SFファンでなくともこの世界観は堪能できるというよりは、SFというカテゴリーにおさまりきれない作品である。
アメリカの特殊部隊員である「僕」が淡々と語りだす、度重なるテロと核戦争によって侵された近未来での戦争=大量殺戮。
生とは死とは、そして進化したテクノロジーが評価する命の重さと軽さとはなど、やもすれば非常にシリアスで重苦しい題材を、スピーディーに読み応えたっぷりで完結したエンターティメントの核として、見事にストーリーに織り込ませた筆力に圧倒された。
ただの活字ではない。
これは文字の姿を借りて脳内に描き(弾き)出される映像的な文学であると思う。
惜しくも34歳で夭折した著者の処女作にして、後世に残るであろう名作。
主人公クラヴィス・シェパード大尉によって幾度も繰り返し問われる生と死。
そこには宗教じみた倫理観や現代人への警鐘、哲学的な諦観などはかけらも見られない。
本書を執筆していた闘病生活中、手を伸ばせば触れられそうなくらい著者の近くに存在していた死を徹底的に感じ、生きるということの意味を捜し求めようとしていたかのような、そんな切実なものが伝わってくるように思えてなりません。
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購入金額
756円
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購入日
2011年09月17日
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購入場所
お富さん
2012/09/08
いやーはやー、文体、表現からやや稚拙な印象を持ってしまったものの、それは私に不必要なフィルターが実装されてしまっているからかと思える程、それほどに良い作品でした。
生きていて欲しかった作家ですね。
vingt-et-unさん
2012/09/09
処女作にその作家の持ちうる才能の殆んどが凝縮されているともいいますが、それであれば尚の事、作者の早すぎる死が残念でなりません。