渡辺貞夫(ナベサダ)。Dave Grusinらと創った“カリフォルニア・シャワー(1978年作)”のヒットと男性化粧品のCFでのダンディな振る舞いで人気と知名度も高く、1980年代初めはフュージョンの大御所扱いで人気を博したが、彼の芸風?の中では「フュージョン」はむしろ異端気味で、本拠地はジャズ。ジャズもド本流からラテン、ボサノヴァ、アフリカンまで幅広い。
そんな彼の広いジャズフィールドの一角にフリージャズがある。時代は1970年ごろ。その時点で既に10年以上のキャリアを積んでいたナベサダは本場アメリカのミュージシャンとセッションをする。
組んだのはMiles Davisから離れたばかりのキーボーディストChick Corea、Weather ReportのオリジナルメンバーであるベーシストMiroslav Vitous、Milesのところで数多くの名演を残したドラマーJack DeJohnetteの3人。いずれも腕と華と癖と個性のいずれもを兼ね備えた一流プレイヤーで、火花が感じられるような作品が創られた。
まず「Round Trip: Going & Coming」。1曲でこのアルバムのほぼ半分の長さ(20分3秒)という大曲。これぞフリー。スタートの時点で既に全力疾走。ナベサダが吹くのはソプラニーノサックス(ソプラノサックスよりさらに高く、アルトの1オクターブ上)で、暴れまくる他の3人を鼓舞するハーメルンの笛吹き男の様相。音色が低い方はまるで電子楽器のような風情で音色も豊か。若手プレイヤーががっぷりと四つに組んだ緊張感がハンパない。最初の1分ほどはまだ4ビートの核があったが、その後は滝のような流れ落ちる音で左側で弾きまくるChick、中央で細かく刻んだノリを出したり、寄せては返すような緩やかなグルーヴを形成したり、自らソロで引っぱったりと忙しいMiroslav、右端で叩きまくり埋めまくるJackに、ナベサダは中央で叫びまくる(ソプラニーノを使っているので高い音はまさに叫び)。かなりフリーな演奏で、テーマも何もないのかな...と思いつつ聴いているとちょうど中間地点の10分あたりで意外にキャッチーな8ビートパターンが呈示(「Going & Coming」部分?)。後半は再戦と言う感じでさらにキレまくった4人の闘いがw
「Nostargia」はナベサダのフルートが奏でる郷愁感あふれるメロディにChickがピアノで絡む小品。1分少々の曲だが、聴くというより神経張り詰めて対峙しなければ良さが理解しづらい1曲目で疲れた?神経を慰める優しい曲。
「Pastoral」はナベサダの代表曲の一つだが、このアレンジは変拍子風に刻むJackのパターンとMiroslavのちょっと音痴?な感じの弓でのプレイがエスニックな感じを出していて、Chickのガチャッとした金属音を含むピアノ(グランドピアノの弦になにか金属製のモノを乗せていると思われる)も含めてガムランみたいなイメージもある。ナベサダは前半はソプラニーノだが、後半はフルートに持ち替える。それが曲調的に意外な感じで面白い。
一発録りらしく、Miroslavのベースのボウイングで若干音程が怪しいところがあったり、ナベサダも吹き切れていない所もあったりするが、テーマを自由に語っていくフリージャズの世界で「闘っている」4人の気合いと気迫が感じられる作品。「音」を追うのではなく、「流れ」を感じて聴きたい、そんな作品です。
【収録曲】
1. Round Trip: Going & Coming
2. Nostargia
3. Pastoral
4. Sao Paulo
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購入金額
1,500円
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購入日
1992年頃
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購入場所
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