音楽を耳に届けるデバイスにはスピーカーやヘッドホン、イヤホンなどがあるが、ぞれぞれよくもここまで、というほど種類と価格の幅がある。スピーカーに比べて大きさや重さの制約が厳しく使う部材の量の差が少ないイヤホンでも価格は幅広い。その価格の差にはケーブルの外皮素材の耐久性やケース・クリーニング用品など付属品の充実といった音に直接関係ないところを充実させた違いなどもないことはないが、振動版に使われている素材を特性の良い新素材にしたり、広い周波数域をカバーするよう複数のドライバーを積んだりする「音」にかかわるところに手が入るのが普通。ただ元が耳の中に入る/もしくは/耳介にかける程度で固定するイヤホンはそれでも物理的な大きさに限度があり、スピーカーのように口径を巨大にしたりエンクロージャーにふんだんに重くて共振が少ない部材を使うというわけにもいかない。イヤホンはその大きさや重さといった物理的制約の中で各社工夫を凝らして良い音を届けることになる。
ここでいう良い音、というのが曲者だ。
もちろん最低限のレベルはあって、低価格の「音が出りゃいい」的なものの中には、ノイズのフロアレベルが高く、音楽に必要なダイナミックレンジが稼げないもの、誰が聴いても聴感上上も下もなくて電話のような中域しかない音になってしまうものもあるので、そのレベルは超える必要があるのだが、それを超えた時にどう行くのかがメーカー(設計者)の思想によって異なるように思える。
方向性としては大雑把に二つ。
・あくまで原音に忠実に、加飾なく、欠落なく、ピュアな音を追求する方向性
・音が変わってしまうことを容認し、積極的に良い(と考える)音を提供する方向性
どちらかといえば日本メーカーに前者が多く、海外の小メーカーに後者が多いと感じる。
cybercatが今まで紹介してきた中では、「ツインシステムユニット」を採用したVictorのHA-FXT90
が最も前者寄りだろうし、中域の華と色気がすべてを圧倒するリアル「っぽさ」最強エロイヤホン、Carot One TITTA
は後者の代表。
ストイックに「何も足さない、何も引かない」というのも潔くてよいが、自分は「原音」至上主義ではなく、「どうせ音が変わってしまうなら良いほうに変えるのはノープロブレム」という方なので、最近手を出すイヤホンはスイートスポットが狭くてもオイシイところは超ドはまり、というタイプが多くなってきた(あとイヤホンが多くなってきたので、すべて平均点で聴かせる万能タイプよりは多少汎用性がなくても一芸に秀でるものが楽しい、という点もある)。
そういう嗜好の自分が、イヤホンの東の聖地、e☆イヤホン 秋葉原店で試聴をしていた時にとても惹かれるイヤホンのシリーズに巡り合った。メーカーはChord&Majorという、その時点では聞いたことがないメーカー。そこには4種類が置いてあったが、面白いのは全モデル同じ形をしている。
ユニットが入っている筒状のボディの両端が金属板。そのボディは(外から見ると)木製。そして機器接続ケーブルが出る側(外側)の金属板は長円形で、下部がすこし外側に反っている。ケーブルはその反った部分に開いた穴を通ってプラグの方に至る。
この構造は4種(当時)のすべての機種で同一。そしてその金属板や木製の本体の色が異なる。ただ、単なるカラーバリエーションではなく、1機種1色。そして面白いのが、機種に音楽ジャンルの名前がついていた。
それは
・Ballad-Major6'13
・Jazz-Major7'13
・Rock-Major8'13
・Classical-Major9'13
の4つ。
どうもこのメーカーは○○用として特定のジャンル向けとしてイヤホンを作っているようなのだ(2015年2月現在「World-Major5'14」が追加されて5ラインアップ)。
