1970年頃に、本来左右2ch分の信号を扱うレコード盤で、左右それぞれ前後の音を分離した4chレコード(Quadrophonic)が流行の兆しを見せたことがありました。詳しくはWikipediaの説明をご覧下さい。
各メーカーがそれぞれ自方式の規格の優位性を強調して様々な規格を乱立させた結果、市場を獲得するには至らず、ごく一部のマニア層が使っただけに終わってしまった存在ですが、Quadrophonicの魅力を大きくするため、Quadrophonic盤に別テイクの楽曲を収録したり、演奏内容自体に変化をつけたものを用意することもありました。
我々シカゴファンの間でも、Quadrophonic盤でテイクが異なる楽曲があることは知られており、古参の熱心なファンの中には未だにQuadrophonic盤のLPと対応する再生装置を手元に置いている方もいらっしゃるようです。
シカゴは当時Columbiaレコードに在籍していて、CBSが開発したSQ方式のQuadrophonic盤をリリースしていました。当時は売れっ子バンドだったからか、デビュー作から10作目「Chicago X」までの各作品(但しLP4枚組の大作であるライブアルバム「Chicago At Carnegie Hall」を除く)で、Quadrophonic盤が用意されていました。しかし元々の販売枚数が極めて少なかったことから、今では幻のレアアイテムと化していて、ファン垂涎のアイテムと言われていました。
ところが最近になって、Blu-ray盤を使ってこのQuadrophonic盤を再現するという企画盤がリリースされることになり、熱心なファンの多くがこぞって購入予約をかけるという状況となっていました。私も当然と言うべきか、発売日前に予約をかけておいたところ、米国発売日の翌日に手元に届きました。なお、この企画盤は米RHINO発売であり、日本盤の発売予定は今のところ無いようです。オリジナルのQuadrophonic盤も、そういえば日本では発売されていなかった訳ですが…。
Blu-ray9枚分にしては、随分分厚いボックスです。裏面に挟まれた紙には収録されているアルバム及び楽曲が解説されています。
こちらがボックスの裏面に当たります。今回の「QUADIO」について、基本的な説明が書かれているようです。
分厚い理由はこの写真の角度で理解出来ました。オリジナルのLPのジャケットを模した紙ジャケットが用意されているのですが、このジャケットは原盤でダブルジャケットだったものについては、ダブルジャケットが再現されているのです。ちなみにレコードの内袋もほぼそのまま再現されているという、海外版の割にはかなり日本的なこだわりが感じられるものとなっています。
ただ、この写真にはツッコミどころもあります。前述の通り、シカゴのQuadrophonic盤は、CBS方式のSQ規格でリリースされていたのですが、ボックスに印刷されている「QUADRADISC」のロゴの下には日本ビクターが開発した4chの方式であるCD-4規格の文字が見えるのです。この辺りはどうなっているのか、元々この世代の知識が無い私には判断出来ませんが…。
テイク違いや楽器のバランスの違いなど、楽しめる要素が多い
Blu-ray Audio盤と紹介されていますが、実際にはごく普通の映像が収録されているBlu-rayと特に異なることはありません。
情報量が豊富なBlu-rayディスクを利用しているだけあり、音声トラックは4chをそのまま再現した「DTS-HD Master Quadio 4.0」と、4chを2chにダウンミックスした「DTS-HD Master Stereo」の2種類が収録されていて、Blu-rayのメニューから随時切り替えが可能となっています。
一応Blu-rayディスクであり、PCで画面キャプチャを作成出来ませんので、iPhoneのカメラで画面を撮影しました。
なお、常時画面のようにメニューが表示されていますが、PCの再生ソフトではマウスクリックによるメニュー操作は出来ません。PowerDVDの場合は拡張機能のリモコン型操作メニューで対応可能ですので、特に問題はありませんが…。
音質については、CDのRHINOリマスター盤とほぼ同次元のものと思いますが、Quadioモード(PowerDVDのダウンミックス機能により2chのヘッドフォンで聴いています)ではヘッドフォンで聴いていても、楽器のバランスやエコーのかかり方など、CD盤や通常の2chのLPなどと明らかに異なっています。写真の「Chicago V」の場合には「Dialogue (Part II)」で、曲の最後のコーラスが通常盤より1回多いという、演奏面でのはっきりとした違いもあります。
このボックス盤は、シカゴの熱心なファンが通常盤との違いを楽しむために用意されたようなものですから、これを楽しむためには少なくともここに収録されているアルバムを他のフォーマットで既に持っていて、充分に聴き込んだという人が入手して初めて価値を持つものと言えます。聴き込んでいなければそもそも違いなど語りようがありませんし、単純に楽曲を楽しむのであればリマスターCDの方がずっとコストパフォーマンスに優れますからね。
もちろん我々シカゴファンからみれば、貴重な音源がまとめて届けられた実に貴重なファンアイテムであり、発売に感謝するのみです。
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購入金額
17,593円
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購入日
2016年06月18日
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購入場所
TOWER RECORDS ONLINE
フェレンギさん
2016/06/21
私のところにもSQ盤のサイモンとガーファンクルが何枚かあります。
SONY発売の日本盤には選択肢がない状態だったことを覚えています。
再生機は2chでしたので、SQ盤の良さは一切感じることができず、ただただ音が悪かったんです。
そこで通常ステレオの輸入盤を買い直すことになりました。
お持ちの商品は、最新のデジタル技術でマルチトラックを再現できるものなのでしょうから、シカゴのホーン・セクションが活き活きと楽しめそうですね。
ビクターが熱心に展開していたCD-4はよりキチンとしたマルチ4ch技術だったはずです。
共に時代を過ごしましたが、4台のSPをきちんと配置せずに、前に4台並べている家庭もありました。 使用者側も録音技術側も、一部のライブ録音・自然録音以外は 上手く楽しむ時代では無かったと思えます。
デジタル時代に移行して、現在の映画館で楽しむサラウンドは凄いし自然に感じるの一言ですが、
あの頃は無理やりの4ch配置が多かったんでしょう。
私はポール・サイモンの新譜を輸入盤で買ったところなんですが、今時のCDとしては珍しくポール自身によるライナーノート・歌詞カードが封入されていたので、日本盤を買っとけば良かったと後悔してます。
もうイチマイ買おうかな。 レコードも出ているようですし、、。
jive9821さん
2016/06/21
私の場合は現物を全く体感したことが無いのですが、CD-4はディスクリート4chで、一応4ch分の信号がそれぞれきちんと揃っているのに対して、SQはマトリクス式であり、混合された信号を再生時に分離することからセパレーションに難があったという話がありますね。
もっとも、CD-4も15KHz以上の帯域を使って4ch分の信号を記録したことから、高域が頭打ちになるという問題があったようですが…。
当時はやはり洋楽ロックではCBS発売のものが多く、ソフトの数から言えばSQ盤が優位だったようですね。もっとも、きちんとデコーダーまで揃えて聴いていた人はかなり少数ではないかと思いますが…。
今回のQuadio盤は、さすがにリマスター音源に定評のあるRHINOレコード製だけあり、音質的にはなかなか高い水準にまとまっていると思います。
CD-4は後のサラウンドの始祖といわれていますが、今時の多chは確かに飛躍的に進歩していますね。音楽ソースではあまり活きないかも知れませんが、DOLBY Atomos対応AVアンプの立体音響などを聴くと、これを家庭用の機材で再生出来るのかと驚かされます。
ポール・サイモンの新譜はかなりの意欲作との評価が伝わってきていますので、次に楽天ポイントが貯まったときにLPで買ってみようと思っています。