ONKYO GRANBEAT DP-CMX1のプレミアムレビューをさせていただくに当たり、バランス接続とアンバランス接続の違いを検証すること、そしてハイレゾ準拠モデルの音質を体感することを目的としたと思われる添付品として用意されたのが、このSE-MHR5となります。
この製品は実売価格で2万円以下という価格帯に投入されましたが、このクラスは各社のメインストリームクラスの製品が顔を揃える所であり、最もコストパフォーマンスに優れた製品が並ぶという、競争の激しい価格帯となります。
私が今までにレビューを掲載した製品で言うと、大体以下の製品が同クラスとして扱われるでしょうか。
ただ、SE-MHR5はヘッドフォンとしてこれらとライバルとなる実力を持つ一方で、折りたたみ構造による携帯性の高さを併せ持ちます。
上記ライバル製品はFOSTEX T50RP mk3n以外はハイレゾロゴ取得製品であり、製品としてのターゲットは割合近いところでしょう。そこで、今回はこれらの製品との比較試聴を中心にレビューを進めたいと思います。
程々の質感とスッキリとまとまったデザイン
それでは、音質の前にまずは外観をチェックしてみましょう。
パッケージは製品写真とメーカーロゴで構成されたシンプルなデザインです。これくらいの方が「最優先されるのは音質」というイメージがあり、個人的には好印象を受けました。
内箱は白く、「Pioneer」ロゴが金色でプリントされています。
内容物を並べてみました。ヘッドフォン本体は手前にあるキャリングケースの中に畳まれた状態で収納されていました。ケーブルは着脱式のものが2本添付されていて、それぞれ3.5mmステレオミニプラグ(アンバランス接続用)、2.5mmミニミニ4極プラグ(バランス接続用)が1本ずつとなっていて、これもキャリングケースのポケット部に収納されていました。
本体のハウジングはアルミ製で強めの光沢があります。結構見た目は良いのですが、傷や汚れは割合目立ちやすいかも知れません。折りたたみ構造という事から考えても屋外に持ち出すことを想定した設計と思われますので、外観を気にするのであれば取扱は極力ソフトにした方が良さそうです。
SE-MHR5は密閉型ヘッドフォンではあるのですが、両方のハウジングにこのようなエアダクトのようなものがあります。
これはメーカーの製品情報に説明があるのですが、2重のチャンバー構造によって空気の流れをコントロールして、不要な反射を低減すると共に遮音性を確保するという構造となっているのだそうです。確かにダクトに耳を近づけると、ここから若干振動が感じられることがわかります。
外観上はクラス相応かやや上という質感があり満足度は高いのですが、少し気になったのはハウジングがほぼ円形であるため、装着感がアラウンドイヤー型とオンイヤー型の中間のような状態となってしまうということです。例えば同じ40mmドライバーを搭載するSONY MDR-1Rは完全なアラウンドイヤー型であり耳をすっぽりと覆う形で装着されるのですが、SE-MHR5はイヤーパッドが耳を潰すような形となってしまい、長時間使っていると少し疲れが大きくなります。もう少し外周が大きめに取られていればこの辺りは解消したと思われるのですが、携帯性を考慮すると仕方なかったのでしょうか。
個人的には、この装着感という部分がこの製品の数少ないウィークポイントという印象を受けます。
また、弱点というほどではないものの、ヘッドバンドの調整位置が独特で、慣れるまでは少々違和感を覚えます。
この写真でわかる通り、調整位置が頭頂部に近い位置であり、少し合わせにくいのです。しばらく使っているうちに徐々に馴染んではくるのですが、他の製品が大体ハウジング近くであるだけに少し気になりました。もっとも、折りたたみ機構との兼ね合いで仕方ないのかもしれませんが。
クラスを大きく超えるバランスの良さと音色の質感
今回はこの製品が想定していると思われるDAP用途の例として、Astell&Kern AK100IIを、据え置き用途の例としてFOSTEX HP-A8を、それぞれ利用して試聴を行います。AK100IIは丁度DP-CMX1と同じ3.5mmステレオ(アンバランス)と2.5mm4極(バランス)の2系統の出力を持ちますので、比較用として丁度良いでしょう。
鳴らし始めは弦楽器がまるで針金を弾いているかのような硬い音に感じられたのですが、3時間鳴らした辺りから随分落ち着き始めましたので、5時間使用後に試聴を始めました。今回は日常的に聴いているソースと環境でこの製品の音質傾向を掴むことを目的とした試聴となりますので、プレミアムレビューの対象機となるGRANBEAT DP-CMX1では試聴しません。
まずは最近試聴ソースの中心となっている、「Dangerous / David Garrett」です。これはLPから起こした24bit/88.2KHzのWAVです。なお、最近のこのフォーマットのWAVファイルは、KENWOOD KP-9010+ZYX R50 Bloomまたはaudio-technica AT33R+ALPINE/LUXMAN LE-109で再生したものをPCに装着したecho digital audio LAYLA 24/96で取り込む形で作成しています。
まず、HP-A8との組み合わせでは、いわゆるドンシャリ傾向を示します。ただ、特に低域側のピークはかなり低いところにあり、低域の強調感が籠りに繋がっていないことは好印象です。密閉型では低域を強調するとそれだけ音がこもることが多いのですが、この製品では適度に締まったパワー感のある低音が強めに出てくるという印象であり、不快感は全くありません。高域の強さはもう少し鳴らし込むことで緩和される可能性はありますが、現時点では少し強めに主張してくるというところです。
次にAK100IIを使ってみましょう。まずは比較対象機と同様のアンバランス接続のまま聴いてみます。
