実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
ここのところ断続的にご紹介しているMarion Zimmer Bradley(マリオン・ジマー・ブラッドリー)の連作、ダーコーヴァ年代記。先にご紹介した「ナラベドラの鷹」
同様これも外伝。
ただ「ナラベドラの鷹」がダーコーヴァ年代記本編側と単語の重複や考え方の相似があるだけで、ほぼ別の時、別の場所の作品である、というのが明確だったのに対して、本作は前外伝(といっても本国での刊行順は本作が先)に出ていた「トイ・メーカー(おもちゃづくり)」のエヴァリンなど共通のキャラクターはいれど、ドライ・タウンやキャットマンというようなダーコーヴァ年代記本編と共通の地名や種族も登場するし、地球帝国という背景も共通。
(物語の、でなくて現実世界の)時系列的に言えば、ダーコーヴァ年代記群というのは、Marionが少女時代から暖めていたプロット「オルドーンの剣」
が起源となるが、これに加えて同じ1962年に刊行された「惑星救出計画」
と本作がベースを造った。ただ彼女自体このダーコーヴァ系の物語を年代記として一連のものにする気は当初はなかったようで、いろいろな齟齬や矛盾がある(たとえば「惑星救出計画」で語られる月の48年周期の“合”のとき発生する死亡率87%という人口に壊滅的な打撃を与えるはずの疫病、「トレイルマン熱」は不時着直後のエピソードを除いても数百年の時間的経過があるダーコーヴァ年代記で二度と取り上げられない)。
この1960年代前半に書かれたダーコーヴァ系物語は彼女の昔からのプロットで、ある意味習作とも言える。その後、「オルドーンの剣」を軸にこの世界を発展させ、「惑星救出計画」のように一部都合が悪い部分はあるが、大勢に影響がないものは組み入れ、本作のように似て非なるものは外伝として外に置いた、ということなのだろう。そして本作で出てきた魅力的なモチーフ、「トイ・メーカー」は別のお話として「ナラベドラの鷹」に発展させた、と(だから本国のダーコーヴァ年代記研究家には「ナラベドラの鷹」を年代記に含めない人もいるという)。
そんなダーコーヴァ年代記とは従兄弟に当たるような関係の作品。
舞台は惑星ウルフ。地球帝国の秘密情報局局員のレイス・カーギルはこの星を去ろうとしていた。彼はこの星で多くのものを失くした。友と妹と自分の仕事と。そして顔と心に癒えぬ傷を得た。
凄腕の諜報員だったレイスはかつて組んで仕事をした親友ラカール・センサーに裏切られ、顔に大怪我を負ったうえ、あらゆる場所の必殺名簿にレイスの名を残されたため、諜報員としては仕事ができなくなったのだ。そして彼は唯一の肉親である妹のジュリもうばっていった。
そんな自分がこの星に身を置くところはもうないと、旅立つために宇宙港にいたレイスは突然呼び戻される。そこには自分をおいてラカールと失踪した妹のジュリがいた。彼女が言うにはラカールが娘のリンデイを連れて行ってしまった、というのだ。
ラカールはトイメーカーから非人類のおもちゃを手に入れ、それをリンディに見せていた。魅入られたようになるリンディが心配で、ジュリがおもちゃを棄てた翌日に彼らは出て行ってしまったのだという。
リンディと彼女を連れ去ったラカールを探すレイスとジュリ。レイスは行く先々で面倒ごとに巻き込まれる。ラカールと間違えられて拷問を受けたり、誘拐されたり....ラカールはレイスとの過日の決闘の結果、レイス同様顔に大怪我を負っていて、背格好も似ているからだが、なぜこうも自分と行動が交錯するのか?
その捜索行の末にレイスはトイメーカー、エヴァリンとその手先の女ミーリンと出遭う。エヴァリンの造る精巧な機械仕掛けの小鳥、彼はそのトイを地球人の有力者の子供に配っている。トイに魅入られる子供。トイは子供の思念を受けて動く精巧な造りもの。しかし彼が配るそのトイは組み込まれたターゲットを暗殺する兵器だった!レイスはここでもラカールに間違われ、「レイスの目の前で」レイスに同調してある小鳥を離すよう強要される。それを拒否すれば/それに失敗すればラカールの妻に同調させた小鳥を離すというのだ。ラカールの妻...つまりレイスの妹のジュリ!いずれにしても表面上は引き受けるしかなかった。ウルフから地球人を締め出そうとするエヴァリンの真の目的は?ラカールはなぜエヴァリンの周辺をかぎまわっているのか?
その後のエヴァリンの一党の狂乱の宴から逃げ出す際に行動を共にする羽目になったミーリン。彼女とラカールを探すさなかに親密になる二人、そして真の敵はエヴァリンと知る。そのエヴァリンから強要されてかつての親友、妹の夫であるラカールを探すレイス。ついに彼を探しだしたとき....!
レイスとラカールの過日の遺恨の決着は?真の敵であるエヴァリンは斃せるのか?トイに魅入られたリンディを助けることはできるのか?愛する女性の両手を鎖でつながれた枷で留める等倒錯的な風習が語られたりもして、なんとか風変わりな「異世界」を描き出し、形作ろうとする若き日のMarionのもがく姿が見える作品。後の作品に比べると、場面の急な展開とレイスとラカールの憎しみ合いと終末のあっけなさ、ミーリンとレイスの関係の進展など独りよがりの部分もあり、ノれない感じ。でも習作、として捉えるとこの作品のどこがダーコーヴァ年代記に組み入れられていって、どの部分が離れていったのかが興味深い作品。ダーコーヴァの世界にどっぷりつかっているならば....読むのは?今でしょ!
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購入金額
340円
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購入日
1987年頃
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購入場所
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