レビューメディア「ジグソー」

全曲英詞、カントリー&ブラスロックのテイストが新しかった。

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。クロウト好み、マニア受け、ミュージシャンズミュージシャン...言い方はいろいろありますが、一般よりもむしろ同業者や、その道を目指す人にウケが良い音楽があります。音楽フィールドを「仕事」としてとらえた場合、クライアントの要望・要求を的確に実現し、時代の流行も取り入れ...むしろその先を行きながらも、さらにそこに自分たちでしかなしえない「色」を載せる...テクニックがあるのはもはや「前提」として、そんなジャンルの開拓と自己の表現ができる「凄腕」たちがこう評価されることが多いようです。まだバブルに乗る前、日本が成長路線にあった時代のそんな凄腕たちの作品をご紹介します。

 

SHŌGUN。和製TOTOと言われたスタジオミュージシャンのグループ。ギタリストの芳野藤丸が、スタジオでつながりのあるスタジオミュージシャン仲間に声を掛けて活動していたONE LINE BANDに、TV主題歌(沖雅也主演「俺たちは天使だ!」の「男達のメロディー」)のためにギタリストCasey Rankinが加わり、改名したバンド。この時のメンバーは、ピアニストに大谷和夫、ベースがミッチー長岡(長岡道夫)、ドラムスに山木秀夫、中島御がパーカッションと超売れっ子スタジオミュージシャンでかためられ、その高い演奏力とCaseyの書く英詞の粋が合わさり、他のバンドにはない特色となっていた。

 

彼等の特徴は、適度にアメリカナイズされたサウンドとCaseyの英詞。英詞なので、「何歌ってるかよくわからない(←自分だけ??)」のがヴォーカルを記号的にさせ、ミッチー長岡のスラップを多用するプレイと、大胆にフィーチャリングされたブラスによるフュージョン系の薫りもあって、クロウト受けするバンドだった。

 

本作“ROTATION”は、ヒットした「男達のメロディー」を含む1stアルバム

の余勢を駆ってリリースされ、松田優作の「探偵物語」(TVの方)のオープニングテーマとエンディングテーマも含まれているため結構売れたこともあり、彼等のイメージを決定づけたアルバムともなっている。

 

ブラスのラインと絡む、ミッチー長岡の「抜けきらない音色の」スラップベースが「あの頃」を想い出させる「As Easy As You Make It」。ファルセットを使ったコーラスの付け方がアメリカン。ハンドクラップも腰がなく、クラップノイズだけが強調されたような音造り。全体的に70年代アメリカを強く感じるサウンドで(本作のLPリリースは79年)、今聴くと「古さ」を感じるのだが、この曲は「この音色」あって出来上がっている感じ。多分この曲を現在のスパンと抜けるスラップのプル音や、芯のある高サンプリングレートのハンドクラップ音で録り直してもなにか「違う」だろうな。

 

AOR色の強い「Yesterday, Today And Tomorrow」は、作詞作曲はCasey。サビに入ってブラスの対旋律が入ってくるところなどは、まさにAOR王道。壮大なバラードを盛り上げる、ドラマチックな山木のドラミングが、あの頃のデッドな録り方のスネア音と合っている。

 

ホンキィトンク気味のピアノと物悲しいブルースハープの調べが一段落すると、ソリッドなスネアが切り込んでくるのが、名曲「Bad City」。サビの後のフワフワしたバッキングに乗せた英語の台詞のあと、ブラス隊が吠え⇒曲に復帰するというアレンジがイイ。フランジャーをかけたギターサウンドも最近ではあまり聴かないが、曲に合っててカッコイイな。

 

長岡道夫の筆による「The Tourist」はかなりジャジィで、まさに酒場で流れてそうなビッグバンド系の曲。ヴォーカルの声質がメインの二人(芳野とCasey)とは違うので、歌えるベーシストだった長岡のものか。ジャケットのイメージには一番近いかも。

 

SHŌGUNはこの作品で、完全にカラーを確立した。粋でオトナのロックを聴かせてくれるスゴ腕バンドとして期待されたが、次作がタイアップがなく、一般的なアピールに欠けたことと、藤丸と大谷の麻薬所持で活動を停止することになる。その後何度か再結成の話はあったが、ついにオリジナルメンバー全員が集まることはなく、2018年現在では既に大谷とCaseyが鬼籍に入っており、完全再結成は望めなくなってしまった。

 

でもこのバンドが80年代初めに音楽界に与えた影響は大きかった。一般的な意味でのヒットは少なかったので、あくまで裏方だが、そのサウンドが広くポップス系にも採用されたのはスタジオミュージシャングループならでは。そういう意味でも和製TOTOというのもあながちバズレではない。

所持するのは「CD選書」という廉価盤。このあとBlu-spec CD2という高品位盤はでているが、未ハイレゾ化。
本品は「CD選書」という廉価盤。Blu-spec CD2という高品位盤はでているが、未ハイレゾ化。

 

自分としてはLPも初盤で持っていて、このCDも所持していながら、ハイレゾファイルのリリースを心待ちにしている愛聴盤です。

 

【収録曲】

1. As Easy As You Make It
2. Imagination
3. Sailor-Sailor
4. Yesterday, Today And Tomorrow
5. Margarita
6. Bad City
7. The Tourist
8. I Should Have Known Better
9. Lonely Man

 

「Bad City」

 

 

更新: 2018/09/29
必聴度

80年代音楽をウラで支えた凄腕たちのプレイを聴きたければ是非

一般的には「Bad City」と「Lonely Man」しか売れていないけれど、そのサウンドがポップス~J-Rock界に与えた影響は大きかった。

  • 購入金額

    1,500円

  • 購入日

    1991年頃

  • 購入場所

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