「最も音源に近い音を忠実に伝えるイヤホンを開発」という割には、「私達が研究しているのはイヤホンだけではなく、「音楽」である。」と、やや「手心」を感じるブランドポリシーを持つChord&Major。実際、そのHPの各機種の周波数特性を見てもいわゆる「フラット」とは程遠いもので、おそらく彼らがやりたいのは「最も『聴く人がそのジャンルにおいて想起する』音源に近い音を忠実に伝えるイヤホンを開発」ということなんだと思う。「クラシック」とはこんな広い音場、「ジャズ」はこういう湿度感、「ロック」はこういうエネルギーというように、音楽ジャンルによって「聴く人が期待する音」というのは微妙に異なる。ものすごく周波数特性が良くて上から下まできちんと出ているイヤホンでも、硬い音であればやや古めのジャズコンポを聴くには疲れるだろうし、中域に圧倒的な甘い艶と説得力があってもデジタルビートなハイスピードチューンがオイシイかどうかはまた別。
このメーカーは対象ジャンルを絞って開発することで「そのジャンルにとってオイシイ音」を提供しようとしていると思われた。
今までご紹介してきた音楽もののジャンルから想像つくように、雑食性(雑聴性?)のcybercatでも音楽の嗜好はある。その時あった4つでは好みは「Jazz」⇒「Ballad」⇒「Rock」⇒「Classical」の順かな、とイメージして試聴した。
最初に手に取った「Jazz」は渋いダークウッドの艶消し仕上げで、挟み込む金属色は燻したような鈍く光るシルバー。スモーキィなアピアランスで最も大人っぽく好み。...が、音質は好みではなかった。かなり上が甘い、というか、丸い、というか。「出て」くる部分が少なく、「引っ込める」ことで奥行き感を出しているというか。彼らの考える「Jazz」はたぶんやや古めの録音のピアノトリオをバックにしたジャズヴォーカルか。そういった濡れた感じの独特の雰囲気がある。
次に手に取った「Ballad」は、ウッド部分は着色無い生成りの色で金属部分はアルミライクなマットな質感。外見からもナチュラルな感じを受けるが、その通りメリハリがあると言うよりは名前の通り中域の柔らかさに力点を置いている感じ。ただ上と下が出ていないわけではないが主張しないので、聴きやすい反面クリアでない印象を受ける。デジタルポップなどではなく、その名の通りアコースティックなバックのバラードにはよい感じ。結構気に入ったが..高い。購入当時、「Jazz」と「Rock」の定価が12000円程度、「Classical」が少し高く約14000円、「Ballad」がさらに高く16000円前後。さらにその時「Ballad」以外は1500~2000円ほどセール割引されていたので、差額が4000~5500円。他の約1.5倍か...と思うとそこまでではないかと。
続いて「Rock」を試す。黒檀のような黒いウッド部にクローム調の金属部と最も男っぽい。これは想像通りドンシャリ。ただこのメーカーのカラーなのか低域は量があるが硬くない。ドンシャリと言うより「ボン」シャリ。その「ボン」シャリに挟まれた中域は相対的に引っ込む。ボンボン力強くやや過剰気味の低域とシャリッと独特の響きがある高音(最後の「ッ」が特徴)に挟まれて、肝心の中域にはちょっと「くる」モノがなかった(試聴時に持っていったのが高域寄りの出力のAK120だったのも影響したかも)。
「Classical」。単体で見るとそうでもないが、他がシブイだけに比べると派手。
最後に手に取ったのが「Classical」。4ジャンルの中では一番聴かないし、外装もブラウンに着色された上にクリアが吹かれたウッド部ときんいろの金属部でちょっとデーハーな感じがして好みから言うとハズレ。しかも「Jazz」や「Rock」より定価は高め。あまり期待せず「3つ聴いたんだから」と聴くと...
....
.....
キターーーーーーーーーー(゜∀゜)ーーーーーーーーーーーッ!
