールになるか、はたまた たどり着けるのか、ゆるやかに進めています。
バランサーやらモニターとかBMSとかDC-DCコンバータとかいろいろ仕掛けが必要なのです(4つのうちあとの2つは近々レビューしたいと思います)。
これらがオールインワンでできたり、またはまったく不要なバッテリーが出現すればなぁと思う今日このごろです。