所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽性の変遷。永く活動を続けているアーティストは、徐々に音楽性が変わっていく方が普通です。時代の要請や機器の進歩など外部要因の事もあれば、バンドであればメンバーチェンジ、ソロアーティストなら制作陣の変更もそのきっかけになります。デビュー以来一貫した音楽性を貫いていたアーティストの同一路線での最後の曲をご紹介します。
倉木麻衣。ナゾの帰国子女という売り方(実際には留学をしていただけで家族揃って海外に住んでいたわけではない)でデビューし、あまり情報を出さないプロモーションとその独特の歌い方で一躍トップシンガーに数えられるようになったヴォーカリスト。
楽曲が洋楽チックで、英詞も多く、麻衣の確かな発音と合わせて、邦楽離れした路線で3年ほど突き進んだ。そんな彼女もその後はJ-POP系に舵を切り、徐々に洋楽フレーバーを弱めていくのだが、そんな従前路線の最後のシングルが、16枚目である本作“Kiss”。
収められた楽曲には、麻衣の初期に一番多く楽曲を提供した大野愛果は関わっていないのだが、初期の「倉木麻衣カラー」が色濃く出た作品となっている。
表題曲「Kiss」。それまで多くの曲がカップリングには選ばれていたがタイトル曲がなかったYOKO Black. Stoneこと石黒洋子の初のシングル表題曲。ただ、本作発表までは一貫して麻衣のほとんどの曲をアレンジしていたアメリカの音楽製作チームCybersoundが編曲しているからか、ほとんど違和感がない。「サビ前」の構成で、生ギターのみの伴奏でギター女子系J-POP気味に始まるのだが、イントロとAメロのブリッジ部分はマイナーへ転調し、その後のAメロで麻衣の歌い方の特徴でもあるウィスパーヴォイスに無機質な打ち込み+アルペジオ中心の軽めの生ギターという「温度」を感じさせない「初期の倉木麻衣カラー」になる。その後、先ほどのブリッジと同じコード進行のBメロで一度落としてから、メジャー(長調)のサビへとパァッと開けていく、という凄く凝った構成の曲。このシングルではラストに「Kiss [Instrumental]」として、いわゆる「カラオケ」が入っているが、それを聴くとこの曲の計算された造りが特に良く判る。
カップリングの「You are not the only one」は、その頃の麻衣によく曲を提供していた徳永暁人の筆。同じCybersoundがアレンジをしているので、曲からうける肌触りは近いが、曲そのものの構成はかなり普通のJ-POP。それにサンプリングヴォイスのスクラッチやオケヒット、Michael Africkのラップなどを入れて、スリリングな造りにしてある。表題曲の「とらえどころのなさ」に比べると、「定型」に近い。
この曲まではまさに同じ路線で押していた麻衣、次作の“風のららら”
以降徐々に路線をJ-POP系へと変更し、今では初期の洋楽臭さはほぼ消えている。
それまで路線は確かに曲ごとの肌触りがあまり違わず、「倉木麻衣」の印象は強くとも、曲単体で訴える力はやや低かった気がするので、結果的には良かったのだと思うけれども、彼女をデビュー時から識っている自分としてはやっぱり倉木麻衣=洋楽チックな曲を歌うシンガーというイメージが強く、そういう意味ではその路線を確かに感じる最後の曲とも言える。
徐々に変化していくアーティストの、従来の方向性での最後の曲、と言えると思います。
【収録曲】
1. Kiss
2. You are not the only one
3. Kiss [Instrumental]
「Kiss」
以前の麻衣と今の麻衣、どちらが好き?
以前の麻衣が好きならば、その路線の最後の曲なので聴くべき。今の麻衣が好きならば「洋楽フレーバー時代の1曲」で片付けられてしまうかも知れない。
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購入金額
180円
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購入日
2012年03月18日
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購入場所
Yahooオークション
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