所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。アーティストには、そのアーティストにとって誰もが識る有名曲が入っていなくとも、楽曲の平均点が高い、あるいはあとから俯瞰すると音楽性のターニングポイントだった、もしくはファンに長く愛される曲を収めた...等の理由で「隠れた名盤」と呼ばれる作品があります。フュージョンというジャンルが華やかなりしころ、広く世に流れた楽曲で一般的知名度も高め、対米進出も積極的に行っていたグループの、「新たな名前での第一歩」となった作品をご紹介します。
T-SQUARE。2022年現在も「T-SQUARE alpha」として、その形を保っている日本を代表するジャパニーズフュージョングループ。なお、もともとこのグループの結成時の名称は、THE SQUARE。途中外部メンバーを入れたりして、一時期「T-SQUARE plus」名義で活動していたときもあったが、それはどちらかというと元のバンドと平行した派生活動。つまり、THE SQUARE⇒T-SQUARE⇒T-SQUARE alphaというのが、このバンドの名称変更の主軸。最後のT-SQUARE(無印)⇒T-SQUARE alphaへの変更は、T-SQUAREのリーダーであり、過半の曲のコンポーザー、そしてTHE SQUARE~T-SQUARE時代を通して、唯一全期間在籍したオリジナルメンバー安藤正容の退団によるものだが、THE SQUARE⇒T-SQUAREの時は全く違う理由による。
当時アメリカへの進出を積極的に行っていた彼らは、現地でアルバムをリリースすることにしたのだが、実はアメリカにはすでに類似の名称のバンドがあり、それと混同されないように、現地ではT-SQUAREとして活動することにした(そのバンド=Squaresが、ガールズポップグループなどの全くの畑違いなら問題にならなかったのだろうが、著名凄腕ギタリストで当時フュージョン界隈を主活動エリアとしていたJoe Satrianiが、デビュー直後に組んだヘヴィロック系バンドがSquaresというビミョーに誤解を与えそうな差し障り方)。
そのアメリカでのバンド名を、マツダではないが全世界統一名称にしようと決め、日本でもT-SQUAREの名称を使い始めたのが、このアルバム“WAVE”から。メンツ的には、彼らを一躍一般化したフジテレビ系F1選手権中継テーマソング、「TRUTH」を含む同名アルバムから足かけ5年続く黄金期メンバーであり、最もT(HE)-SQUAREらしいメンツ。
作品自体は、「TRUTH」のようなビッグヒットや、「Japanese Soul Brothers」のように長年ライヴで取り上げ続けられるような曲はなく、またアルバム企画としても、前作“YES,NO.”のようにJerry Heyのブラス隊を大々的にフィーチャーしたり、次の作品“NATURAL”
のように、当時西海岸フュージョンで成功を収めていたThe Rippingtonsを率いるRuss Freemanをプロデューサーに迎えたりという「華」には乏しく、対外的アピール度には欠けるが、初期からTHE SQUAREを支えた名プロデューサー故伊藤八十八が、ゲストプレイヤーを入れずにメンバー5人だけで創り上げた本作は、楽曲の平均点が高く、黄金期のT(HE)-SQUAREらしさに溢れており、かみしめるほどに味が出る、あとから聴いても聴き飽きない名盤となっている。
「MORNING STAR」。アルバムオープニングの曲としては結構暗めの出だしを持つ曲。ファットなシンセによって、ちょっとオーケストラルチックに入り、タイトなリズム隊(ドラムス則竹裕之、ーベース須藤満)が入り、伊東たけしのEWIが妖しく?加わりAメロになだれ込む。このイントロの部分のツインペダルであることを隠そうともしない?ドドドドという単音の区切れが良い則竹のバスドラの鋭さと、途中でヴゥゥゥゥゥゥゥンとグリスで入ってくる須藤のプレイの対比は本当にかっこよい。曲調的には、TOTOの初期のようなプログレ臭あるロックテイストも感じられる良曲。昏い感じがアルバム一曲目に持ってくるのはかなり冒険だが。
小曲「DOOBA WOOBA!!」は、シーケンスパターンの上で奏でられるオンビートドラムソロ+ベースソロの様相。当時のライヴでは実際に二人のテクニック魅せ魅せのソロパートだった。3拍子系の曲で、どことなくスーパーマリオブラザーズの地下ステージのBGM「Hurry up!」に近いイメージもある、突っかかるようなリズムの、トリッキーでちょっとコミカルな曲。
前曲「DOOBA WOOBA!!」がスイッチが切られるようにブチっと終わったあとは、パァァァッッと世界が開けるように、一転都会的でスケールが大きい「BIG CITY」。伊東のサックスの音、このアルバムからややノイジィで太い音に変わるのだが(どうやらリードを変えたらしい)、それが一番似合うのがこの曲。ピアノソロの前に挟まれる須藤のブリッジベースソロは、様々な奏法が組み合わされるように構成が練られていて良いプレイなのだが、それが露払いのようにすら感じられてしまうほど、ここでの故和泉宏隆のピアノソロは神掛かっている。和泉のT(HE)-SQUARE時代のピアノソロでも屈指の出来。
「ARCADIA」は、「TRUTH」あたりから入った当時のファンに向けた彼らの解答だろうか。「TRUTH」以上にバッリバリのロック調フュージョンで、8ビートのロック調リズムに乗せて安藤が弾きまくる曲。曲の構成は、「TRUTH」同様、安藤のわかりやすいギターリフに乗せて、伊東のEWIが吹きまくるという必勝方程式。安藤もギターソロではキレまくり!
T-SQUAREというと、今でも代表曲は「TRUTH」だけど、実は当時はTHE SQUAREとしてのリリースで、実際にT-SQUAREを名乗り始めたのはこの作品から。リリース当初は若干暗めテイストの曲が多くて、あまり華を感じられなかったけれど、良く聴き込むと、国内では通った名前を捨ててまで、海外に賭け、「今後T-SQUAREとしてやっていくんだ!」というメンバーの気概が感じられる、しっかりと創り込まれた作品。
聴き返せば聴き返すほど味が出てくる作品です。
自分の持つのは三方背BOXの初回盤。ここでの和泉さんのプレイは神。R.I.P.
【収録曲】
1. MORNING STAR
2. LOVE FOR SPY
3. JEALOUSY
4. YOUR CHRISTMAS
5. ROUTE 405
6. DOOBA WOOBA!!
7. BIG CITY
8. STILL I LOVE YOU
9. HARD-BOILED
10. ARCADIA
11. RACHAEL
「BIG CITY」
単にTHE SQUARE⇒T-SQUAREへの改名だけがポイントの作品ではない
従前とは音も結構変わっていて、リズムはタイトで、サックスはパワフル。
そういう新規性もありながらも、それまでの王道は外していない。参加の最後の方はピアノしか弾かなくなっていた和泉も、まだバリバリにシンセソロをとっていて、ジャパニーズフュージョンの代表格バンドだった「T(HE)-SQUAREらしさ」に溢れている作品。
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購入金額
3,008円
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購入日
1989年頃
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購入場所
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