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閉塞感がない密閉型。AKGの造る「密閉型ヘッドホン」の解答。AKG K550

 

オーディオなんちゃってマニア道。
オーディオ道は入ると底なし沼であることがわかっているので、「なんちゃって」ですがそれでも一般の人から見ればずいぶん金をかけているかもしれません。

 

出口デバイスで音を変える-これが自分の基本的方向性。

 

DAPに関してはわりに素直な音質傾向を持つONKYO DP-X1A

をメインに使っているし、(楽器をやっていたからか)元々楽器そのものの「造っていない」音が好みでもあって、音質的劣化も考えられるイコライザー系はオールオフ、というのが基本。

 

ただ、そうは言っても、節操がなくダダ広い音楽の好み全てを心地良く聴く唯一の組み合わせというのがないのも理解している。

 

消え去りそうな声でバラード曲を情感豊かに歌う女声ヴォーカルの、ブレスや言葉の転がし方を味わうのと、メタルな腹から出ているハイトーンシャウトを脳髄に響かせるのは同じ再生機器では難しいし、隙間なく打ち込まれたデジタルビートでのゾクゾクするスピード感を演出する硬質なエッジが立った音と、こぢんまりした生ギターとパーカッション、ヴォーカルというような小構成でのそれぞれの楽器や声の「音の立ち」によるリアリティさは、同じ音の輪郭の問題だが求められる解は全然違う。

 

従って、曲やアーティストによって、出口となるイヤホンやIEMを変えて、その機器の「一番おいしいところ」を味わうことが多い。

 

つまり自分にとっては「トーンコントロール」や「ラウドネス」など音質調整に相当する、イヤホンやUIEM、CIEMはいっぱい持っているのだが、ヘッドホンはそれに比べると多くはない(少ないとは言っていないw)。

 

ヘッドホンに関しては若干中途半端な感じがして、イヤホンやIEMの方がどうしても優先になってしまうのだ。

 

・イヤホン類の方が可搬性に優れる(場合によっては複数のイヤホンを持ち出すことも可能)

・イヤホン類の方がDAP単体で駆動させやすい

・一般的にはヘッドホンはイヤホンより重く、首や頭に負担が掛かる

・どうせ室内で聴くなら、前方から音が来て定位が頭蓋内定位にならないスピーカーの方が良い

 

つまり持ち出すのは大きさと駆動のさせやすさ、重さでイヤホン類に譲り、室内で聴く際にはスピーカーの方が定位が前からで自然で、首も凝らない...というわけ。

 

ただ、室内で聴く際にも、夜ある程度の音で聴きたいときには出番となるし、頭蓋内定位と言っても、耳道に押し込んで聴くカナル型イヤホンやIEM類よりは「外」定位で広がりはある。また、PAスピーカーのように「身体を震わせる」事はなくても、イヤホン類より遙かに大きい口径を持つヘッドホンのドライバーは、耳介程度は震わせるので、低音を感じやすい良さもある。

 

そのためいくつかお気に入りのヘッドホンがあるのだが、イヤホン類との差が一番大きいので好んで使っているのが本品、AKGK550

 

AKGは戦後まもなくオーストリアはウィーンで起業された音響メーカー。コンシューマー用ではなく、映像産業用に開発された機材はヘヴィデューティで飾り気がなく、プロの信頼も厚い。特に有名なのが、マイクとヘッドホン。特にマイク、その中でもコンデンサーマイクはAKG製が定番中の定番で、多くのスタジオで今でも使われている。

 

ヘッドホンの方は、「外で音楽を聴く文化」が定着してからは、一般的な需要も高く、AKGもBtoC分野に乗り出し、名器K701の伝説のプロデューサーQuincy JonesのシグネチャーモデルQ701や最近ではポップなカラーリングのY50/40シリーズ、ノイキャンヘッドホンのNシリーズなど、一般の家電店でも売られるようになっている。

 

しかし、AKGの真骨頂は、Kで始まる型番がつけられたシリーズ。

 

その中で2010年代に「密閉型の名機」と呼ばれたヘッドホンがある。

 

それがK550

 

