所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。あるアーティストのオリジナルアルバムやアルバム未収録曲から曲を選び出して一つに纏めるベストアルバム。その種類には、ヒット曲をつないだベストヒットや、バラード曲ベストなどあるテーマに沿って編まれるものもありますが、時代に沿ってアーティストやグループの音楽性の変遷を表す選曲をするベストアルバムもあります。長寿グループのリーダー自らそんな選曲を行った作品をご紹介します。
T(HE)-SQUARE。彼等がいなかったら、日本でここまでインスト系の音楽が市民権を得ることはなかったのではなかろうか。
1980年前後の「フュージョンブーム」。いわゆるジャズとロック、ポップスを掛け合わせたような音楽は、ジャズロック、クロスオーバー、後のスムーズ・ジャズなども範疇だが、その中でひときわロック色が強いのが「フュージョン」で、当時はCASIOPEAやNANIWA EXPRESS、PARACHUTEにPRISM、NATIVE SONや松岡直也&Wesingなど多くのプレイヤー/グループが支持を得た。
(今は考えられないが)当時はこうしたインスト系音楽が「流行り」で、音楽に感度が高い人々はこぞって彼等のライヴに行ったもの。それは主に音楽が好きと言う要素が大きかったと思うのだが、その中に「女子大生にキャーキャー言われる」バンドがあった。それがTHE SQUARE(後のT-SQUARE)。
ポップス寄りのわかりやすいメロディと、高い演奏能力という「本質」面もさることながら、ダンディで華のあるフロントプレイヤー伊東たけしが中央に立ち、他にもジャニーズ出身のイケメンドラマー長谷部徹やその後を継いだ則竹裕之の甘いマスクもあり、外見的アピール度も高いグループだった。
そんな彼等もデビュー時のジャズ寄りのテイストや、パーカッションをフィーチャーしたコミカルタッチの曲、歌モノ..と音楽的指向の変遷を繰り返したが、ほぼその方向性が決まった時期(1981~86年)を網羅するのが本作品、“Wordless Anthology Ⅱ~Masahiro Andoh Selection & Remix+1~”。
これは彼等がデビュー20周年を迎えた事を記念して、それまでの歴史を3枚のベストアルバムに編んだその2枚目(数年後に同じ主旨でもう2枚追加されている)。ちょうど初期のメンバーチェンジが多かった時期を抜けてメンバーが安定してきたころから、彼等の一般的な意味での最大ヒット、F1テーマソングとしてその名を知られる「TRUTH」の前夜まで、という一番上り調子だった時期の作品が収められている。
このベストアルバムはギタリストでこのバンドのリーダー、2018年現在デビュー40周年を数えるこのバンドで唯一の全時期通しで在籍する安藤正容(まさひろ)が自身で選曲し、リミックスも行ったもの。その彼が書いたライナーノーツで触れられているが、このベストアルバムの時期はちょうどあるメンバーの在籍時期に重なる。
それがベーシストの田中豊雪。
彼のロック系の音取り+華やかなスラップ(当時は「チョッパーベース」と呼んだ)という音楽性に対する影響と、ライヴでの背回し弾きや歯弾きといったパフォーマンス、MCでの軽妙な語りは人気を呼び、いわゆる「ジャズ系」ではないファンの獲得に大きく貢献した。
そんなドンドン大きくなっていくさなかの作品で、どの曲も力にあふれている。
「It's Magic」は、メインソングライターの安藤が一時期嵌まっていた「歌モノ」系の最後の作品。アルバム“MASIC”に収められたオリジナルヴァージョンは、キャサリーンによるヴォーカルが入ったアレンジ。ただこの曲は1985年の調布グリーンホールでのライヴのテイクが収められていて、インストアレンジになっている。要は、キャサリーンが歌ったメロディラインを伊東のサックスがなぞる形になるため、非常に「わかりやすい」メロディラインとなっていて、それを支えるのが8ビートのドラムと「ンパっ、ンパっ」とオクターヴのスラップをキメる田中のベース。明解かつ、ノリが良く、曲自体は若干哀愁があるマイナー系の節回しなのだが、結果としてとてもキャッチー。こういうポップさこそ彼等の真骨頂。
「Travelers」は、(自分でプレイしたことがあるので良く判るが)ベースが結構キモの哀愁あるブルージィでファンキィな曲。ここでベースはAメロはスラップを混ぜ込んだリフとも言える特徴的なパターン、Bメロに行くと前半はライン弾きで長音と細かいミュートを効かせた短音でリズム感を出し、サビ前はオクターヴスラップで盛り上げ、サビはギターとユニゾンでリフる、と結構様々な奏法を見せる。それがとっちらかる事なく、伊東のリリコンによるメロディラインを支えている、というのが溶けこんだ彼のカラー。
「Omens of Love」は、「明るいTRUTH」とでも言えるようなキャッチーな曲で、後に小泉今日子が「ウィンク・キラー(作詞:松本隆)」としてカバーしたくらい。伊東の操るウインドシンセの名機Lyriconの良いところがふんだんに出た素晴らしい旋律だが、意外にも作曲はキーボーディストの和泉宏隆。この曲でもベースがグングンと曲を前に進ませている。長谷部のストレートなリズムに絡む形で田中の指弾きによる八分音符中心の刻み。スラップやソロなどのわかりやすい魅せ場はないが、時折見せる小技も含めその「推進力」が凄いな、と。
このアルバムの網羅する時代が一番彼等の「脱皮」というか「飛躍」を感じさせる時期で、この作品群の次の“TRUTH”に収められた同名楽曲で世間一般に対してもブレイクする。実はその時はベーシストは後任の須藤満に変わっていたのだが、やはりT(HE)-SQUAREは明解なリズム、というイメージは崩れなかった。それはこのベストアルバムの中心を成す、田中+長谷部コンビの時に形成されたもの(実際にはテクニカル系の須藤+則竹コンビでは、「難しい事を演やりながら、パッと聴きは明解」という、より高次のステージに進んでいたが)。
Ⅰ~Ⅲの初回盤はライナーノーツの中央に穴があいているデザイン。
現在彼等は正ベーシストを置かず、ドラマーは新人類テクニシャン坂東慧を擁して、技法的にはさらに高次に突入しているが、表現形としては相変わらず「明解」。そんな彼等の今も続くバンドカラーを形成した時期を網羅した意味で、必聴度が高いベストアルバムです。
【収録曲】
1. Chou Chow (from 5th "MAGIC")
2. It's Magic (Live take/original from 5th "MAGIC")
3. Change your mind (from 6th "脚線美の誘惑")
4. Hearts (from 6th "脚線美の誘惑")
5. Sabana Hotel (from 7th "うち水にRainbow")
6. Travelers (from 8th "ADVENTURES")
7. Cape Light (from 8th "ADVENTURES")
8. Omens of Love (from 10th "R・E・S・O・R・T")
9. In The Grid (from 10th "R・E・S・O・R・T")
10. Forgotten Saga (Live take/original from 11th "S・P・O・R・T・S")
11. Takarajima (from 11th "S・P・O・R・T・S")
「Omens of Love」
今に続くT(HE)-SQUAREの基礎を創った時期。ベーシストがカギ。
T(HE)-SQUAREは現在正ベーシストを置かずに活動しているが、このころ創り上げた方向性が、今なお彼等のカラーとなっている。このバンドサウンド形成時に在籍した田中豊雪こそが、今のT(HE)-SQUAREにつながる音楽性の基礎を創ったと言える。インスト音楽でのベーシストの重要性を気づかせてくれる名選曲盤。
-
購入金額
2,548円
-
購入日
1999年頃
-
購入場所
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。