これまで私が多くのレビューをアップしてきたロックバンド、シカゴのヴォーカリスト/ベーシストを務めるジェイソン・シェフが、彼のキャリアの中で現時点では唯一となるソロアルバムとして発表しているのが本作です。
丁度シカゴの新作リリースが止まっていた1997年に発表された作品ですが、日本盤に付いている解説文によると、空いた時間でじっくりとソロ作に取り組んだというわけではなく、急逝した愛犬に捧げるために短期間で一気に録音されたのが本作であるとのことです。邦題では本作は「ジェイソン・シェフ ファースト ~二人の楽園」となっていますが、原題は「Chauncy」であり、これはそのまま愛犬の名前となっているのです。
これが本作のジャケットですが、亡くなった愛犬の写真を使っていて、ブックレットの写真からも彼が本当にChauncyをかわいがっていたというのが伝わってきます。元々ソロ作に対する意欲の薄かった彼が敢えて急遽アルバム1枚を作り上げた理由を考えると、解説文にあった通り我々ファンはChauncyの死と引き替えに本作を手にすることが出来たというわけで、何とも複雑な心境です。
シンプルながらも味わい深い楽曲
背景はさておき、楽曲自体は以前から書き溜めていたものが中心であり、シカゴの「19」~「TWENTY 1」辺りで一気に成熟した彼のソングライティング能力を充分に見せつける出来となっています。まずは収録曲から。
01.Standing Here Beside Me
02.If I Had A Wish
03.You Found The One
04.Mah-Jongg
05.San Felipe
06.Fade To Black
07.Somewhere In Between Us
08.Stolen Years
09.Carry On
10.Chauncy
収録曲は全て彼が作者としてクレジットされています。
元々シカゴ加入前には、シカゴを脱退したピーター・セテラの曲作りの相棒としてレコード会社と契約することになっていたというだけあり、ソングライティング能力には以前から定評はありましたが、シカゴ加入後により万人受けする方向に進歩したという印象があります。
4曲目の「Mah-Jongg」(麻雀の意味)はシカゴのアルバム「Stone Of Sisyphus」に収録されたものですが、疾走感のあるシカゴ版に対してこちらの方はAOR色が出ていてぐっと落ち着いた印象を受けます。詞の内容とマッチしているのはむしろこちらのソロ版ではないかと思うほどです。
「If I Had A Wish」や「Carry On」、「Fade To Black」などは特にシカゴファンの間でも人気が高く、ソロ作に止めておくのは勿体ないという感想が多く上がりましたし、彼がシカゴの外でこれだけの水準の楽曲を多く書けるということに驚いた人も多かったのではないでしょうか。
時間も予算も限られた中での作品ですから、全体的にはシンプルにまとめられているのですが、それが楽曲そのものの良さを素直に伝えることに繋がったのかも知れません。特に安っぽさを感じるような仕上がりではありません。
ゲスト参加している顔ぶれも、どちらかというとシカゴ関係者以外の親しいミュージシャンで固められているという印象で、シカゴ関係といえるのは以前から師弟関係にあったと言われるビル・チャンプリンだけとなっています。
ピーター・セテラという当時のシカゴにとってのフロントマンを失った後も、シカゴが一線にとどまり続けることが出来たのは、このジェイソン・シェフのヴォーカル、ベース、ソングライティングの高い実力があってこそでした。
今でも「シカゴとしてツアーに出たりアルバムを作るのが最大の楽しみ」と言う彼のことだけに、次のソロ作が発表されるのかは微妙なところではありますが、単なる「ピーター・セテラの後釜」ではなく、充分に一流の実力を持つアーティストであることを示すには、この一作でも充分だったのかも知れません。
-
購入金額
300円
-
購入日
不明
-
購入場所
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。