K550は2011年末に発表され、2015年に一度ディスコンになるも、根強い支持で2015年末にK550MKIIとして復活、さらにその後、要望の高かったリケーブルに対応をして2017年にK550MKIIIとしてリニューアル、2019年の生産終了まで、10年弱AKGの密閉型ヘッドホンの上級ラインを担い続けた。

 

ただ、名前は同じで、外観なども細かいところ以外ほぼ踏襲されていたが、無印⇒MKIIの時にドライバーは変更されているらしい。MKII登場の時には「評価の高いK550の音をうけつぎつつ、新世代の50mmΦドライバーを登載」とされたが、音の傾向としては非常に似ており(同時に聴いていない自分には区別がつかない)、スペック上も差はなく、「新世代」といいつつ一部素材調達先を変えた程度ではないのか、と思っている(初代K550リリース時には、振動板にはマイラー素材=デュポンのMYLAR®フィルムを採用とあるが、後年それがなくなるのでそのあたりかも)。

K550の初代
生産中止の報があった後、購入店での開店記念特価で初代のK550を購入

 

耳介をすっぽりと覆う大型のハウジングが特徴
耳介をすっぽりと覆う大型のハウジングが特徴

 

内容物は特にポーチやケースもなくシンプル
内容物は特にポーチやケースもなくシンプル

 

この潔い?左右表示がわかりやすい
この潔い?左右表示がわかりやすい

 

調節も自分のジャストフィットは何番、と覚えておけば一瞬で出来る
調節も自分のジャストフィットは何番、と覚えておけば一瞬で出来る

 

デサイン的には耳介をすっぽりと覆う丸く大きなハウジングと、ふんわりと柔らかいイヤーパッド、太めの金属製ヘッドバンドを持つ大柄な筐体であることが特徴。そのヘッドバンドには長さ調整のクリックごとに1~12の目盛りが振られており、調整時に素早く自分のサイズが決められること、ドライバー保護ネットに大きく「R」「L」と白抜きの文字で左右表示されていて一瞬で左右がわかるあたりが、「プロ用」という感じだが、なによりそれを感じるのはケーブル。

最近パーソナルユースだととんと見なくなった6.3mm標準プラグ
最近パーソナルユースだととんと見なくなった6.3mm標準プラグ

 

プラグは3.5mmミニ(シングルエンド)プラグに、6.3mm標準プラグ変換アダプターがついている。最近ポータブルオーディオの興隆と据え置きもデジタル化が進んだことがあって、すっかり見ることが少なくなった6.3mm「標準」プラグだが、未だにレコーディングスタジオなどではスタンダード。また、コード長が3m!というのが卓(ミキシングコンソール)の前で左右に移動することが多いスタジオワークで、移動のストレスがないように作られている。

3mはさすがに持て余すw
3mはさすがに持て余すw

 

ただ、この3mというのは家庭においては持て余す長さで、大画面ディスプレイの前でヘッドホンでステレオ音声を聴きたいというようなケース以外では使えない長さ。このケーブルの長さがこのヘッドホンの使い道を限定する大きなファクターかもしれない(ポータブル用に半分以下にケーブルをちょん切る改造をする人も多いらしい)。このあたりを改良したポータブルオーディオ対応版として、ケーブル長を短くしたK545という機種も企画されたが、同時にハウジングも少し小さくしたのが受け入れられなかったのか、定着しなかった。

 

自分としての使い勝手はこのケーブル長以外は良好で、DAPの駆動力でも比較的「鳴らしやすい」のと、この機種独特の「空気感」が他にないため、ヘッドホン類の中では飛び抜けて稼働率が高い機種となっている。

 

ではその独特の「空気感」とはどういうものだろうか。

 

いつもどおり、リスニング環境はDAP=ONKYO DP-X1Aからのダイレクト出力。DP-X1Aはイコライザーなど全ての音質関係調整はオフだが、音質の微調整に関わる部分として、ロックレンジアジャストはNormal、デジタルフィルターはSHORTを使い、192kHzへのアップサンプリングをしている。

 

K550はシングルエンドケーブル直付けなので、3.5mmシングルのみで評価。

 

まず、cybercatのポタオデ系基準曲、吉田賢一ピアノトリオの「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」を高品位ハイレゾ録音(24bit/96kHz/FLAC)“STARDUST”

