レビューメディア「ジグソー」

メンツと方向性が定まるまでの、迷いと混沌が面白いベスト盤

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。ベストアルバム。ただ「売れた」曲を寄せ集めただけのものから、何かのコンセプトに合わせて編まれたもの、ファン投票で選ばれたものなど、その選曲は様々な切り口で行われます。そんな切り口の一つに、「アーティスト自らによる選曲」というものもあります。その場合、必ずしも売れた曲が選ばれるわけではなく、本人(たち)の思い入れが強い曲を選ぶため、意外な思い入れがわかることもあります。ある長寿グループのリーダーにしてメインコンポーザーである人物がチョイスし、その思い入れをライナーノーツに記した作品をご紹介します。

 

T(HE)-SQUARE。フュージョンブーム初期から活動し、デビュー以来一度の中断もなく、現在でも年1回以上のアルバム発表がコンスタントにされている、日本フュージョン界の大ベテラン。

 

1978年デビューの彼らは、2020年現在では40年以上の歴史を持つことになるが、本作はその折り返し、20周年を記念して編まれたもの。その20年を3つに区切って編まれたベストアルバムの1つが本作。以前このうちの“Ⅱ”

と呼ばれる中期のものをご紹介したことがあるが、本作は最初期のアルバム4枚から選ばれた“Wordless Anthology Ⅰ~Masahiro Andoh Selection&Remix+1~”。

 

現在では、ポップス/ロックを芯に持つハイテクニックインストバンドとして方向性が定着している彼らだが、初期はメンバーがアルバムごとに変わるような有様で定着せず、ジャンル的にもラテンやAOR的なヴォーカル曲なども手がけ、まだ「迷い」がある。ただその分、現在では絶対に出てこないような方向性の曲も聴かれ、興味深い。

 

Stevie Wonder作の「BIRD OF BEAUTY」は、この作品のための発掘曲。制作側の指示でデビューアルバム"Lucky Summer Lady"のために用意されたカバー曲2曲のうちの1曲。結局アルバムには、Carpentersのヴァージョンが有名な「I Won't Last a Day Without You(邦題:「愛は夢の中に」)」の方が収められ、こちらはお蔵入りになった。デビュー当時のTHE SQUAREにはパーカッショニスト(仙波清彦)がいたのもあり、ラテンテイストのこの曲は、シンセドラム含んでドラムス(マイケル河合)と、モリモリなリズムが楽しめる。ドラムスの方がむしろ装飾的でドラムソロに近いフリープレイで、パーカッションの方がステディなリズムキープなのが面白い。珍しいのは、原則サックスはアルトを好み、高音域の表現はウインドシンセを選択することが多い伊東たけしが、ソプラノサックスを吹いていること。これはかなり、レア。

 

続く「A FEEL DEEP INSIDE」は、後のアメリカでのミュージシャンを加えたリアレンジヴァージョン

が自分の中では印象が強い(THE SQUAREは、途中でかなり音楽性が変わったが、CASIOPEAやNANIWAと違って、自分は最初から追いかけていると言うよりは、「遡った」クチのため最初期は印象が薄い)が、それに比べると時代を感じるアレンジ...というより音。シンセドラム(後のSIMMONSのような芯がある「強い」音ではなく、YMOの頃のピユンピューンという電子音)と、当時に多かったプルが抜けきらないスラップベースの音、最近ほとんど聴くことがなくなった超デッドなベードラの音が懐かしい。初期メンバーのキーボーディスト、宮城純子のピアノソロが美しくて、ピアノというと後の和泉宏隆や現メンバーの河野啓三のイメージが強かったのを良い意味で崩してくれた。この曲は、元ミックスよりシンドラが控えめになって、パーカッション<<ドラムスのバランスになり、サックスソロのバックのギターのリフがゴリッとエッジが立ち、ピアノソロの残響も深くなっていて、現代風(20年前の、だが)にお化粧し直されている。このリミックスによって、後のT-SQUARE時代との整合性は出たが、曲単体としては元曲のややカルい「クロスオーバー風味」の方が良かったかも。

 

安藤正容の泣きのディストーションギターがメロディを取るドラマチックな曲、「TOMORROW'S AFFAIR」では、その後同じインスト系でもよりプログレ系のグループ=PRISM

に渡ることになる名ドラマー、故青山純のダイナミックで深い音のドラムスが聴ける。この人のビートの「弾け方(はじけかた)」と、独特の「重さ」が両立するリズム感って他に換えが効かないな。サビのところは、T(HE-)SQUAREの必勝パターン=ギターとサックス(ウインドシンセ)のユニゾンではなく、珍しくストリングスとのユニゾン。サックスはソロか...と思いきや、間奏で中村裕二の「ベースが」テーマを弾く中、オブリだけにとどまると、意外に目立たない。この曲はギターの一人舞台。

 

ライナーにも書かれているが、この20周年時に3枚編まれたベストアルバム、奇しくも?20年の歴史の中で「ベーシスト」の交代で区切られている。この盤はアマチュア時代からのベーシスト中村裕二時代のもの。後のキャラクターも面白い田中豊雪や、テクニックバツグンの須藤満の二人はスラップを多用したが、中村は比較的指弾きも多く、スラップフィーチャリングはこのベストでは「A FEEL DEEP INSIDE」と「BANANA」くらい。さらに元々ヴォーカルが入っていた曲(「LUCKY SUMMER LADY」、収録されたミックスではヴォーカルはオフられている)もあったりと、現在に続く路線とはかなり違う曲が多い。でも「これがT(HE)-SQUAREだ」というのが確立する前、いろいろな方向性を模索しているのがわかるし、メンバー変更も頻繁だった時代で、その人たちのカラーもあって今ではあまり聴かないような曲も多い。

 

そういう意味では、違うグループを聴くような新鮮さを感じた作品でした。

初回限定盤は、ライナーノーツの中央に穴が空いている面白い構造。
初回限定盤は、ライナーノーツの中央に穴が空いている面白い構造。

 

【収録曲】

1. FUTURE FLY (from 1st "Lucky Summer Lady")
2. BIRD OF BEAUTY (Unreleased song/Stevie Wonder)
3. A FEEL DEEP INSIDE (from 1st "Lucky Summer Lady")
4. LUCKY SUMMER LADY (from 1st "Lucky Summer Lady")
5. TAKE THE LONG ROAD (from 2nd "Midnight Lover")
6. WRAPPED AROUND YOUR SOUL (from 2nd "Midnight Lover")
7. STIFF NAILS (from 3rd "Make Me A Star")
8. TEXAS KID (from 3rd "Make Me A Star")
9. TOMORROW'S AFFAIR (from 4th "Rockoon")
10. BANANA (from 4th "Rockoon")

 

「A FEEL DEEP INSIDE」(Mixはオリジナルで、本作のものではない)

更新: 2020/04/27
必聴度

現在に続くT(HE)-SQUARE路線が好きなら、ムリに聴かなくても

改めて聴くと、グループとして今とは別物に近い楽曲もあるので、ある意味新鮮。

  • 購入金額

    2,548円

  • 購入日

    1999年頃

  • 購入場所

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