レビューメディア「ジグソー」

憲法記念日なので

憲法を学ぶとしたら、最もスタンダードなものは、芦辺「憲法」でしょう。おおよそこれを使わない法学部は存在しませんし、ほとんどのまっとうな憲法の解説書はこの存在を前提にしています。

というのも、芦部学説が我が国の憲法解釈におけるほとんど通説だからです。当然判例と違っていたりする部分はあるのですが、有力学説と判例が違うということはよくあることです。

芦辺憲法はこのように非常に確固たる地位にありますので、これを参照してない憲法の本はそれだけでまっとうではないと判断できるわけです。

 

 

前置きが長くなりましたが、この青柳「憲法」も芦辺憲法の流れを組む本になります。著者は芦辺博士の「本当の直弟子」である青柳博士です。前回書いた「わかりやすい憲法」に統治部分を追加した完全版で、芦辺憲法は省略された文脈を完全に補うことが出来ます。

ちなみに本当に前回のこの本に統治を追加しただけなので、統治機構論に興味がないという人は「わかりやすい憲法」を買い求めください。

ちなみに、統治に関しても、前著作同様に、判例と解説をセットで載せています。非常に読みやすくわかりやすい本です。

そして、今回も誤植が多いです。

 

 

 

それは置いておいて、文章が非常に難解な芦辺憲法に比べてだいぶ平易になっている青柳憲法ですので、憲法記念日にご家族こぞってお楽しみいただきたいものです。

本書を読むと良くわかりますが、小中で習う「憲法」の解説は大体間違っています。これは法学部卒業生が教員免許を取得することが少ないことが多いからでしょうが、大人でないとわからない概念が多いということもあります。

 

 

たとえば、小学校や中学校で「クラスの憲法考えてみましょう」という課題が載っているとまとめサイトでかつて見た記憶がありますが、その例として「ルールを守りましょう」「仲よくしましょう」などがあげられています。

これは、現在の憲法学、日本国憲法の理解からは間違いです。しかし、歴史的な意味での憲法、たとえば「聖徳太子の17条憲法」や「大日本帝国憲法」の理解としては正解です。

 

 

というのも、現在の憲法の意味は「権利の保障が確保されず、権力の分立が定められていない社会は、およそ憲法をもつものではない」(フランス人権宣言)と考えられています。

とすると、権力分立や権利保護のない後者は現在の意味では憲法ではないのです。

 

 

ただ、大日本帝国憲法が全く駄目であったかとというと、それは不正確です。大日本帝国憲法の条文は当時の先進国であるプロシャ帝国をはじめとする大国の憲法を研究して作成されたこと、アジア諸国で最初に近代的な成文憲法を構築したことに意味があります。

労働権を明記したワイマール憲法はまだ登場していないこと、米憲法訴訟においてWW2まで「戦時における反国家的言動は表現の自由の保護を受けない」など判例が存在したことに鑑みれば非常に意味のある憲法ではありました。

 

 

フランス人権宣言や、内容を検討するに、この課題の例は「日本国憲法」の理解ではなく、「17条の憲法」の理解だとわかります。

なぜこうなったかを推測するに、フランス人権宣言やヴァージニア憲法をまだ習っていないからという可能性が考えられます。

しかし、実質的な理由は法学部で2年、大学院で3年やっても理解できないようなものが小学生にわかるわけがないということでしょう。

 

 

では、大人になった今、どのような規定が「クラスの憲法」になるか考えてみましょう。

重要なのは、権力分立と権利保護です。

つまり、教員の行動を制限し、生徒の自由を定めるという方向に本来はならなければいけません。

たとえば

①宿題を課す場合は教職員の会議で決定し、生徒の2/3以上の賛成を必要とする。

②解答はいかなる内容によっても、これを否定することはできない。

③体罰はこれを絶対に禁止する。

④教員の指示に不服のある場合は、第三者機関にこれを提訴することができる。

などが考えられます。

 

 

①は宿題という強制力を働かせるためには、教員と生徒という2つの機関が賛成しないといけないという教員の権力を弱め、生徒の権利を保護するものであると言えます。

④では、教員と第3者機関という対立構造によって権力監視をするわけです。

②③においては、生徒の思想信条の自由や体罰からの自由を定めるといった感じです。

 

 

これを小中学生にやらせることは可能か…多分無理です。というか、法学部生でもやっと思い至れるかということではないでしょうか?

 一方で、学問的な内容で、こういう楽しみ方ができるようになるというのは大人の特権であると思います。

 

 

憲法改正議論も出てきている現在ですので、興味を持った方には是非とも手に取っていただきたい本です。

問題は一般的な本屋さんにはおいてない可能性が高いことですが。

 

 

なお、この本の一番の宣伝文句は、「これを理解すれば、司法試験の憲法の短答は合格水準までいくよ」ではないかと思います。

 

 

以上試験の現実逃避おしまい。

 

  • 購入金額

    3,499円

  • 購入日

    2015年05月03日

  • 購入場所

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