レビューメディア「ジグソー」

初期SPUの復刻版

レコードの世界で、カートリッジの絶対的な存在と化しているのが、デンマークのOrtofonが発売しているSPUシリーズです。

 

SPUとは「Stereo Pick Up」の頭文字を取ったもので、初代は1959年に発売され、それ以降改良やバリエーション追加を繰り返しつつも現在まで製造され続けている超ロングラン製品です。もっとも、日本における標準機であるDENON DL-103とは違い、仕様変更は何度も行われていて、そのままの形で残されているわけではありませんが…。

 

内部の発電方式など、今でもSPUをお手本に各社が独自の工夫を取り入れていると言われるほどの、当時としては革命的な高音質カートリッジでした。もっとも、現代的なカートリッジと比較すると本体重量がかなり重く、針圧も圧倒的に重くかける必要があるという辺りはいかにも旧世代ですし、ごく一部の製品を除き「誰が見てもSPU」と判るほどの特徴的なヘッドシェルに収められたユニバーサルカートリッジという点からも、専用ヘッドシェルに取り付けることを前提とすることが多い現代のハイエンドトーンアームとも相容れない部分はあります。

 

ただ、それでも「SPU以外はアナログの音ではない」などという人がいるほどの熱烈な支持を受けている製品であり、いつかは使ってみたいという思いはありました。そこでたまたま目にした格安中古品のSPU Classic GEを購入することにしたのです。

 

 

数あるSPUシリーズの製品の中でも、初代のSPUをできる限り忠実に再現したというのがSPU Classicであり、SPU Classic GEという型番は「SPU ClassicのGシェル(一般的なトーンアームに適合する形状)タイプで楕円針(Eliptical)」を意味しています。もっとも、初代SPUはいわゆる丸針であり、忠実度が高いのは丸針を採用するSPU Classic Gの方だとは思いますが。また、オリジナルではヘッドシェルの素材はベークライトでしたが、SPU Classicでは金属製となっていたりと、どうしても時代に応じた変更点は各所になります。

 

SPU Classic GEは日本にオルトフォン・ジャパンが設立された前後である1987年に発売された製品ですが、現在もマイナーチェンジモデルのSPU Classic GE mkIIが現行モデルとして存在しています。大きく変わったのは内部ではなく価格のような気もしますが…。

 

 

前置きが長くなりましたが、今回購入したSPU Classic GEを見てみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

オルトフォン・ジャパンのラベルが貼付された正規輸入品であることが判りますね。なお、バーコード等に印刷されている製品名は「SPU CLASSIC GME」となっています。

 

 

 

 

 

 

 

おそらく新品当時は結構綺麗なケースだったのでしょう。さすがに光沢も失われ、欠けたり剥げたりしている部分もあり、年式相応という印象でしかありません。

 

 

 

 

 

 

 

「Ortofon」のロゴが現在のCIロゴの形ではなく、筆記体で書かれています。私も詳しくは知らないのですが、CIロゴが付いている方が比較的新しい製造分のようですので、こちらはかなり古いものと予想されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古い製品の割には外観は意外と良好でした。塗装などそれなりに古びた部分はあるものの、酷く傷んでいるというほどではありません。

 

 

 

 

 

 

 

針先も結構しっかりと残っていて、前オーナーが丁寧に使っていたのか、あまり使用時間が長くないのかどちらかではないかと思います。それでも「MADE IN DENMARK」の文字は結構欠けてしまっていますが。

 

更新: 2020/05/09
使い勝手

実測約27.1gで、SL-1200Gでも利用可能

さて、普段から私のレビューをご覧いただいている方であればご存じかと思いますが、私が使っているレコードプレイヤーはTechnics SL-1200Gです。

 

 

 

 

 

 

SL-1200Gのトーンアームは、重量のあるカートリッジを装着するために、オプションウェイトを装着できる構造となっていますが、添付されているウェイト2種類のうち大きい方を装着した場合で、最大28.5g(ヘッドシェルやリード線の重量を含む)までのカートリッジに対応します。

 

一方、SPU Classic GEの重量ですが、これが実はいろいろなデータがあるのです。日本で配布されていたカタログでは31gと記載されていたようですが、デンマークのOrtofonで過去製品のデータを調べると32gと出てきます。さらに、販売店で提供しているデータでは27gとなっているものもあります。

 

31gであれば、ゼロバランスを取ることは不可能でも針圧計を使って実際に使う針圧をかける前提であれば何とかなると思い、取り敢えずSL-1200Gにウェイト(大)を装着して、SPU Classic GEを取り付けてみました。

 

すると、その状態であっさりと余裕を持ってゼロバランスを取ることが出来たのです。どう考えても31gより大幅に軽いことは間違いありません。そこで重量を測定してみると、約27.1gしかないことが判ったのです。実は私は販売店でいう27gというのは「MADE IN DENMARK」と印刷されている樹脂製の蓋を外した重量だとばかり思っていたのですが、蓋を外さなくても約27gだったということです。

 

というわけで、少なくともこの個体については問題なくSL-1200Gで利用可能だったと結論づけておきます。もっとも、さすがに普段使っているウェイト(小)装着状態では難しいでしょうけど…。

 

 

 

 

 

 

