実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
「アイルの書」。女流作家ナンシー・スプリンガー(Nancy Springer)の大河ファンタジー。
5巻目にして最終巻。前作の黒い獣
がそれまでの「アイルの書」とは違う語り口で語られた番外編といった風情で、そもそも「アイルの書」である必要があったのか、という状態であったが、この巻で統合される。
この巻での主人公は2人。一人は前巻で最後に一方通行の憧憬を抱くシャマラを探して放浪することになったフレイン。彼は湖の洗礼を受け不死となっているが、それは永遠に続く身を焦がす片思いと同義であり、さまよった彼は「闇の月」
で偉大な王となったトレヴィンの元に、いや彼の息子であり、もう一人の主人公であるデイルの元に流れ着く。
デイルはそのとき狼の姿だった。彼はトレヴィンが東方で成した子。その相手メーヴは「月の母」と呼ばれる魔法使い。デイルは彼女が狼の形態を取っていたときに生まれた子なので狼であった。
人間の姿となった(でもしゃべれない)デイルとともに東方に旅立つフレイン。それはデイルの母メーヴを探すため。メーヴを探し当てた彼らは、女神で至高神のひとつの側面であるメンウィの預言通り、<源>を探す旅をする。その旅のさなかフレインは実の父ファブロンが目の前で落馬して死ぬのを目撃する。それを仕掛けたのは恋してやまないシャマラだった。ティレルへの想いが憎しみにまで変わり、復讐心からファブロンを巻き込み殺したシャマラ。彼女の変わりようと、それでもあきらめきれない自分に愕然とするフレイン...
さらに飢えと渇きにさいなまれる過酷な旅は続き口がきけなくなるメーヴ、<源>に着く直前にその門番に切りつけられ高熱を発し手の施しようがないデイル。
ここでこれまでフレインは「いい子」であった自分、従容と運命を受け入れていた自分に次々と起こる不幸に、その理不尽さに、感情をほとばしらせ叩きつける!!
その結果彼の、デイルの運命は?最後に再会した敬愛する兄王ティレルは?アイルの地に平和は訪れるのか...?
自分の受容と世界との和解、自我の確立と解放....
1~3巻と共通項のある場面・人物設定と、苦難の旅を成し遂げるというファンタジーの造りでありながら、4巻路線をさらに推し進めた精神的な示唆に富んだ話。
「アイルの書」の形式を取る必要があったかどうかは?ですが。
これで「アイルの書」はおしまい。ナンシー・スプリンガーの女性ならではの視点でのファンタジーで、女性が男性の戦利品やアクセサリーではない存在感(女系社会の古アイルランドの影響もあり?)を持ち、生き生きと描かれている。それを日本語に紡ぎなおしたのが、これまた女流名訳者井辻朱美で、神話的な挿絵担当が女流漫画家中山星香と女性3人が関わってできたファンタジー。バラバラでも通してでも楽しめる、高品位な作品群だと思います。
復刊希望で!!
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購入金額
380円
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購入日
1985年頃
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購入場所
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