かつて、古い友人にこう言われたことがあります。
「仕事は(圧倒的に高いクオリティのものを出すならば)時間をかけても構わない。でも遊びには遅れてくるな」。
名言を引用したり、有名人の真似をするのが好きな男だったから、この言葉も誰かの受け売りなのかも知れません。しかし、この時計をしていると、自分もついそんな旧友の言葉を真似てみたくなるのです。
背伸びしていた20代後半に始めた時計のコレクションという趣味も、30年以上も続けていると微かに退屈を覚えることがあります。そんなときにそっとこの時計に触ってみる。
「精確な時間を刻む」という、それだけでは大した意味もない純粋な目的のために、気が遠くなるような歳月が凝縮された「仕事」。
時計を愛するということは、単なる自己満足の趣味ではなく世代を超えて引き継がれていく、ある種の思想なのではないか、と感じる瞬間です。
大袈裟に言えば、宇宙の真理の中でも大きな要素である「時間」を、手のひらよりも小さな機械の中に詰め込もうというのだから、腕時計とは実に酔狂なもの。飛行機や自動車、あるいは医療器具のように技術の粋を尽くしながらも、ヒトやモノを遠くまで運んだり、果ては人命を左右するようなことは(直接的には)できない。この機械の即自性の追究に賭けるストイックさは、どこか人生の無意味さを自由に愉しむ「遊び」の感覚に似ています。
遊びこそを真剣にやり、高い質の仕事を求める人、つまりこれからの時代を担う若い人にこの「愉しみ」を伝えることができるなら、それも自分の使命なのかも知れないのかなと、壮大な時の流れに思いを馳せてしまうのです。
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購入金額
0円
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購入日
2015年05月01日
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購入場所
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