なぜだかコイツがすこぶるよい。
cybercatの試聴リファレンス、宇多田ヒカルの「First Love」
を聴くと、その時現場に持っていたイヤホンの中ではエロイヤホンTITTAの方がヒカルのブレスの感じや喉の奥で湿った声が震える様子はゾクゾクくるが、Major 9’13の方が歌い出しの部屋の大きさ感や1コーラスが終わりベースがBooon,Booonと長音で鳴るときの量感、ストリングスの包まれ感が良く、色気よりも清純さを感じる演出。低い方の充実という意味では「えげつなくない低音LOVE」のSHURE SE215SPE-A
で聴くとさらに低音が下に沈んで、まさにベーアンの前でベースを弾いているような感じなのだが、ヒカルの声は清純さが薄れて?俗っぽくなる(声の奥行きが薄くなる)。
リアル感を確かめる際のリファレンス、吉田賢一のハイレゾ音源(96Khz/24bitのflac形式)
から「Take The A Train」は、Major 9’13ではトリオならでは大きいベースのラインがグングン来て、腰高なTITTAよりゴキゲン(TITTAはシンバルレガートするスティックの鳴りが聞こえてそのリアルさは捨てがたいが)。もちろんSE215SPE-Aより低い音は少ないのだが高次倍音の華と柔らかい音色で悪くない。
試聴前はよもや自分が「クラシック向け」を謳うイヤホンを手にするとは思わなかったが、当時新発売だった「Ballad」以外の3機種の割引セールをやっていて、「Classical」は税込12000円だったのもあり、購入した。
Chord&Majorのイヤホンの命名法は「ジャンル-一桁数字'(おそらく)発表年度下2桁」という形式(Major 9’13 (for Classic)のように「一桁数字 '発表年度下2桁(for ジャンル)」という表記法もある)。なぜか一桁数字は小さくなっていっており、本品が「9」、同時発売の「Rock」と「Jazz」がそれぞれ「8」と「7」。追加発売の「Ballad」が「6」で、そして今年(2015年)頭に追加されたのが「World-Major5'14」なので「5」。価格的には5≓6>9>7=8となっており、数字が小さいのが高いの(あるいはその逆)ではない。Chord&Majorは9つ(あるいは「0」を入れて10種?)しかイヤホンを出さないつもりなのだろうか。ただ今のところ高価格機種をマルチドライバ化するというような筐体形式の変更やサイズの差をつけることなくラインアップを拡充しており、同一筐体のイヤホンで「ジャンルごとの味付け」のレベルならば9~10種を造ることがむしろ難しいかもしれない。
それはさておき。
箱全体がビニールラッピングされているので、保証書は別添となる。箱は本体色にも通じる濃い木目で、でもややワイン寄りの茶色の木箱でとても洒落ている(ちなみに他のシリーズも箱の色は本体色に近い色-でも少し違う-にコーディネイト)。蓋をあけるときれいにディスプレイされたイヤホンとのご対面。
ディスプレイ時に見栄えが良いように、販売時のプラスチックケースの中で余分なケーブルを紙製の緩衝材で隠したり、構造が良くわかるように前から見て横向きと縦向きを同時に見えるよう左右のユニットの固定位置を変える、というのは他のイヤホンでも良く見るが、見えない木箱の中の配置にこだわっているというのは気が利いている。またそこにつかわれている素材もプラスチックではなく、チェロの輪郭の一部を型押しした黒い紙。ここに「Major9’13」と金の文字で製品名が入る。
センスありあり。ケーブル巻き取り用のプレートが貼り付いている。
実にゴージャスで、プレゼントにもちょうど良いかもしれない。本体でないものに金をかけるというのはどうか、とも思う面もあるが、これくらい洒落ているとその後箱は小物入れとして使っても良い。
付属品としては説明書とイヤピース(大と小、中は装着済み)と清掃ブラシ、保存袋とケーブル巻き取り用のプレート。ブラシとイヤピースはパックしてあって、清潔な印象。ケーブル巻き取り用のプレートは、『独自の特許により開発された』「Chord&Majorイヤホン専用片付け板」なるご大層な名前が付いているが、要するにケーブルを噛み込ませる穴が付いた手頃な大きさのプラスチック板、というもの(そうそう、このメーカーの説明書、ちょっと日本語が直訳調で「古き佳き輸入品の説明書」の風情w)。
そして説明書にはエージングの仕方がかなり厳密に書いてある。
時間や回数、曲調にボリュームが書いてあるが、「ボリューム80%」とか言っても平素聴いている音量が違えば違うよなぁ...なんて思いつつ、エージングはいつものP8
