レビューメディア「ジグソー」

名プロデューサーの「Last Days」

※シングル盤が存在しない楽曲なので、「Last Days」を収録したコンピレーションアルバム「SAKUMA DROPS」の商品情報へリンクさせていただくため、アイテム登録は「SAKUMA DROPS」のCDとなります。

 

 

2014年1月16日、1人の音楽プロデューサーがこの世を去りました。その名は佐久間正英。

 

音楽にある程度詳しい人でなければ、恐らく名前に覚えすらないでしょう。しかし、彼がプロデュースした作品を耳にしていない人も、まずいないはずです。

 

生涯で100を超えるアーティストに関わっているそうですが、BOØWY、GLAY、JUDY AND MARYなど、彼がその地位を不動のものにするまで育てたアーティストも数多く、演奏家としても多才であったため、よく見ると色々なアーティストのライブで、演奏する姿を見つけることが出来たりもしたものです。10万人以上が動員された「GLAY EXPO」のライブ映像でも、キーボードを演奏する彼の姿がステージ上にありました。

 

 

本来彼はギタリストでしたが、実質的なプロデビューとなったバンド、四人囃子にはベーシストとして加入していて、その後活躍したテクノポップバンド、プラスチックスではキーボードを担当するなど、複数の楽器を高いレベルでこなすことが出来たマルチミュージシャンでした。

 

また、この時期にプラスチックスと共にテクノポップの旗手とされたバンド、P-MODELの平沢進からプロデュースの依頼を受け、プロデューサーとしての活動を開始します。

 

 

そして彼のプロデューサーとしての名声を確立したのが、BOØWY(ボウイ)の3作目のアルバムとなる「BOØWY」のプロデュースを担当したことでした。このアルバムの制作時に布袋寅泰にプロデュースやアレンジの技術を教え、松井恒松にはベースの演奏を教えるなど、その後のBOØWYの飛躍の基礎を築き上げたと評されています。

 

個人的な嗜好で言ってしまうと、BOØWYやJUDY AND MARY辺りはあまり好んで聴く方ではありません。GLAYなどは聴きますが…。

 

佐久間正英のプロデュースにおける最大の特徴は「プロデューサーの色を出さないこと」ではないでしょうか。例えばプロデューサーとして名高いデイヴィッド・フォスターなどは自分がプロデュースする作品には徹底的に自分の色を出します。かつて硬派なロックバンドだったシカゴがバラードバンドと世間に思われるほどにまで、フォスター色を前面に押し出したのはその最たる例でしょう。そのため、デイヴィッド・フォスターのプロデュース楽曲をコンピレーション化しても、楽曲に統一感があります。

 

ところが佐久間正英プロデュースの楽曲は、ただひたすらそれぞれのアーティストの個性が引き出されていて、アイテム情報でリンクしている「SAKUMA DROPS」の楽曲を見れば判りますが、全くと言って良いほど統一感が無いのです。そしてそのアーティストの個性を徹底的に引き出すという姿勢が、それぞれのアーティストを大きく育てることにつながっていたと思えます。

 

また音楽的な実験を積極的に試みるタイプでもあり、SOUND CLOUDやニコニコ動画には今も彼が残したボーカロイドを使ったオリジナル楽曲も残されています。課題はあることは指摘しつつも、ボーカロイド技術の可能性を非常に高く評価していました。楽曲発表当時のブログでは「大物プロデューサーがボーカロイドを使った」ということが意外と一部で報じられたことについて、「意外と思われたことが意外」と感想を漏らしています。自分は昔から新しい技術を試したりするのは好きだし、プロになる前からずいぶんやっていた、と。

 

このように、まさに生粋の音楽人である彼が、生涯の最後に作り上げた楽曲が今回取り上げる「Last Days」です。

更新: 2016/04/28
総評

細かい不満を遙かに超える説得力

実は「Last Days」を作り上げる過程については、2013年12月26日に「ハロー・グッバイの日々~音楽プロデューサー佐久間正英の挑戦~」というNHKの番組で紹介され、後に「SAKUMA DROPS」発売時のPVとしてもこのときに撮影された映像が使われました。私もその番組でこの楽曲の存在を知っていて、発売されたら買おうと思っていたのです。

 

元々彼は自分の余命が少ないことを知った上で、生涯最後のアルバムを作ることを計画していました。そして息子の佐久間音哉に差し当たって3曲作ることを伝え、最初に作り上げたのがアルバムのタイトル曲となるべき曲である、この「Last Days」でした。

 

レコーディングは2013年12月13日に行われました。彼は既に入院中で、病院から直接スタジオに入る形でした。手首には病院で付けられた入院患者のタグがそのまま残った状態でした。息子の音哉には「3日間寝られていない。苦しくて水も飲めない。点滴を打てばまだ少しは楽なんだけどね」などと漏らすほど体調も悪化していました。

 

そのような状況でも、譜面に目を通し、楽器を手にすれば、いつも通りの音楽人となっていました。

 

この日、レコーディングに集まったのは以下のメンバーです。

 

・佐久間正英(B/G/Pf)

・TAKUYA(G/Vo)

・佐久間音哉(Key)

・屋敷豪太(Dr)

・生田絵梨花(Pf/Cho)

 

リードヴォーカルを担当したのは元JUDY AND MARYのTAKUYA。彼が早くから才能を高く評価して、特にかわいがっていたミュージシャンです。そして屋敷豪太は国際的に実績豊富なドラマーですが、以前からバンドを組んでいた仲間、さらに乃木坂46の生田絵梨花は彼の従兄弟の娘ということで、特に縁の深いメンバーだけを集めてのレコーディングとなっていました。

 

この曲がどのようなものとなったのかは、「SAKUMA DROPS」の特設サイトでPVのバックに使われていますので、そちらをご覧いただければ判ります。また、PVの動画自体はYouTubeにありますので、ここに紹介しておきます。

 

 

 

 

 

率直に言ってしまえば、個人的にTAKUYAのヴォーカルはあまり好きになれません。しかし、この曲に関しては、歌詞の中に登場する「gloomy sun」というイメージのまま、強烈な印象を残すのです。

 

予定ではピアノの演奏だけだった生田絵梨花に、急遽コーラスも担当させるのですが、この辺りのアイディアはさすがです。この女声コーラスの有無は間違いなくこの曲の印象を大きく変えているでしょうからね。

 

この日約8時間に及んだといわれるレコーディングで、彼は黙々とギターやピアノ、ベースを弾き続けていて、とてもスタジオ入りしたときには座ることすら辛そうだった人と同一人物とは思えない姿を見せていました。

 

この曲は新年早々ミキシング等が行われ、1月中旬にマスタリングが終わります。その音源にOKを出したその夜、彼は息を引き取りました。まさに最後の最後まで音楽人であり続けた人生を象徴するかのような死に際です。

 

残念ながら構想していた最後のアルバムは完成すること無く、この1曲だけで終わってしまいました。本人はこの曲・アルバムが陽の目を見る可能性は限りなく低いと覚悟していたようですが、その生前の業績をまとめたコンピレーションがリリースされたことにより、佐久間正英最後の1曲として発表されたことになります。

 

 

CDでは前述の通り「SAKUMA DROPS」にのみ収録される形となりましたが、配信サイト経由であればシングル曲としてこの「Last Days」を入手することが出来るようになっています。

  • 購入金額

    3,780円

  • 購入日

    2016年04月26日

  • 購入場所

    mora

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