レビューメディア「ジグソー」

分類不能な音楽のごった煮-別名闇鍋

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽にはジャンル、というものがあります。ポップス、ジャズ、ロック、クラシック...そのジャンルの中にも小ジャンルがあり、例えばロックはハードロック、ヘヴィメタル、サイケ、プログレ、ブルース、ロックンロールなど様々なカテゴリーに分かれます。このカテゴリーに合致した状態であればリスナーは受け入れやすい、とも言えます。しかし、そんな分類を越えた音楽性を保つアーティストもいます。隣の...ではない斜向かいくらいのジャンルにまではみ出した音楽性を持つグループの彼等のルーツが知れるライヴ音源を含んだ作品をご紹介します。

Living Colour。1980年代中盤のデビューで現在も活動しているハードロックバンド(厳密には途中8年ほど解散時期がある)。方向性としてはカオス。ハードロックを基本として、時にさらにハードにメタルっぽく、時にメロウにソウルフルに、時に爆速のスラッシュ、時にキレよくファンキィに..

何者にも似ていない、それが彼等。比較的初期にベーシストが交替したが、その後は再結成後も変わらず続くメンツが結束力を上げているのだろう。ただ彼等の基本はその前ベーシストが在籍した最初の2枚のアルバムに集約される。それが名盤1stアルバム“vivid”

とコンセプチャルに振った2nd、“Time's Up”。

そんな彼らは熱く迎えられ、1980年代末のThe Rolling Stonesのツアーのオープニングアクトを務めた。さらに1991年には単独ツアーも組まれ、日本にも来た。

その来日記念盤が本作、“Biscuits”。もともと海外でも売られた“Biscuits EP”という6曲入りのミニアルバムにボーナストラックとして9曲のライヴ音源を付けたモノ。来日公演記念盤として日本でのみ売られた特装版。

構成としては3パターンの曲が寄せ集められている。
1)スタジオ録音のカバー曲
2)2ndアルバム“Time's Up”のアウトトラック、もしくはリミックス
3)ライヴ音源
日本盤ではライヴ音源が9曲も追加されたので、ライヴアルバムの様相を呈しているが、元となった“Biscuits EP”は本来カバーアルバム。そのため彼等のヘヴィな部分よりルーツとなった黒人音楽のイロクなテイストが濃く、すこし他のアルバムとは様相が違う。

まず出だしの「Talkin' Loud And Sayin' Nothing」はJames Brownの1972年の名曲。ヤク中でラリッてるときに銃を乱射して服役していたJamesの出所を祝ってw録音されたらしい。左右に散らされたスクラッチ風の音以外はオリジナルとあんまり印象が変わらない歌部分。詳しく聴けばギターはオリジナルではあんなに歪んでないし、ドラムの音量が大きくリズムがタイトになっている。なによりオリジナルにはブラスがフィーチャリングされていてかなり異なるンだけれど、Corey Gloverの声が意外に似ててしっくりくる。途中の間奏はヘヴィなVernon Reidのギターで原形はないんだけれど。

ジミヘンの「Burning Of The Midnight Lamp」を挟んで3曲、アルバム“Time's Up”の時に録音されたが収録されなかったアウトトラックが並ぶ(4曲目と5曲目はカバー)。ここはまさに彼等の当時最新の「音」なのでヘヴィでキレのよいブラックヘヴィメタル。最終的に収録されなかっただけあって、“Time's Up”収録曲と比べると一段落ちるような気がするが、オリジナルの3曲目「Money Talks」の間奏で切れまくっているVernonのソロと、もはやバッキングではなくギターソロとソロ合戦の様相を呈しているWilliam Calhounの高速スラッシュをベースとしたオンビートフィルインの壊れっぷりがステキ。

リミックス曲1曲を挟んで後半はライヴ。ライヴテイクは元となった“Biscuits EP”というミニアルバムにも一部は入っているが、それには収められなかったものに結構良いモノがある。特に「The Ocean」~「Sailin' On」のカバー曲メドレーからブチッと切れる感じでオリジナルの「Type」につながる部分の演出がサイコーだ(実際には「Type」は別所での録音なので、CDの編集上の演出だが)。このあたりはライヴ録音にもかかわらず、リズムの録りが良く、彼等のライヴでも揺るがない粘りのあるリズムがノレる。録音されたものとしてはこのアルバムが最後になるオリジナルベーシストMuzz Skillingsの煌びやか、かつ雄弁なベースが気持ちよい。

企画盤故寄せ集め感はあり、頭2曲のスタジオカバー曲とアルバム未収録曲、ライヴと三層構造で全体を統一するカラーはない。でもその統一性のなさ、懐の深さが彼等の身上。カバー曲もJBからZepp、ジミヘンにThe Clashと、ソウルからハードロック、パンクと分野が幅広く、彼等のごった煮のような音楽性が垣間見える。

この作品のあとのスタジオ録音盤はタッピングを駆使する名手Doug Wimbishにベースが替わるが、Muzzの方が軽やかでレゲエやスカのようなリズムにも相性が良かったので、音楽性の幅という点では広かったのかな、と思ったり。
彼等のアルバム(特に初期)の装丁は色の奔流。
彼等のアルバム(特に初期)の装丁は色の奔流。
きっとこの鍋の中にはあなたの好きなモノが一つはある、そんなごった煮(闇鍋?)のイメージのある、ヘヴィメタルを聴かない人に聴いてもらいたい盤です。

【収録曲】
1. Talkin' Loud And Sayin' Nothing *
2. Burning Of The Midnight Lamp *
3. Money Talks *
4. Love And Happiness *
5. Should I Stay Or Should I Go
6. Love Rears Its Ugly Head (Soulpower US Mix)
7. Desperate People * (Live @1)
8. Final Solution (Live @2)
9. Middle Man (Live @2)
10. Memories Can't Wait * (Live @3)
11. Information Overload (Live @2)
12. The Ocean (Live @3)
13. Sailin' On (Live @3)
14. Type (Live @4)
15. Solace Of You (Live @2)

@1:CBGB's, NYC, Dec.1989
@2:Cabaret Metro, Chicago, Nov.1990
@3:The Ritz, NYC, Apr.1989
@4:Electric Ladyland, NYC, Dec.1990

*:“Biscuits EP”の楽曲

「Money Talks」

  • 購入金額

    2,300円

  • 購入日

    1991年頃

  • 購入場所

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