鳴らしっぱなしの放置プレイでなくて、説明書にかなり近い形で行った。
音に関してはAstell&Kern AK120
直刺しで、基本的には44.1kHz/16bitのwavから起こしたflac音源で評価した(一部ハイレゾ音源あり)。比較対象は似た価格帯(およそ1万前後で購入)のCarot One TITTAとSHURE SE215 Special Edition (SE215SPE-A)、Victor HA-FXT90。
まず、いきなりClassicalでも何でもなくてw、音のいいJ-POPとしてMISIAのリマスタリングベスト
からアゲアゲ↑↑系の「INTO THE LIGHT (15th ver.)」。イントロのサンプリングボイスがぐるぐるパンするところは回り方がMajor9’13が一番広い。TITTAは中心部でこぢんまり回っている感じ。SE215SPE-Aはディスコ調に低音増強されたビートに覆われて少し目立たない感じだ。HA-FXT90はかなり広く、Major9’13に匹敵するが、音の質が腰高で、次の♪Into the light~♪と歌い出す時に同時になる「ドーン」というSEが「ダーン」と言う感じでかなりカルい。TITTAは「ドーン」と中央で鳴って左右に広がっていく感じがなくてちょっとゴチャつき気味。SE215SPE-Aはそこはさすがに量があって迫力がある。Major9’13は刺激的ではないが広がりと量は及第点。
次に「Classical-Major9’13」という名前の表す正統派ジャンルとしては、手持ちのflac音源として「どクラシック」を持っていないので、やや小編成とはなるがストリングス/ブラス/ピアノ/打楽器とまんべんなく入った交響アクティブNEETsの“第二次艦隊 フィルハーモニー交響楽団”
から「飛龍の反撃」。小編成とはいえずっと下支えするコントラバスの重低音が響き意外にイケるのがSE215SPE-A。勇壮なこの曲にこの迫力は合っている。ただやはり高域には華がない。最初にメロディをリードするオーボエの柔らかい音がイイのはTITTA。一番下がないのでチョッチ軽メにはなるけれど、中低音くらいからはあってあまり破綻がない。空間の広さを感じるのはHA-FXT90。生真面目な日本製イヤホンはヴォリュームを上げるときちんと低音までくる。ただその音を鳴らすのはかなりヴォリュームを上げたときで、バランスとしてはちょっと高音が刺さり気味。ジャンルとしての本命、Major9’13は聴かせる。独特の響きが編成が大きくなったかのよう!特に中間部のホルンの響きの後ろで鳴るコントラバスとティンパニ、チューバの低音の迫力がパない。
そしてこのイヤホンを名前で買った人は絶対聴かないであろうヘヴィメタはw、人見元基のパワフルヴォイスと切れ込む山本恭司のアーミング、厚見玲衣の厚いそして熱いシンフォニカルなバッキングが美しい“VOW WOW Ⅲ”
から名曲「NIGHTLESS CITY」。エロさ無用の体育会系ヘヴィメタルにはTITTAは合わない。なんか薄くリバーブをかけたような独特の音場になってしまって、遠くて熱さがない。また予想通りHA-FXT90はシンバルばかり目立つ「カルメタ」になってダメ。本命?SE215SPE-Aはさすがに低音の充実はいい。キックもドカドカ来るし、なによりキーボードの低音が充実してる。ただ恭司のギターソロはその低音が覆い隠してやや遠い。Major9’13は「ヘヴィ」ではないが分離が良く、玲衣のキーボードソロ⇒恭司ギターソロの部分はソロ楽器が目立つ。意外に所々のキメで噛まされる新美俊宏のフロアタムの「ドゥゥン」というアタックの音はこの「クラシック向けイヤホン」で一番パワーを感じたのが面白い。
同じロック系でもボカロロックはどうだろうか。その特徴的なギターのリフが印象強いじん(自然の敵P)の「夜咄ディセイブ」。
これは難しい曲だ。ラウドな曲で、複数のギター、大きめのベース、絶え間なく鳴らされるシンバルと隙間なく音が鳴っている感じのバックに人声より抑揚がないボカロの歌が乗ると、ダイナミックレンジない中の各楽器の描き出しと、前へ前へと煽るノリがポイントか。TITTAはギターの音はいいンだけれど、なんか歪みっぽい。HA-FXT90はやっぱりシンバルがチャキチャキ目立つ軽いノリなんだけれど、ベースは過剰でなくて意外に聴き取りやすい。左chのサイドギターも良く聞こえる。歪み感が少なくて曲をコピーするならいいかもしンない。SE215SPE-Aはぐっとベースが下がってピラミッド型に。シンバルの粒立ちはなくなるが、これだけシンバル鳴らされているとこのくらい絞った感じの方がノレる。Major9’13はバランスは悪くなく、上から下まで出てるがバックの音は平坦で歪みの臨界点が低い感じでちょっと合わない。ただIAの声は一番聞こえるが。
