「入江調」と呼ばれる、あからさまな描写を抑え、しっとりと湿り気を帯びた情感豊かな一葉一葉の画からは、古代人や万葉人の足音やこころまでもがひしひしと感じられる。
千年の長きを経て、古色蒼然に彩られた堂塔伽藍などが、美しくも豊かな風土の中に見事なほど自然に溶け込んでいる「国のまほろば」の情趣。
大津皇子の悲哀と怨念が色濃く映るかのように暮れてゆく二上山。
飛鳥寺の入鹿の首塚に、遠く思いを馳せる蘇我氏の栄華と滅亡。
万葉人の詠んだ歌が投影されたかのような高天原の展望や冬枯れの農村。
心の眼によって切り取られた「ただひっそりとそこにあるだけの」と言い切る風景の数々・・・。
それは池に映る塔の姿や泥濘んだ早春の里の古道であったり、千年ものあいだ風雪に曝された路傍の石仏であったりする。
「滅びの美や燻された金銀の蒔絵に似たわびしくも渋い美」
彼の心象風景がその姿を現すまで、入江泰吉は同じ場所で幾日も幾年も静かに待ち続け、数十年間にわたり同じ光景を丹念に撮り続け、現今、私たちが喪失してしまった心の故郷をここに残してくれた。
「大和路には、歴史のなかに生きた人たちの、つまり、われわれの祖先の心が宿っているのです。そう感じながら見るから、大和路は美しいのです。私は三十年間、大和路を主として写し続けてきましたが、風景でも寺院でも仏像でも、このあたりにある一木一草に至るまで、すべて古代人たちの心が宿っているのだ、という気持ちを抱きながら、シャッターを切ってきました。」
ひとつひとつの情景が匂い立つほどに美しい。
その薫りとともに、静謐の中から幽かに聞えてくるいにしえの調べに私は酩酊し、時間を忘れ、時代を超える。
入江泰吉が撮り続けた大和路を、私もいつの日か、太古の情景を心の眼で合焦しながら歩いてみようと思う。
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購入金額
3,990円
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購入日
2012年10月頃
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購入場所
退会したユーザーさん
2012/11/06
なぜか見てみたい、読んで見たい、愛でてみたいと
思わせるんでつよねぃ(・・;<困ったもんだ(ww
さすがにこれは購入いたしませぬが
vingt-et-unさまの紹介文や画像には
あやすぃ魅力がありまする(www
vingt-et-unさん
2012/11/06
どうもありがとうございます。
なつめぐさんの風神雷神リボルテックを見て、あらためて手持ちの宗達と光琳の画集を広げて見ております。
リボルテックは当分買えないと思いますので、悔し紛れに画集を登録しようと思いますwww