レビューメディア「ジグソー」

ひとは最後は独り?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。永い芸歴を誇るアーティストは様々な形態で作品を発表します。ソロ、グループ、コラボ...一つのアルバムに含まれる作品が固定のグループ(あるいはサポートミュージシャン)でがっちりとかためられていることもあれば、様々なアーティスト/ミュージシャンとの交流を楽しむ作品もあります。そんな中、(特に最近はテクノロジーの進歩もあり)自分自身だけという作品もありえます。独りで過去の自分と向き合う、そんな作品をリリースしたアーティストとその作品をご紹介します。

Larry Carlton。言わずと知れた1970年代末~1980年代前半フュージョンムーブメントにおいて、Lee Ritenour

と人気を二分したギタリスト。2012現在御年64歳。メジャーデビュー後もWarner ⇒ MCA ⇒ GRP ⇒ Warner ⇒ Aristaと渡り歩き、現在は自身のレーベル335 Recordsで発信を続けるアーティスト。

この作品は3枚組の装丁だが、“Then and Now”の名の通り、最初のメジャーレーベルであったWarnerからの3枚よりセレクトされたベスト(この時代に前述のフュージョンギタリストの一方の巨頭としての地位を築いた)が1枚、同じくその時期に日本限定発売された(つまり海外ではレアディスク)ジャパンライヴが1枚、最後に「1枚目と同じ曲を同じ曲順で現在の彼が再録音したもの」が1枚、という構成になっている。

3枚目の“Four Hands & A Heart”は単独でも売られたので、すこしデザイン的には散漫?
3枚目の“Four Hands & A Heart”は単独でも売られたので、すこしデザイン的には散漫?

1枚目は才気迸るプレイ、若さ溢れるエネルギッシュなプレイ、(彼は他の同じ畑のギタリストと比べてその傾向は少ないが、今と比べると)テクニックを魅せるプレイに溢れている。脇を固めるのもJeff Porcaro

やAbraham Laboriel(, Sr.)、

Steve Gadd

などのそうそうたる凄腕ミュージシャン、後にLarryと永く行動を共にするGreg Mathieson、Terry Trotterという仲間たちが若さ溢れるプレイのLarryを支えていて、やはり原点。

2枚目の1978年11月1日の東京の郵貯会館でのライヴは未発の海外はもとより、日本でも永く廃盤で入手が難しかったが、フルサイズで再録された。このときのメンツはLarry本人に加え、盟友Greg Mathiesonがキーボード、ベースにNeil Stubenhaus、ドラムスJohn Ferraro、パーカッションPaulinho da Costaという盤石リズム隊。意図的になのか、収録時間の問題か最大のヒット作「Room 335」がないので訴求力的にはアレだが、若かりし頃のLarryのアツイアツイソロが堪能できる。

そして3枚目。1枚目の曲を30年以上経って再演。自身で弾く複数のギターの重ね録り以外は一部の曲でリズムマシンだけという潔さ。音数が少ない分、エモーショナルな円熟のプレイが楽しめる。

Room 335」。あの名曲。構成はパーカッション(マシン)+3本のギター。初出の頃と変わらないオーバードライヴとコンプレッサーの効いたメロディのエレギに、左右の生ギの「例の」カッティング。先の“Greatest Hits Re-Recorded Volume One”

と比べると、よりプライベート。Larryの今の解釈かも知れない。アドリブパートになると例の彼独特の「入り」が下降するライン

で、ニヤリとしつつもとてもメロディアスな彼のギターが堪能できる。

Don't Give it Up」。リズムマシン+2本のギターで奏でられるこの曲は、当初なんの曲だか判らないくらい「遅い」wそしてとてつもなくブルージィでジャジィになっている。Larryは結構弾きまくり!!

10 PM」。もともとギター中心の静かな曲だったので、元曲のイメージが良く残っている。2本のギターだけで切々と演奏される「夜」という感じがガンガン胸を打つ曲。途中でリズム的にもテンション的にもかなりブッ壊れるwが何とか戻って来て、ピッキングの強弱が素晴らしいラストコーラスを経て、夜の闇に消えていく...

この3枚目は「Strikes Twice」のように、ちょっとたどたどしい?タッチで、2nd(メジャーデビュー後)のあの才気溢れる運指練習のような高速メロディラインはどうした!と声を掛けたくなるような曲もあるけれど、ナチュラルなLarryの現在(いま)が見える。

1枚目と3枚目を比べて聴くと、30年の時間が及ぼした時の魔法が感じられます。人は誰しも老いる。それは衰えなのかそれとも円熟なのか。その判断はご自身で、どうぞ!

【収録曲】
<CD1> ()内邦題 “”内オリジナル収録アルバム
1. Room 335 “Larry Carlton(夜の彷徨)”
2. Nite Crawler “Larry Carlton(夜の彷徨)”
3. Point it Up “Larry Carlton(夜の彷徨)”
4. Rio Samba(リオのサンバ) “Larry Carlton(夜の彷徨)”
5. Don't Give it Up(希望の光) “Larry Carlton(夜の彷徨)”
6. It Was Only Yesterday(昨日の夢) “Larry Carlton(夜の彷徨)”
7. Last Nite “Sleep Walk(夢飛行)”
8. Song For Katie “Sleep Walk(夢飛行)”
9. Sleepwalk(夢飛行) “Sleep Walk(夢飛行)”
10. 10 PM “Sleep Walk(夢飛行)”
11. For Love Alone(ただ愛のために) “Strikes Twice(ストライク・トワイス)”
12. Strikes Twice “Strikes Twice(ストライク・トワイス)”
13. Springville “Strikes Twice(ストライク・トワイス)”
14. Mullberry Street “Strikes Twice(ストライク・トワイス)”

<CD2> Mr. 335 Live In Japan <1978>
1. I'm A Fool
2. Mellow Out
3. Tight Squeeze
4. I'm Home
5. Rio Samba
6. (It Was) Only Yesterday
7. Point It Up

<CD3> Four Hands and a Heart Volume One
1. Room 335
2. Nite Crawler
3. Point it Up
4. Rio Samba
5. Don't Give it Up
6. It Was Only Yesterday
7. Last Nite
8. Song For Katie
9. Sleepwalk
10. 10 PM
11. For Love Alone
12. Strikes Twice
13. Springville
14. Mullberry Street

「Room 335」Four Hands and a Heart Volume One版

更新: 2020/09/30
必聴度

時の流れを肯定的に捕らえるか否か

オリジナルの才気と若さが迸るヴァージョンか、経験と円熟の抑えたプレイか...

  • 購入金額

    3,990円

  • 購入日

    2012年10月12日

  • 購入場所

    新星堂

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