ハイレゾ系は192kHz/24bit録音を96kHz/24bit変換したwavファイル、ヴィブラフォンの美しい響きと緩いオーバードライヴのギターのアルペジオ、ヴゥンヴン響くウッドベース、ブラシ奏法のドラムに載せて、Sakuraの癒やしの歌声が聴かせる「トモシビ」を“アニソンオーディオ Vol.1”
から。これはSakuraのヴォーカルは圧倒的にエロイヤホンTITTA。別に艶っぽく歌っているわけではなくサワヤカな感じの歌い方なのだが、なんだかブレスの感じがエロいw。これがHA-FXT90になるとフットハイハットの刻みやブラシの感じは近くなるが、ベースはアタックが中心になって少しSakuraの声とかぶってエロさはなくなる。ただヴィブラフォンソロの金属音の美しさは格別だが。SE215SPE-Aで聴くと今度はヴィブラフォンが引っ込み、ベースとギターが出てくる。緩やかな曲だが、オケも歌も「せーの」の一発どりであるこの曲は、ベースのノリが楽しい。Major9’13はというと、これは合ってる。ベースは若干奥に行くがきちんと響いており、ブラシの音は皮の鳴りが聞こえる。なによりSakuraの声にかかったリバーブが消え去り方が美しい。独特の「響き」を持つこのイヤホンがいい方に作用している。ハイレゾならではの繊細さと濃密さもきちんと描き出している。
Major9’13の特徴としては音場が広く、ソコソコ上から下まで出るが、下は量はあるもややエッジが甘めの音、上は刺さるような成分ではないが煌びやかさがある。ちょっと独特の響きがあるのが、よいアクセントになる曲はいい感じにはまる。そして各楽器の分離はよい。これは添付されていた商品紹介のリーフに「Major9’13イヤホンは特に各楽器の表現力に着目してます」と書かれているので狙い通りなのだろう。
このイヤホンは上記の独特の煌びやかさが合う曲とそうでない曲があるので、ぜひ試聴をして買うべきと考えるが(マイナーメーカーなので試聴機が少ないのが悩み)、もう一つ試聴をしてから購入すべきと思えるポイントがある。
それはこのイヤホンの構造にある。このイヤホン、外からは木製に見えるので印象としてはそう思えないのだが、結構重い。ハウジングは実は外装が木なだけで中はアルミのようなのだが、たぶんそれよりも両端につく金属板、特にケーブルが通る外側のそれが重いのだと考える。
実測23gあり、
これはTITTAの13g、
アルミハウジングだがTITTAは軽い(現在イヤチップは非純正)。
HA-FXT90の17gを大きく上回り、
むしろCIEMのHarmony 8 Proの方に近い(24g)。
24g。Merlinもそんなもん(26g)。CW-L11のみプロトタイプでケーブルが重く44g。
ケーブルがごついSE215SPE-Aは26gあるが、
これとHarmony 8 ProなどCIEMはケーブルを耳の上にかけるいわゆる「SHUREがけ」が装着時の基本のため重さが分散する。一般的な装着法を採るものとしては、Major9’13は重め。しかもケーブルの方はかなり華奢なので、重量の過半はユニット部...というか耳の外の金属板のところにバランスがあるので耳の形によっては落っこちそうになるかも。cybercatは下向き耳道ながらちょうど対珠の上に乗っかるように置けるので、フィット感は悪くないが、耳珠と対珠の形如何ではフィッティングが悪い人が出てくるかもしれない。
あとケーブルは絡み防止のスライダーはつくものの、ゴムっぽい表面加工は絡まりを解きほぐすのが大変なので、収納時にはそれこそ『独自の特許により開発された』「Chord&Majorイヤホン専用片付け板」にでも巻き付けておいた方が良いかもしれない。ただそうするとスペースをとることになるので、携帯性という点ではやや点が辛くなるか。
Major9’13の総評としては、低域は「重」低音こそないものの、その上くらいからは充分にあり、充実した中域は適度な硬さと燦めきがあって、それが独特の響きを持つ高域につながっている。ちょうど人声~ソロ楽器に多用される音域の基音から低次倍音のあたりに華があって、意外にオールラウンダー。
