中西圭三。昨年(2016年)芸歴四半世紀を迎えたベテランヴォーカリスト。ここのところめっきりオリジナルアルバム/シングルのリリースからは遠のいているが、他者のサウンドプロデュースやライヴでは現役。近年では「ぱわわぷたいそう」や「ぼよよん行進曲」といった子ども向けの楽曲も多いが、デビュー当初は久保田利伸、米倉利紀らと並び称されるほどファンキィな系統の音楽を歌っていた。
この作品はデビュー6年目の6枚目のアルバム。実は後から振り返るとこのあたりが彼の転換点かも知れない。...いや、子ども向け楽曲へという意味ではなく。
歌うが上手いシンガーはどうしてもバラードのように「聴かせる」曲調を徐々に重視する形になりがちだ。そして彼もまた。デビュー時はかなりキャッチーでダンサブル、ビートの効いたファンキィな曲を歌っていた彼もこのあたりからバラードの比率が高くなってくる。
2曲目と3曲目は制作陣が完全に同一(作詞が村野耕治、作曲が中西と佐橋佳幸の共作でアレンジが佐橋)なので傾向が似ているが、これが本来の中西節。ちょっとコミカルでファンキィ、そしてエレクトロな方向ではなく、アコースティックな部分を強く持つ感じ。特に「KISS AWAY」は短くぶった切ってサンプリングされた"アッ"という声がパーカッション的に使われているがそれと対比されるようなメロウなコーラス、間奏のギター主体の変拍子リフとそれに続くギターとキーボードのユニゾン(ギターシンセ?)のメロディアスなソロの落差がおもしろい造り。
「次の夢」は美しいバラード。アレンジも手がける小田和正のピアノと佐橋のアコギとが絡み合いながら中西のメロディを支える。サビ途中から入るコーラスがちょっと一般的なコーラスの付け方でないのが小田の感性か。アウトロの佐橋のエレキギターソロもいい音で良く泣いている。
「What I Do For Love」。この曲がこのアルバムの中での一番の売りかな。デュエットの帝王Peabo Brysonとのデュエットで、メインのアレンジと打ち込みはPhil Collinsの所にいたこともあり、Zappa御大から手ほどきを受けたというBrad Cole。さらに出だしから壮大なオーケストラルアレンジはMichael JacksonやCeline Dion、Whitney Houstonらも手がけたRandy Waldmanというバラード系なら当たらないワケないだろの布陣。さすがに歌うまい二人のデュエットは素晴らしい。打ち込みながら「カリン」とした感じのエレピの音が美しい。
確かに中西は歌は上手いので良質な作品。特にバラード系は何曲もあるのに方向性が違い飽きさせない。でも彼の書くキャッチーでファンキィな曲が陰に隠れてしまったのがちょっと。
この時彼はまだ30ソコソコ。
もう少し弾ける曲を歌って/書いてもらいたかったなって。
【収録曲】
1. それぞれの地平線
2. BORN FREE
3. KISS AWAY
4. 次の夢
5. What I Do For Love(Duet with Peabo Bryson)
6. Happy Ever After
7. SUNFLOWER
8. NAVI
9. 破壊
10. MUST BE HEAVEN
11. 星に願いを
「What I Do For Love(Duet with Peabo Bryson)」
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購入金額
3,000円
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購入日
1997年頃
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購入場所
jive9821さん
2017/05/22
ピーボ・ブライソンが参加しているというのは初めて知りました。たぶん中古盤なら捨て値になってしまっていると思いますので、そのうち買ってみます。
cybercatさん
2017/05/22
Peaboはいろいろな大物とデュエットしましたので、ま、「出稼ぎ」のひとつにすぎないのかもしれませんし、中西の制作側にとっても「Peaboの名を借りた看板効果」を狙っただけだったのかもけれど、それでも張り合えるだけの歌を歌える中西はあのころ輝いていたかなって。