から。このヘッドホン、どちらかというと高音の方に伸び、低域の量感が過剰ではないのだが、耳介の下まできっちり密着するように気持ち長めにヘッドバンドを調整すると、ベースの低い音も量は少ないながらもしっかりと響く。ドラムスのライドシンバルから、スネアのブラシにリズムキープが移行するベースソロの部分ではやや弦の音が優勢ながら、しっかりとウッベのボディの音も伝わる。ピアノの音も芯があり左側で広がりを持って鳴り、ヘッドホン独特の閉塞感は少ない。ただ、右chでリズムキープするライドシンバルはややうるさめで、広がりが感じられる分、「も少し落として」という感じかも。やや音量を絞って聴いた方が収まりが良いかもしれない。

 

もうひとつのハイレゾ評価曲も、宇多田ヒカルの「First Love」を“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM⇒FLAC変換、24bit/96kHz)

から。イントロの生ギターの音が非常に美しく、それに続くヒカルの若く震える声が鳥肌もの。ヴォーカルバランスが非常に良く、中央に頑として居座る。低音重視のCIEMなどで聴くと支配的なベースは、控えめながらきちんと「在り」曲の背骨を構成する。2ndコーラスまではヴォーカル曲として非常にバランスが良い。ただラストのこれでもかと盛り上げるドラムスのタム回し、シンバル連打の部分は気持ち迫力不足か(バランス的にヴォーカルとストリングスが勝つ)。

 

同じバラードでも、女性声優あやちゃんこと洲崎綾のメモリアルファンブック“Campus”

に収められた「」は少し様相が違う。バラード曲としてはややヴォーカルの圧が弱く、録音も少々こぢんまりしている曲なのだが、このK550だと右端で鳴る生ギターのアルペジオの弦によるタッチの差や、左側のピアノより明らかに外でなるディストーションギターなどの広がりが明確で、広く開いた中央であやちゃんの声が響く。とくにブレイクでピアノだけの伴奏になったときの、ヴォーカルはとても情感豊か。

 

同じあやちゃんが、女子大生のアイドル=新田美波を演じるアイドルマスター シンデレラガールズでの初期持ち歌「ヴィーナスシンドローム」。

音飽和系の楽曲で、中途半端に解像度が高いイヤホンなどだと、うるさいバックトラックにともすれば埋もれてしまうヴォーカルがきちんと中央に来て、悪くない。右端でコードを鳴らすディストーションギターと、他のイヤホンなどではあまり主張せず聴き取りづらい左端の単音で刻むエレキギターがきちんと聴こえ、広さが感じられる。低音重視のイヤホンなどだと過剰にクリップ限界近い低音のデジタルビートはほどほどで、耳障りではない。この曲、聴く前は一番「合わない」と思われたが、ダンス曲としてではなく、ヴォーカル曲として聴く場合、むしろ相性が良いかも。

 

一方、ジャパニーズフュージョンのトップバンドT-SQUAREが過去の名曲をゲストプレイヤーを入れてセルフカバーした“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”

から、ベーシストとして日野'JINO'賢二を迎えた「RADIO STAR」は、キレや広がりは悪くはないのだが、グングン曲を前に進ませるJINOのベースラインや、ソロの部分の後半のプッシュのスラップが量的に沈み込まずちょっとノレない。ただJINOの後半のラップ部分は結構ピカイチかもしれない。先日惜しくも病気療養のため退団した河野のピアノソロは良く聞こえるのだが、むしろ中央やや左で鳴る安藤のミュートギターの方が目立つというあまり聴いたことがないようなバランスで、少々違和感。ただ、今まで聴いたことがないような音の発見があって面白い。

 

低音がやや弱いと厳しいかと思われたオーケストラ系楽曲、交響アクティブNEETsの「鉄底海峡の死闘」を“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から。あれ?意外に悪くなくない?もちろんティンパニのドウゥゥンという地響きはなく、ヘッドのアタック音が中心で、弦もコントラバスの最低音ではなく、その上あたりまでがほとんどなのだけれど、やや右chに位置するティンパニを打ったときの響きが左から返ってきたり、弦の「広さ」が感じられて左右の広さと「埋め尽くし感」があってスケール感がある。また中域の美しさが和笛のようなフルートの音色を引き立たせる。

