レビューメディア「ジグソー」

千里の情報量が絞られていたときのファン待望の作品

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。 こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストも人間です。不慮の事故や病気、その他の事情で活動がしたくても絞られてしまうことがあります。一番活動量が多かったときに絞らざるを得なかったアーティストが、そのタイミングでリリースされたアーティストの自己の様々な面を表した作品をご紹介します。

 

森高千里。1990年を挟んだ数年を最も精力的に活動したシンガーソングライター。現在でもその衰えぬ容姿を時々TVで披露し、20世紀ヒット歌謡曲集などの懐メロ番組などで見かけるが、やはり90年ごろの活動が輝いていた。最初期は女優業も手がけていたが、すぐに歌手活動一本に絞る。デビュー時点は他者の歌を作った歌を歌う「シンガー」だったが、4枚目のシングル(2ndアルバムからのカット)ですでに作詞に関わり、4枚目のアルバムからは楽器演奏、6枚目のアルバムからは作曲も手がけるようになって、シンガーソングライター兼プレイヤーに成長。

 

また、商品としての自分をよく知っていたのか、セルフプロデュース力も高く、80年代には曲に合わせたユニフォームのコスプレや、超ミニスカートで美脚を惜しげもなく晒して男性のファンを掴んだかと思えば、90年代に入っては女性目線の曲「私がオバさんになっても」なども作詞し、同性の支持も得る。さらに、「渡良瀬橋」などの後世に残る曲も創っている。

 

こうしてみると順調な人生のようだが、一番の危機は1994年から足かけ2年のステージのドクターストップ。ちょうどNo.1を含むシングルチャート一桁の曲を連発していた人気絶頂の時に、顎関節症を発症し、予定されていたコンサートをキャンセルして、続く2年ほどは活動制限を余儀なくされた。

 

この作品はちょうどそのころ創られた、予定であればコンサートの中心となるはずだった9thアルバム。

 

楽曲制作への関与の比率がドンドン高まり、演奏にも積極的に絡むようになった7thアルバム以降の千里の楽曲は、初期のデジタルなイメージはほとんどなくなり、若干オールディズな雰囲気を纏った曲の比率が多くなってきたていたが、本作はそれの集大成と言えるかもしれない。

 

1曲The Beatlesのカバーが入っているが、それ以外の作詞はすべて千里。曲も2曲書いている。ドラムスは全曲で千里が叩き、一部の曲ではピアノも演奏、ギターも1曲弾いている。これだけ関わっているので、強く「森高千里カラー」が出た作品になっている。

 

気分爽快(Album Version)」。アサヒビールのCF曲、「気分爽快」の別ヴァージョン。...とは言っても、大きく違うわけではなく、一部楽器のバランスが異なる程度だが。この曲は♪飲もう/今日はとことん盛り上がろう♪という歌詞と、結構ハッピーな感じのサビの曲だが、実は自分の好きだった人を親友に取られてしまった、でも明日はデートという親友を祝って、恋していた時のことを忘れよう...という切ない曲。♪まさか/あなたが/彼を射止めるなんてさ/まいったな/私は/正直ちょっぴりショック♪だけれども、♪明日/明日デートだね頑張って/手をつなぎ/ほら肩よせて/この野郎/明日/明日私はだいじょうぶだよ/不思議だね/気分爽快だよ♪と複雑な心境を歌う。千里のドラムプレイはデジタル的にスパスパ切れるタイプではなく、ロカビリー風のタメ気味の叩き方なのだが、それがとても曲調に合っている。

 

フォーキィで「渡良瀬橋」のようなテイストもある「夏の日」。J-POPになる前の「ニューミュージック」という曲調。アルペジオの生ギターが懐かしい感じ。曲は特に中期以降、千里とのコンビが多かった斉藤英夫。千里の緩やかなシアワセを歌う歌詞が良い。♪頬なでる潮風/沖を走る連絡船/小さな幸せを/今はかみしめてる♪

 

台風」は伊秩弘将の作曲だが、SPEEDなど比較的デジタルな曲に相性が良い彼にしてはロカビリーロック調の若干古めのテイスト。ただサビの部分(特に後半)のコードのつけかたが粋で古い感じにはならずには済んでいる。ラストのサイケな感じも含めてぶっ壊れ方が面白い曲だけど、なぜかこの曲だけ編曲者のクレジットがない。誰がアレンジしたんだろ。

 

本来は、コンサートの余勢を駆ってダーーーッッと行きたかったかもしれない立ち位置のアルバム。でもそれがなくなって、むしろより千里らしさが出たかもと思われる出来の作品。アナログな感じのドラムスと、時に繊細、時にアッケラカーン、時に切なく、時に弾ける...、彼女の書く「等身大の詞」が楽しい。

 

曲の造りは90年代としてもやや古めだったけれど、逆にそれから四半世紀もたったのに、いつまでもそこにとどまっていて、古ぼけず色あせない、そんな不思議な作品です。

楽器を演奏する千里とドレスを纏った千里。どちらも彼女の魅力。
楽器を演奏する千里とドレスを纏った千里。どちらも彼女の魅力。

 

【収録曲】

1. 気分爽快(Album Version)
2. 若さの秘訣
3. ずる休み
4. 男なら
5. 夏の日
6. Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey
7. 鳥かご
8. 星の王子様
9. 私の大事な人
10. 一度遊びに来てよ
11. オフィス街の恋
12. 台風
13. 風に吹かれて
14. STEP BY STEP〜彼の人生〜

 

「夏の日」

更新: 2020/10/04
必聴度

積極的な活動が出来ないときの「表現」

コンサートを打てないときのじっくり取り組んだ作品。現状(2020年:新型コロナウイルス蔓延でほとんど全てのライヴ・コンサート中止)の世界と相似している。

  • 購入金額

    2,900円

  • 購入日

    1994年頃

  • 購入場所

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