アウグストゥスが「帝位のための権威」とした皇統は途絶えた。
この時点で、ローマは帝国で無くなったとしてもおかしくない。
だが、当時の民衆も、後世の民衆も「悪愚」と評した四人の皇帝たちは、(狂った後のカリギュラを除いて)民衆が思っていたほど悪愚でも無能でも無かった。
そして、ローマは初代アウグストゥスによる帝政移行から一世紀弱も、帝国という政治体制を用い、それを担う人材を育て、広く浸透させてきた。
要するに、腐ったのは元老員をはじめとする「トップ」の側だけだけで、足腰は頑強に育っていた。
だからこそ、ローマは「トップが寝ていたに等しい28年間」をもってしても、国家の基礎は小揺るぎもしなかったと言える。
たとえ、その無能なるトップしか居なかった時期に、町一つが溶岩の中に飲まれるほどの天変地異が起きたとしても、大規模な疫病があったとしても、だ。
この年代のローマを襲った「危機」は、今までにあった「ハンニバルによる国土蹂躙」や「勝者の混迷による大規模内戦」の時期に比べれば、幾分マシな部類であったのではなかろうか?
国家としての機構は頑強であったし、対外的にも幾分ヤバイ状況は生まれたものの、ここぞというときはローマというシステムによって敵を撃退し、致命傷になる前に対処出来ている。
要するに、国家としてのシステムに問題があったから生まれた危機で無かったが故に、民衆にとっては「不満だし、気にくわないが、トップが無能なら取っ替えちまえばいいだけのこと。災害のほうが大問題」という、何だか
『はて、どこかで聞いたような・・・・?』
・・・という危機でしか無かったと思う。
それでもなお、当時実際に生きて、その年代を記録したタキトゥスに言わせれば
「それは、神々の意志がローマ人の安全より、ローマ人への懲罰にあるということを、かほども明白に示した時代もなかった」
とのことだから、やはり「落ち目」の時代に生きるということは、絶望と隣り合わせではいられないということなのだろうか。
それにしても、この状況でなお「二年だけなら名君でいられて当然」などという冗談を飛ばす気力があった民衆というのは、ある意味強いもんだと思う。
そして、同時に「たとえ二年でも名君を得られた」彼らを、それも最大級の天変地異が起きたその時代に得られたというタイミングに対し、私は強い羨望を覚えずにはいられない。
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