レビューメディア「ジグソー」

揺るぎない、と思われていたものが変わったときに..

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。グループで活動をしているときに、メンバーの変遷というのは避けられないできごとです(希にスピッツのようにデビュー以来20年以上メンバー変更がないグループもいますが)。メンバーの死亡など不慮の事故から、音楽家としての廃業、あるいは方向性の違い、商業的な側面...様々な理由でグループはそのメンバーが変わります。デビュー以来不動と思われたメンバーが、頂点を極めたことで変更された、その直後の作品をご紹介します。

TOTO。日本においてはむしろ本国よりはやく火がついたテクニック志向のプロ集団。その卓越したテクニックと音楽性によって日本ではデビュー時から熱狂的に迎えられたが、本国では1stこそチャート9位でそこからチャート1桁のシングルヒットがあったがその後は徐々に人気が低下していった。

1st⇒2ndが路線継承で前作を上回れなかったので、3rdではよりヘヴィなロックギターバンドへとシフトしたが

売上的には支持を得られず、もう一度1st路線に返って音楽性を高めた4thで

ついに本国アメリカでも高い評価を得る。アルバムが全米4位、シングルカットされた曲も、1位、2位、10位に30位と大ヒットし、もともとセッションミュージシャンであった彼らの参加する作品が激増し、“TOTOサウンド”が全米を席巻した。

しかしデビュー以来不動のメンツだったこのバンドにその後変化が起こる。「Ⅳ」の完成直後、オリジナルメンバーのベーシストDavid Hungateが脱退した。この穴は当時のドラマーとキーボーディストであるJeffとSteveのPorcaro兄弟の次兄、Mike Porcaroで埋められた。リズムを司るドラマーとベーシストが阿吽の呼吸が通じる兄弟、というのは悪いことではなかったので、若干のリズムのノリの違いはあったものの何とか乗り切ったが、次の大波は本作の制作中にくる。

それはオリジナルボーカリストBobby Kimballの脱退。もともとTOTOには複数リードボーカルをとれるメンツがいて、Bobbyがリードボーカルながら、甘いバラードはギタリストのSteve Lukather(Luke)が、ファンキーな味付けの中音域のボーカルはもうひとりのキーボーディストであるDavid Paichが担当していた。そのふたりの比率が徐々に増え、ヒットアルバム「Ⅳ」ではついにBobbyのリードボーカル曲は半分を切った。LukeとPaichはそれぞれ担当楽器があるが、ボーカリストであるBobbyがボーカルを取らない、となるとコーラスくらいしか出番がなく、このあたりがきっかけとなったのか、Bobbyの脱退は本作のレコーディング中に離脱、という穏やかならぬものだった。

そこで彼の抜けた穴をふさぐべく、1000人のオーディションから選ばれたのがFergie Frederiksen。Bobbyのハイトーンを上回る、鋭く抜けるハイパートーン、エネルギッシュなロックボーカリストで中域のPaich、甘い声のLukeとの対比もよいだろうと迎えられたボーカリスト。

そんな彼のイントロデュースは「Carmen」で幕を開ける。中音域のPaichのボーカルラインを追いかけるようにFergieのハイトーンボーカルがかぶせる。その対比でFergieの声の特徴が強調された曲。間奏のカスタネットのような響きのパーカッションがジプシー(カルメン)風?符割りがちょっとプログレ風で「Ⅳ」の曲よりハードでタイトだが、スピード感は満点!

「Lion」はFergieのハイトーンを使ったソウル風味付けのタイトなチューン。ラッパのラインがクロイ。頭16分休符のヌキで裏々に入るピアノの和音、Jeffのドラミングもタイトでオンタイム、少しそれまでの4作とは違って硬い感じ。うねうねとうねるLukeのギターソロだけがTOTOっぽい。

「Stranger In Town」はシンベの単調な低音にタイトなJeffのドラムが入り、♪Oh,Oh,Oh,Oh,Oh,Oh♪と低い声で入るコーラスが印象的。2/4拍子を所々に挟んで緊張感を出している。音作りとしてはちょっと“Turn Back”

のあたりにTurn Backした感じ?ただ3rdがヨーロピアンな暗さ持っていたロックアルバムなのに対して、こちらはもっとソリッド。途切れ途切れに入るサックスのオブリが印象的。

頂点を極めた「Ⅳ」で別の山に登りたくなったのか、ともに登った仲間が欠けたからなのか、やや迷走した感はある。曲としてもそれまでの(3rd除く)やわらかな感じのあるアメリカンロックから、機械やデジタルと融合した硬くてハードなロックへ。ただTOTOの魅力は様々なミュージックフィールドで活躍するメンバーの多彩な音楽性のカオス性。

高域とハードロックに限れば最高のFergieも、ファンキーな味付けや柔らかなAOR路線には合わず、結局この1枚で離脱することになる。器用にロックからソウル、AORやハードナンバーまで歌い分ける次のボーカリストJoseph Williamsは合流後

2枚アルバムを残し、現在のリユニオンにも関わっていることを思うと...

変わらないことの難しさ、変えていくことの難しさ、が判る作品です。

【収録曲】
1. Carmen
2. Lion
3. Stranger In Town
4. Angel Don't Cry
5. How Does It Feel
6. Endless
7. Isolation
8. Mr. Friendly
9. Change Of Heart
10. Holyanna

「Stranger In Town」

  • 購入金額

    2,800円

  • 購入日

    1988年頃

  • 購入場所

14人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • ちょもさん

    2013/03/01

    おお、東洋陶・・・w
    アルバムは単体では持っていなくて、Past to Present 1977-1990のみ買ってます。
    あ、LPで何か持っていたような気がする・・・
  • cybercatさん

    2013/03/01

    ちょもさん、コメントありがとうございます!
    >東洋陶・・・w
    www

    “Past to Present 1977-1990”...
    このアルバムのFergie以上に継子にされてるJean-Michel Byron参加のレア商品ww

    なんか「Past」ばっかり目立った作品でしたねw
  • jive9821さん

    2013/04/02

    このアルバムは私が初めて買った洋楽のアルバムでした。当時は所謂ミュージックテープで買ったものです。その後LPやCDでも買い直したのはいうまでもありませんが。

    Fergie Frederiksenは昨年開催された「Voice of AOR」というイベントで歌声を聴いてきました。癌で死にかけていたという彼ですが、ヴォーカルは思いの外若々しさを保っていて、「Carmen」などはオリジナルキーで歌いきっていましたね。ただ、Bill ChamplinとデュエットしたChicagoの「Hard Habit To Break」ではちょっとしなやかさに欠ける部分があり、彼がやはりハードロックシンガーであることを感じさせられました。

    ちなみにこのイベント、Bobby KimballやSteve Augeri(元Journey)も参加していた豪華な顔ぶれだったのですが、客の入りが異様に悪かったのが残念だった記憶があります…。
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