レビューメディア「ジグソー」

アナログ盤で購入した時と、CDで購入した時で印象が違った作品

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽作品ってその評価には受け手側(リスナー)の環境も影響します。1980年代、アナログ盤からCDに急速に移行した日本にあって、アナログ盤とCDを両方購入した...という作品も少なくありません。ただ同時に購入したことはなく、その間には数年の開きがあります。その数年でcybercatの環境が変わり、評価が変わった作品をご紹介します。

CASIOPEA。日本でジャズにロックやポップのテイストを導入したフュージョンシーンが隆盛を極めた1980年前後、最初はクロスオーバーと呼ばれたこのジャンルが、より明解な方向に行って「ジャパニーズフュージョン」として独自の発展を遂げた時にその中央にいたグループ。同時期に活動したグループの中では最も頭脳的で源流のクロスオーバーのテイストを残していたテクニカルバンド。ただそんな彼らもフュージョンシーンが衰退していった時期にはいろいろな試みを取り入れて自分たちの可能性を探った。

この作品もそんな感じ。メンツはいわゆる「黄金期」メンバーで、ギターの野呂一生、キーボード向谷実、ベース櫻井哲夫というデビュー時から変わらないメンツに、通算3作目でライヴアルバムだった“THUNDER LIVE”で加わったスーパーテクニシャン神保彰という鉄壁の布陣。ただ、フュージョンブームの最盛期に熱狂を持って迎えられた名盤“Mint Jams”

から時はあまり経っていなかったが、すでに音楽シーンは次のムーブメントに移りだしており、彼らも違うアプローチを模索していた。また、20世紀の日本は音楽的には後進国であり、外国(主にアメリカ)で受け入れられてこそホンモノ、という風潮もあったため、彼らも海外進出を模索していた。

そんな彼らが(企画アルバムともいえる“4×4 FOUR BY FOUR”を除けば)2nd以来となる外部ミュージシャンをがっつり入れて録ったのが本作“JIVE JIVE”。かなり黒っぽいファンキィな造り。それまでの端正で理知的でどちらかといえば線の細いCASIOPEAの音ではなく、温度感のある太い音。でもそれはT(HE)-SQUAREのハードな音でもNANIWA EXP(RESS)のワイルドな音でもない「乾いたアツい音」。

1曲目の「Sweat It Out」からもはや全然違う。音が違う。ビートが違う。タイトでファンキィ。ギターは強く歪み、前に出る。ピアノのコードで語られるAメロのフレーズそのものは比較的従前のテイストだが、全体としてはかなり押しが強い。8ビートでダンサブルな曲はそれまでの「頭で考えた」という感じの彼等の楽曲からはなれ、題名通り「激しい運動」という感じ。

続く「In the Pocket」は東洋的な調べと、ハイハットとライドシンバルのカップを複雑に使い分ける神保の機械のような正確なプレイと、それに合わせて..というよりドラムスと合わさって一つののリズムを形成するような細かい刻みの櫻井のベースパターンが印象的なAメロと神保作曲の曲らしく一転キャッチーなサビとの対比が面白いけれど、あまりにタイトすぎてまるで当時は「機械みたい」という印象を受けた。

「Fabby Dabby」はフィンガースナップと♪Pa, Pa~♪というようなコーラス、生ブラス隊のラインがファンキィな曲だが、これは今までの彼等の良さもすごく顕れている。印象的なベースパターンに乗せた向谷のピアノソロも、続く野呂のギターソロもテンションバリバリで素晴らしい。この曲はアメリカ的ファンキィさを感じるが、彼等の初期にはブラスがゲストで入っていることも多くファンキィタッチだったので(←イギリス的暗いファンクだが)、そういう意味ではちょっと昔に還った感じのテイストもある。

個々の曲を過去に戻って聴き直すと決して出来が悪いわけではなく、結構佳曲が揃っているのだけれど、それまでの路線の音とは明らかに違って、発売当時(1983年)はびっくりした。この時期はまだアナログ盤のシェアが高く、CDは遅れて発売されることも多かったため、cybercatはLPでも持っているのだが、割に従前路線延長だった前作“Photographs”に比べると最初の1音から全然音色が異なり、「こんなんCASIOPEAじゃないやい」と封印していた時期もある。

その後数年して自分のバンドでこのアルバムの曲を演ることになって改めてCDを購入して聴き直してみると、その時期はさらにポップに変貌を遂げたアルバム“SUN SUN”

もリリース済みだったので、それに比べればはるかにCASIOPEAらしい楽曲とプレイ。「音」自体は刺激的な80年代前半の加工をされたものだけれど、聴き直すと意外にも楽曲そのものは源流・本流に近い。
ジャケット隅のメンバー似顔絵が味がある(神保さん隠れちゃってるけど)
ジャケット隅のメンバー似顔絵が味がある(神保さん隠れちゃってるけど)
黄金期最後の方は世界進出を重視するあまり?旧来路線を望む国内ファンの期待する作品が出せなかった印象がある彼ら。そんな彼らの「ズレ」を感じる最初の作品かもしれないけれど、実はこの作品結構評価が高い。同時代的には違和感を感じた「ズレ」も、後から俯瞰して見るとその「ズレ」はフレーバー程度で、実はこのくらいの「新規性」が一番良かったのではなかろうか、というのを改めて思った作品でした。

【収録曲】
1. Sweat It Out
2. In the Pocket
3. Right from the Heart
4. Step Daughter
5. Secret Chase
6. Fabby Dabby
7. Living on a Feeling
8. S-E
9. What Can't Speak Can't Lie

「Fabby Dabby」

  • 購入金額

    3,800円

  • 購入日

    1986年頃

  • 購入場所

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