SONY MDR-1Rはこのクラスで随一の高域方向の解像度を持つ製品なのですが、それと比べてもSE-MHR5の高域方向の解像度は互角ですし、低域方向の解像度では大きく上回ります。ハウジングの癖や不要な反射を上手く抑えられているのか、音がほぐれてからはヴァイオリンの質感もこのクラスとしてはかなり高い水準となりました。この辺りは前述の二重チャンバー構造の成果なのかも知れません。
次に「Now / Chicago」(24bit/96KHz WAV)を聴いてみましょう。これはシカゴの公式通販でのみ販売されているフォーマットのファイルとなります。
こちらもベースの質感やヴォーカルなど、かなり高水準の音を出してくれます。低域は解像度が高く、それでいて重量感もあるというかなり質の高いものですし、高域方向もハイハットの金属感などがキチンと出て来ます。AK100IIとの組み合わせでは少しキレが鈍くなるのですが、これはAK100IIの音質傾向ですのでSE-MHR5自体はむしろ忠実にそれを再現しているということでしょう。
その後も色々な楽曲を再生してみましたが、総じてどの楽曲でも水準以上の音質を保っていて、その中でも録音の品質が高いロック系の音楽はかなり映えるという印象です。ヴォーカル重視の楽曲でも声の力がきちんと伝わってきて、聴いていて音楽を素直に楽しめる音質といえるでしょう。密閉型ヘッドフォンですから、音場は限られた範囲に濃い密度で構築されるタイプです。リスニング用としても充分に楽しめる音ですが、質が高くバランスも整った音ですのでモニター用にも充分使えそうに思えます。
ここで、AK100IIとの接続をバランス接続に変更してみましょう。バランス接続するためには2.5mm4極プラグのケーブルを利用します。
すると、よくバランスとアンバランスの比較試聴のレポートで「バランスにすると、かかっていた薄いヴェールを取ったように明瞭になる」という表現を見ると思うのですが、その意味がよくわかります。
ヴォーカルの存在感がぐんと増し、音場の全体に漂っていた余計な音が取り払われ全ての音が明瞭に聞こえてくるようになります。アンバランス同士でこれだけの変化をつけるのであれば、ヘッドフォンに数倍の金額をかける必要がありそうに感じるほどの変化です。
SE-MHR5の添付ケーブルはONKYO・Pioneerの各ブランドのほか、AK100IIのようなAstell&Kernのバランス出力に対応するものですが、オプションでも良いので他メーカーの形状も用意しておけばより魅力は増すのではないかと思います。特にSONYが最近採用した4.4mm5極はJEITA統一規格となっていて、今後採用モデルが増えることが予想されますので、これ用のケーブルはあっても良いようにも思います。
音質は文句なし。装着時の僅かな不満が無ければ完璧だった
まず、音質については私が(試聴機も含めて)使ったことがある範囲であれば、この価格帯で最高水準の音質と言い切ってしまって良いと思います。
例えばFOSTEX T50RP mk3nなどは、SE-MHR5以上に微細な音をきちんと再生してみせるほどの緻密さはありますが、アンプに対する要求が極めてシビアということと、帯域ごとの音質的な繋がりが今一つまとまっていない部分があることから、「音楽を再生する」という能力においてSE-MHR5の方に分があると感じます。
SE-MHR5の難点といえるのは、アラウンドイヤーになりきれていない形状により、耳が潰されて装着感があまり良くないということに尽きます。音質的にはこのクラスでは珍しいほど、聴いていて大きな不満を感じさせない音です。
但し誤解の無いように書いておきますが、例えば私が常用しているSENNHEISER HD650など、より高価な(数倍の価格差がある)製品と比較してどうなのかといえば、やはり高価な製品にはSE-MHR5以上の魅力があるということも事実です。生憎まだ試聴したことは無いのですが、PioneerブランドでもSE-MASTERという超高級モデルがありますし、それらには当然高いだけのメリットがきちんとあるということです。
本機の実力を端的に言うと2万円前後クラスの中であれば最良といえる水準、但し2倍以上の価格差が付いた製品と比べればやはり魅力は劣るというところでしょう。もっとも、2万円前後クラスはいわゆるマニア層以外の人が選ぶのであれば上限となる価格帯であり、そこにこれだけの実力を持った製品が投入されたということは、オーディオの裾野を広げる意味で大きな意義があるのです。
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購入金額
0円
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購入日
2017年03月12日
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購入場所
プレミアムレビュー執筆用提供品
harmankardonさん
2017/03/13
最近のヘッドホンは解像度高めでトランジェント特性がよくなっていますよね.
オンイヤーとアラウンドイヤーは結構違いますね.
SE-MHR5は,音創りの制約とポータブル性を優先したんだと思いますが,個人的にはアラウンドイヤーが好きです.
2.5mm4極バランスプラグの写真に,3.5mmステレオプラグの写真が載っています(同じ写真が2枚連続で).
jive9821さん
2017/03/13
まずはご指摘有難うございます。写真の方は差し替えました。
正直に言ってしまえば、この製品にはそれほど大きな期待はしていませんでしたので、この音質には素直に驚かされました。耳が潰されて長時間装着すると痛くなってくるということだけが惜しいのですが、実売価格2万円以下の製品としては極めて高い実力といって差し支えないと思います。バランス接続の効果も非常にわかりやすい程度に出てくれますので、確かに視聴用には適していると思いますね。