レビューメディア「ジグソー」

先鋭化した作品にはその時代背景も含めて味わうことが求められる?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。芸術の世界には「不朽の名作」「時代を超えて語り継がれる作品」というものがありますが、それは案外万人受けするタイプの作品です。尖った作品、先鋭化したジャンルというものはその時のアーティストの状況、時代背景まで含めて味わわなければ理解ができないこともあります。cybercatが遅れて識ったために、すんなりと入っていけなかった作品をご紹介します。

「教授」こと坂本龍一。鍵盤奏者でアーティスト、いやクリエイターといった方がしっりくるか。正統派クラシカルテクニックの王道のピアノプレイから機械・システムを駆使した音楽表現、楽団の指揮からコンポーズまで手掛ける彼の音楽フィールドは広い。

一般的には日本におけるテクノポップの中心グループであり、世界的な影響を与えたYellow Magic Orchestra(YMO)

のメンバーとして識られはじめ、その後「Merry Christmas, Mr. Lawrence」の大ヒット、オリンピックテーマ曲など様々な曲の創作、幅広い音楽フィールドのアーティスト、プレイヤーとの共演とあらゆるジャンルと立ち位置で活躍している。

本作はそんな彼の2ndソロアルバム。YMOの活動が初期の1st、2ndの爆発的なヒットで、自分のやりたいことと「求められる=慣性の付いた」音楽との差を感じた坂本がそのはけ口として作ったソロ作品とも言われている。ミュージシャンとしては坂本以外はニューウェーヴ系ユニットXTCからAndy Partridge、寡作なパンク系ギタリスト組原正、YMOにも関わった名ギタリスト故大村憲司と3人のギタリストだけであとは打ち込み(マニピュレーターは盟友松武秀樹)。

「Differencia」。この曲?ダブの名曲として結構評価する人多いんだけれども...うーん、実験的というか、単なるリズムマシンの性能テストのよう。ドタドタと寸詰まりのリズムパターンで、爆速でリズムマシンが鳴り渡る。ところどころ効果音のようなものが入るが、それだけ。以前音楽制作をしていた時に、打ち込んだリズム再生時にスライダーを動かしてしまってBPMがものすごい状態で再生してしまうことが多々あったが、そんな印象。cybercat的にはこの曲をトップに持ってくるのがわからん。当時の機材、当時の技術、そしてテクノの勃興期ということを考え合わせれば...あるいは?

「Thatness and Thereness」は坂本のヘタウマな...いやヘタながらも味のある歌が、切ないコード進行の無機質なバックに乗る、どこか懐かしげな調べの曲。YMOとは違って、でも坂本のリリカルな面も出ている。3拍子系の複雑なリズムがテクノ!という感じ。

「Riot in Lagos」はYMOの細野晴臣が「おい、こんないい曲YMOのためにとっておけよ」とか言ったといういわくつきの曲。時々意外なタイミングでブレイクされ唐突に再開される淡々と続くCOOLなビート、壊れたスチールドラムのような音で繰り返されるシーケンスパターン、不思議な感じの冷たく、どこかオリエンタルなグルーヴ。これは確かに名曲だと思う。のちにYMO本体でも取り上げられた。

どの曲も非常に尖っていて、坂本のセンスが味わえる。

が。

このアルバムを理解するには、リリースされた1980年という時点に立って「その時点から見た先端」として理解する方が良いのかな。cybercatがこの作品を聴いたのはリアルタイムではなくて実はほぼ10年後の1990年ごろ。1980年時点では俗に「タンス」とよばれる積み上げられた機材を必要としたシンセサイザーも10年後には持ち運べるほどの小型化されたものになっていたし、当時自分がデモテープ作りに使っていたリズムマシンですらも16音ポリで、途中でシンバルが途切れてしまうことがほとんどなくなっていた。その時点では1曲目の「Differencia」「もどき」のパターンは簡単に作れたし、テクノという「その時代の先端機器を駆使した音楽」は10年後には「昔の機器を使った音楽」となってしまっていた。そうなった時も残るのはメロディやコード進行の美しさだったり、人によるパフォームだったりするのだと思うわけで。

そう考えると、cybercatはこの作品に出合うのが遅く、同時代的な「すげー」という感動がない状態での冷静なリスニングとなってしまったのが、☆が辛くなってしまう要因なのかもしれない。こういった先鋭的な作品は「旬の時期」というのが実は短いのかもしれない、と。
ジャケットの筒とオブジェと■っていうのも現代美術ラシイ...
ジャケットの筒とオブジェと■っていうのも現代美術ラシイ...
世間では名作アルバムとの誉れ高い教授の“B-2 UNIT”、でもcybercatの音楽の杜はあくまで個人的な思い入れなので。「現代音楽」のカテゴリーに分類されることもある本作、その「現代」は「今」じゃないよ、そんな感じ??

【収録曲】
1. Differencia
2. Thatness and Thereness
3. Participation Mystique
4. E-3A
5. Iconic Storage
6. Riot in Lagos
7. Not the 6 O'clock News
8. The End of Europe

「Thatness and Thereness」


「Riot in Lagos」

  • 購入金額

    3,200円

  • 購入日

    1990年頃

  • 購入場所

20人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • 北のラブリエさん

    2015/05/19

    そうですねぇ。
    たとえば私なんかはリッチー・ブラックモア大好きですけど、まともに聴き始めたのはメタルもかっこ悪いと言われてしばらくたつぐらいからですから。

    ジミヘンとかエルビス、ビートルズとかもリアルタイムの衝撃はものすごかったんでしょうね。

    YMO関連で言うとこれはなんだかいい感じで好きです。

  • cybercatさん

    2015/05/19

    ナルホドー。
    それはそんなに悪くないですねー。
    問題の1曲目はコレ↓

    (映像はあっぷろしたひとがつけたモノなので関係ありません)
  • 北のラブリエさん

    2015/05/19

    うーん、たしかにこれは楽しくないですね。
    でもちょっとお酒を入れてフロアで聴いたり夏のレイブでかかってたりすると悪くない印象かも。
    教授に求めるものとは違うとも思いますが。
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