レビューメディア「ジグソー」

「血の確執とか復讐とかは、男にまかせておけばよいのです~私は女として生まれ、さいわいにもそんな醜い掟に縛られてはいない」

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

ここのところ連続してご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。このエピソードは時代的には「コミンの統治時代」と呼ばれるダーコーヴァと地球帝国との接触当初の、コミンの七大氏族が比較的安定的に統治していた年代。中世的な政治形態にラランと呼ばれる超能力、地球帝国との異文化交流などが語られる、このダーコーヴァ年代記でかなり大きなボリュームを占める時代のほぼ先頭あたりに位置するエピソード。

ただ、この作品はかなり他の作品と風合いが異なる。女性の目線で語られている。ブラッドリーは20世紀後半の作家なので(1930~1999)、ウーマン・リブ(1960年頃に興った女性解放運動)の影響を受けている。また自身も女性なので「女性が自身の判断で何かを選び取る」というところにコダワリを持っている。

一方、ダーコーヴァの世界は中世的な設定なので、魅力的な女性キャラクターは多いが、その世界での世俗的な立場としては高くない。強いラランを持つコミンの女性は、複数の超能力者を束ねて鉱物探索や気候変動を制御するサークルと呼ばれる超能力発揮の場において、「監視者」の立場となりそのサークルと構成メンバーを制御する要のポジションに就くので尊敬を集めてはいたが、それは同時に「処女」であることを求められ、その立場に縛り付けられることでもあった。

こういった設定の中、男性に庇護を求めることなく、結婚することなく、自身の技量と才覚で世を渡っていこうとする女性達がこの世界にもいた。それがフリー・アマゾン。このシリーズ最初の巻、「惑星救出計画」

でも現地ガイド、カイラとして登場したフリー・アマゾンを正面から描いた作品。そのため、ダーコーヴァ年代記としては珍しくほとんど男性キャラクターが出てこない特異な作品となっている。

物語はドライ・タウンを行く隊商の描写から始まる。成人した女性を鎖に繋ぐという風習を持つドライ・タウン人の街。そこにやってきたのは女ばかりの隊商。街の男達から下卑たヤジを飛ばされながらも、毅然と振る舞うリーダー格の女性。その時一角で騒ぎが起こる。街の男が若い隊商メンバーに強引に迫ろうとし、彼女から切りつけられたのだ。一気に遠巻きになる人の輪。リーダーの女性、キンドラは切りつけた若い娘=ゲニスのところに赴く。

自分の身を守ったことで誇らしく顔を上げる少女にキンドラは言う。「なんてことだい、ゲニス!これでこの街に、あたしたちのことを知らぬものはいなくなったんだよ!あんたのナイフさばきに対するうぬぼれが、あたしたちの使命そのものを危険にさらしているんだ。この仕事への志願者を募ったときにあたしが求めたのは一人前の女であって、うぬぼれた小娘じゃない!」

そう仕事...彼女たちはフリー・アマゾン。独自のギルドを持ち、傭兵などの仕事を行い生計を立てている。今回の仕事はコミンからの依頼だった。

その隊商に長かった髪を切って同行するコミナーラ(コミンの女性)、ロアーナ・アーデスがいた。彼女は、女性であるのにもかかわらず結婚もせず、髪を短く切り、一部は中性化手術まで受けて「女を捨てている」フリー・アマゾンに対して嫌悪を覚えながらも、依頼者としてその中にいた。

それは彼女の従姉妹、メローラ・アイヤールからの悲痛なテレパシーを受けてだった。

メローラは、ドライ・タウンの街シャインサの暴君ジャラクに12年前拉致された。女性を鎖に繋ぐ圧倒的男性優位の社会で、メローラは妊娠させられ娘を産み落とす。虜囚の辱めを受けながら娘と暮らしていたメローラだが、差し迫った危機により昔訓練を受けた方法で連絡を取ってきたのだ。その理由は二つ。

他に多くの妾もいるジャラクには息子=跡継ぎがいなかった。しかし、再び孕まされたメローラはそのラランの力で胎内にいる子が男の子だと知る。つまりそれは、コミンの血を引く子が蛮族の王となる運命を持ち生まれてしまうことを意味していた。そして拉致直後に生まれた娘がもうすぐ成人、つまり「鎖に繋がれる」年齢になる事。この娘とまだ見ぬ息子に迫った危機にメローラは渾身の力を振り絞り、古に結ばれたかすかな絆をたどってロアーナに連絡してきたのだ。

ロアーナはメローラにテレパスで連絡するため、キンドラの指揮下に入り同行することを選択する。隊商のふりをしながらシャインサに入り情報収集するフリー・アマゾン。そして、襲撃決行の日が来た!一部のメンバーに負傷者を出したが、何とかメローラとその娘ジュエルを助け出し、脱出するフリー・アマゾンたち。

そこから身重のメローラをつれての脱出行が始まった。夜っぴいて砂漠を翔り、絶えず馬に揺られる、貴族女性のロアーナにとってきつい道行きだったが、その道行きの中キンドラたちの生き方に理解を示すようになる。結婚もせず、あまつさえ一部は中性化手術までして「女を捨てた」男女、金さえ積めばなんでもやる傭兵集団、という先入観は、彼女たちがこの男性優位の世界で様々な理由により、男性や家に寄りかかることなく自立を選んだのだという理解に変わる。そしてフリー・アマゾンになってから中性化手術を受けたメンバーはおらず、それどころかそれを戒律で禁じていることを知り、フリー・アマゾンは女性であることを放棄したのではなく、性より先に「人間であること」に重きをおいた集団であることを識る。

その道行きの中、もうすぐ「鎖に繋がれる」はずだったジュエルはフリー・アマゾンとの行動で今までと全く違った世界を見せられることになる。女性が男性の従属物でない世界、でもそこには責任と義務とがついてくる。また、頼れるのは自分の外見や生まれではなく、自分の技量、能力のみ。今までと180°違う価値観に戸惑うジュエル。

脱出行の最後の段階、ドライ・タウンと七領土の間に横たわるカダリン川、その先の七領土側の領地カーソンを目の前にして、産気づくメローラ。水は確保できる場所までたどり着いてはいたが、ここ数日の馬に揺られての道行きはメローラの身体には過酷な試練であった....

果たしてメローラとその胎内の仔の運命は?そしてロアーナのした選択は?ジュエルはどうこれから生きるのか?
女性は強い...というより、母は、強し?子を護る愛を感じます。
女性は強い...というより、母は、強し?子を護る愛を感じます。
本作は、本国では“The Shattered Chain”として出されたお話しの前半(第一章)。「ジュエル・ナハ・メローラ」が活躍する「ヘラーズの冬」に続きます。
  • 購入金額

    340円

  • 購入日

    1987年頃

  • 購入場所

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