取り敢えず、この後の試聴は写真の通り針圧4.01gの状態で行うことにします。

更新: 2020/05/09
音質

雄大かつ芳醇だが、古さを感じる部分も

私がSPUを使ってみたかった理由の一つは、SPUを高く評価する方の「1959年の段階でこれだけの音を出せていたことを考えると、技術の進歩に対してカートリッジの音はこの約60年間でほとんど進歩していない」という論調の文章を見かけることがよくあるためです。

 

私自身以前ヘッドフォン祭りか何かでSPU(確かSPU Meister Silverか何かだったと思います)を聴かせていただき、確かに魅力は感じたのですが、自分が普段聴くソースではどうだろうと思った部分はありました。

 

 

今回は届いたばかりだったということもありますので、動作確認を兼ねた試聴となるため、無難な所で「Aja / Steely Dan」の国内盤LPを聴いてみました。

 

 

 

 

 

 

 

タイトル曲「Aja」を中心に試聴してみましたが、普段のリファレンスであるaudio-technica AT-OC9/IIIと比較すると一聴して傾向は明らかになります。

 

 

 

 

 

 

まず、SPU Classic GEの音は低域方向がゆったりと出てきます。厚みがあり、それほど引き締まった音ではないのですがだらしなくは感じず、むしろ芳醇さを感じるような低音です。中低域~中域に関しては、曲終盤にあるサックスソロの音色が生々しく素晴らしいと思います。一方で高域方向は特筆するべき点は特になく、ごく普通に出ているだけです。ピアノの音に関しては厚みとまろやかさでSPU Classic GEが優位に立ち、タッチの明瞭さや透明感はAT-OC9/IIIが優位に立つということで、正反対と思えるほどに性格が違うことが判ります。

 

 

ここで最初に述べた「音が進歩していない」という部分について改めて考えてみましょう。確かに、SPUの音にはSPUならではと思える魅力があります。そしてSPUの持ち味はレコードに多くの人が求めるものと重なっていることも間違いありません。

 

しかし、高域方向は特に顕著ですが解像度の高さや正確性という部分では比較にならないほどAT-OC9/IIIの方が上です。SPUの音を基準にして「これがレコードの音だ」と断定してしまえば現代的なカートリッジは何も進歩していないといえますが、オーディオ機器としてできる限りソースに記録された音を正しく拾うという観点で判断すれば圧倒的に進歩しているといえます。この辺りはレコードに求める価値観の問題であり、一面だけを見て進歩していないと言い切ってしまうのは現代的な製品を一生懸命作っている技術者やメーカーに失礼な気がします。

 

 

そして、実は音質以上に技術の差を感じたのは少し盤面が荒れたレコードを再生した時でした。こちらのレコードです。

 

 

 

 

 

 

AT-OC9/IIIの針先形状は特殊ラインコンタクト、SPU Classic GEは楕円針ですから、理論的に考えればノイズを拾いにくいのはSPU Classic GEの筈です。しかし、実際に再生してみるとAT-OC9/IIIでは特に破綻無く鳴らせるこのレコードが、SPU Classic GEではかなりノイズまみれで音割れも酷いのです。本来は条件にシビアな針先を使っていながら、盤質に左右されずきちんと鳴らしてくれる辺りに数十年分の技術的な進歩はきちんと見て取れると思いますが、いかがでしょうか。

 

 

SPU Classic GEは、確かに得意なソースではとても魅力的な音を奏でてくれます。しかし、他のカートリッジを否定できるほど圧倒的なものだとは思いませんでした。SPUにはSPUの良さがある、現代的な製品にはその製品なりの良さがきちんとある、ただそれだけのことだと思います。

  • 購入金額

    29,000円

  • 購入日

    2020年05月08日

  • 購入場所

    サウンドハイツ

17人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (7)

  • タコシーさん

    2020/05/08

    27.1gもありますか? かなり重いですね 
    ヘッドシェルも結構重量ありそうですよね 
    サブウエイト使わなくてもプレーヤー大丈夫なんですか。
  • jive9821さん

    2020/05/09

    > タコシー さん

    SPUシリーズは基本的に公称重量30g以上が相場なので、27.1gは思ったよりも軽いという印象でした。

    Technicsのアームはサブウェイトを使わないと対応重量が狭い(総重量14.3~20.7g)ので、普段はサブウェイト(小)(総重量18.7~25.1g)を常用していたのですが、これだと25.1gまでしか対応していないため、今回初めてウェイト(大)を装着しています。

    YAMAHA GT-2000などはサブウェイト無しでも13~32gに対応していて便利だったのですが…。
  • ogata kohanさん

    2021/12/07

    はじめまして
    とても興味深く拝見させていただきました
    数年前からアナログというかレコードに復帰しいろいろとアイテムを漁っているところです
    で、カートリッジ。DL-103を除き現在試用しているのはオーディオテクニカさんのカートリッジがほとんどです
    主様のお持ちのAT-OC9/Ⅲも使用しております。ジャクソン・ブラウンは現在この子に任せている感じです(笑)
    SPU・・・やはり気になります(笑)
    4gの針圧でレコード溝を走らせてみたい・・・
    こだわるなら一番最初のSPUに近い型番を使いたい。最初は丸針?楕円針?・・・公式を調べてもわかりませんでした
    そして主様のレビューにたどり着いたというところです
    丸針だったんですね・・・謎が解けました・・・ありがとうございますm(_ _)m
    それにしてもとても勉強になるレビューですね!
    音質の雰囲気が伝わってきました・・・まるで自分で聴いてるように!
    でその結果・・・

    SPU買うぞー!

    になりました
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