 

ちょっと最近の風潮に反して?音圧低めのミックスである24金蒸着の高品位盤=Eaglesの“Hotel California”

の表題曲「Hotel California」はDAPのヴォリュームを最大(160)まで上げる必要があるが、破綻はない。もともベース大きめの曲なので、多少控えめになってもしっかりと追えるし、複数のギターが左~右へと一直線に並ぶのはかなり壮観。ツインギターのソロのハモリも美しい。

 

AKGの密閉型上級ラインを約10年にわたって背負ったK550シリーズの初期型、K550。

特徴的な大きな円形のハウジングはふっくらと顎骨まで包み込み、必要なだけの低音を届けるとともに、耳の脇の空間はヘッドホンとは思えない「空気感」を描き出す。

 

音の傾向・製品内容としては

ヴォーカルが中央に明確に定位する左右の広さ

〇空間の広さと相まって定位はバシッと決まる

〇高域は主張は強くないが、空気感まで感じられる自然な感じ

〇中域はしっかりと細部まで描き出し、分離の良さと相まって、情報量が多い

〇能率比較的高く、DAP内臓アンプでも駆動できる

という他に得がたい特徴がある。

 

一方、

■低域は「豊か」ではなく、「速さ」もないので、ビート重視の楽曲は相性がある

■なんにせよ、パーソナルユースにとってはケーブルが長すぎる

という弱点もある。

 

ただ、精密な定位と窒息感のない音場は他のヘッドホンでは得られず、ある程度の音量を突っ込めば低域も必要なだけは出るため、現在自分にとってはヘッドホンのファーストチョイスとなっている。

 

これは「名機」といってよいヘッドホンだと思います。

 

【仕様】

方式:密閉ダイナミック型

周波数特性:12Hz~28kHz

感度:94dB/mW

インピーダンス:32Ω

入力:3.5mmステレオミニ

ケーブル長:3m

質量:305g(ケーブル含まず)

付属品:3.5mm→6.3mm変換プラグ

更新: 2020/10/12
高音

ステージが広く、開放感と相まって透明感あり

高いところまで伸びきっている...という感じよりは、広い空間に溶けていく...という感じの高音。キツくはないが、量は少々多め

更新: 2020/10/12
中域

サウンドステージの中央に主旋律がくる

ヴォーカルが「前に出る」というより、他楽器が横に控えて中央を譲るという感じの目立ち方。ゴリっと押し込むのではなく、すっと真ん中だけ空いているというか...

更新: 2020/10/12
低音

量はない。前にも出ない。

きちんと耳介を全て収めて、イヤーパッドを耳の下の顎骨くらいまですっぽりと覆うように深めにかぶると、振動も伝わり、量感が増す。

更新: 2020/10/11
音像

左右の広さと「空気感」

密閉型なのに、オープン型のような圧迫感ない広さが他にない。

  • 購入金額

    9,900円

  • 購入日

    2015年10月24日

  • 購入場所

    e☆イヤホン 名古屋大須店

19人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • jive9821さん

    2020/10/13

    私の場合はヘッドフォンを装着したまま少し離れた場所にある
    CDを取りに行ったりしますので、長いケーブル(2.5~3m)を
    好んで使うのですが、長さを嫌う方も結構いらっしゃるんですよね。

    リケーブル対応であれば好みでケーブルを変えれば良いのですが、
    直出しだと確かに結構重要な要素かもしれません。
  • cybercatさん

    2020/10/13

    デスクに座って聴いていると、椅子のキャスターでコードを踏みそうになるんですよ。
    あと、DAPで聴くことも多少はあるので、最大でも1.5m程度の方が良いですね。
    TVでBDなどを距離をとって観る時はサラウンドワイヤレスを使いますし。

    リケーブル対応=最終形のMKIIIがそうでしたね。
  • harmankardonさん

    2020/10/13

    Q701で痛感したのですが,AKGのケーブルはヘッドホンと釣り合いが取れていません.リケーブルすると,ワンランク確実に上がります.両出しにすると更に良くなりますが,ハードルが高くなってしまうので,片出しリケーブルをオススメします.
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