オリジナルプリントは「宴」を選んだ。
装幀は杉浦康平だが、彼にしては大人しい。それも無理はない。相手は闘病しながら、激情を植物にぶつけつづけ、もがくような美しい写真を遺した孤高の生け花作家、中川幸夫だ。
花とともに生き、そして彼が手折った花たちと同様に死んでいった男。彼の生けた花を実見することは二度とかなわない。作品集を贖うのは、ただもうその花を目にすることができないという、その悔しさをまぎらわすためのいいわけのようなものなのだ。
この作品集のタイトルにもなっている「魔の山」を嗅いだときの衝撃や、とても真似しようとは思えない、赤いチューリップが肉塊のようになるまで傷めつけ、花の汁が血溜まりのような紅い池を作っている様子を思い出すならば、写真は単なる写真を超える効果を発揮するだろう。
作品集を買うということは、いわば香典だ。
自分の周りにも、いつかボタボタとチューリップの「首」が降り注ぐかも知れない。それをいまでも幻覚させてくれる大いなる先輩へのはなむけなのだ。
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購入金額
0円
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購入日
2003年05月27日
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購入場所
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