クラシック向きとの事だが、クラシックは再生機器にかなり過酷な性能を要求するジャンル。交響曲では一発のオケヒットのダイナミクスや低域から高域まで満遍ない再生能力、小編成の室内楽ではソリストの楽器の艶やかさ、声楽では人声の色気と要求されるモノが多岐にわたる。それ故この「クラシック向け」のイヤホンはどのジャンルにでも程度対応できるようなイヤホンとなっている。
世の中にはこのイヤホンに限らず、「○○向け」を謳う音響機器があるが、耳は各個人違うし、聴く音楽のどこに着目して聴いているかも異なると思われるので、必ずしも押しつけられた?「○○向け」を鵜呑みにしない方がよいと痛感。何事も食わず嫌いは厳禁。
残念なのは、このイヤホン購入時点(2014年7月)は1万円前半の販売価だったので、そのクラスとしては、音のクオリティといい味わいといいしっかりと主張があって、本体はもちろんケースなど周辺も含めて造りも良く、とてもコストパフォーマンスが高かったのだが、2014年9月から「大幅」値上げされ、20000円クラスになってしまった。ただ独特の響きと解像度は他にあまり比較できるものがないため、気に入ればイヤホンライフを楽しくしてくれることは請け合い。
なんにでも使う1つ目のイヤホンというよりは、酸いも甘いも噛み分けた?ツウの方に「ここぞ」という時に使ってもらいたいイヤホンです。
【仕様】
・ インピーダンス : 21Ω
・ 再生周波数帯域 : 20-20KHz
・ 感度 : 96dB
・最大入力:8mW
・ プラグ形状 : 3.5mm
・ ケーブル長 : 1.2m
オーディオなんちゃってマニア道
キラッとした輝く響きがある
シンバルほど高くないソロ楽器の音色を決める低次倍音のあたりに独特の響きがある。この華やかさが音楽を楽しくする。
クリアでソロ楽器やヴォーカルを明瞭に届ける
各楽器や声の分離が良く、個々の魅力を描き出す。ただ面で攻めてくるような楽曲は苦手。歪みはじめる臨界点が比較的低い。
結構ふくよかな低域
「重」低音と瞬発力はないが、暖かみのある結構豊かな低音が多くのジャンルの曲をきちんと下支えする。ただ倍音域は煌びやかなので、エレキベースなどはきちんとアタックもある。
広い。そして広く見せて(聴かせて)もいる
分離が良く、横方向のひろさがあるが、独特の響きが円周状(音を言葉にするのは難しいな)の広さを感じさせ、イヤホンと言うよりヘッドホンで聴くような音が点放射でないような感じを受ける。
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購入金額
12,000円
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購入日
2014年07月19日
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購入場所
e☆イヤホン 秋葉原店
supatinさん
2015/02/21
(*・ω・)*_ _)ペコリ
cybercatさんのイヤホンレビューはすごく具体的で
自分が買う買わないはともかくとても参考になります。
(*・ω・)*_ _)ペコリ
>>コントラバスとティンパニ、チューバの低音の迫力がパない。
ゾクゾクっと来る気持ち良さを味わえそうですね
>>ブレスの感じがエロ
エロとさわやかさのさじ加減て大事ですよね
宇多田ヒカルさんの曲を聴いていると時々
「ハッと」するほどの清々しさと言うか爽やかさを感じます。
やはり「広がり」に関してはダイナミック型なのでしょうか、
と言うよりイヤホン得意不得意を理解したうえで
聴く曲にあわせ使い分けるのが大事なのでしょうね♪
(*´ω`*)
単純な事では無いでしょうし難しいから面白いのかもしれませんね
とド素人が生意気言ってすみません・・
(*´ω`*) ←(沼のほとりを眺めている人)
cybercatさん
2015/02/21
>聴く曲にあわせ使い分けるのが大事なのでしょうね♪
そうですね。
聴き比べてみると面白いんですよね。結構曲の印象も変わるので、一つのイヤホン/ヘッドホンしか持っていない人が聴いているのってその曲の一面でしかないのかもしれません。
今回この「クラシック向け」ヘッドホンでヘヴィメタのリードギターが一番聴こえた、とか、SHUREの低音増強モデルで勇壮なクラシックがあまり破綻がなかったとか、自分も含めて「先入観」で決めつけるのは「音を楽しむ」ことの醍醐味を放棄しているかもしれませんね。
>沼のほとりを眺めている人
ぼーっと眺めていると、ホラっ、supatinさんのくるぶしまで水が満ちてきてますよw