恐らく日本で最も売れたジャズアルバムと言われているのが、ビル・エヴァンス・トリオのライブ作「Waltz For Debby」です。これまでに日本だけで少なくとも50万枚は売れたというのだから凄いことです。
私自身オーディオ機器の試聴イベントで度々聴いていてお馴染みとなっていた作品ではあるのですが、実は自分では所有していませんでした。
これを聴くのであればSACDよりはLPかなと思い、取り敢えず買ってみることにしたのですが、とにかく本作は多くの会社から多くのプレスが発売されていてどれが良いのか、自分のような門外漢では区別が付きません。
当然本来の音を楽しむのであればオリジナルの1962年にRiversideから発売された盤(厳密にはモノラル盤が1961年に発売されているのが初出)でしょう。しかしこれは現在ではまず入手できませんし、出来たとしても取引価格は10万程度では無いかと言われています。同じレコード番号の後期ものであればもう少し安くなるらしいですが、いずれにしても興味本位で簡単に買える金額ではありません。
オーディオ的な品質に定評があるのはAnalog Productionsからリリースされているものや、1985年頃からリリースされていたOriginal Jazz Classics辺りですが、当然これらも現在はかなり高価であり、本作へのこだわりが強い人が買うべきものでしょう。
取り敢えず何かしらの取っかかりが欲しいということで、現時点で最も新品LPが安価なWaxTime盤を買ってみました。
これはこれで意外と悪くないかと思ったのですが、先日ダイナミックオーディオが主催した「マラソン試聴会」でNAGAOKA MP-700の会でナガオカの西さんが持参されていたRiverside盤の音を聴くと、深みというか生々しさというか、そのような要素が随分違っている気がしたのです。こうなるともう少し音が良くて安いものと考えてしまうわけです。そこで行き当たったのがAmazonアウトレットに出ていた2023年再発盤のOriginal Jazz Classicsでした。今回はこれを聴いた上で感想を述べたいと思います。
雰囲気は良いがテープの劣化が結構気になる
まずは収録曲から。
Side A
01. My Foolish Heart
02. Waltz for Debby
03. Detour Ahead
Side B
01. My Romance
02. Some Other Time
03. Milestones
なお、最初に買ったWaxTime盤はB面の最後にボーナストラックとして「I Loves You Porgy」という曲が追加されています。
「My Foolish Heart」辺りはTV-CF等でも使われたことがあり、ジャズをあまり知らない人でも何となく知っているという曲ではないでしょうか。
本作は1961年6月25日にライブハウス「ヴィレッジ・ヴァンガード」で開催されたビル・エヴァンス・トリオのライブをRiversideレコードが収録していた音源から編集されたものです。ここで素晴らしい演奏を披露していたベーシストのスコット・ラファロがこのわずか2週間後となる7月11日に自動車事故により急逝したことから、この音源の中からラファロのベースが特に目立った楽曲を集めた「Sunday at the Village Vangard」という追悼作が先に発売され、その続編として後にリリースされたのが本作「Waltz For Debby」となります。
個人的には前半の「My Foolish Heart」~「Waltz For Debby」の流れがとても好きで、主にこの2曲の印象で音質を確認していきます。試聴環境はいつも通りTechnics SL-1200G+TEAC PE-505で、カートリッジはaudio-technica AT-ART7を使いました。例によって聴きながらMOTU HD192による録音も行い後で確認する際に利用します。
なお、AT-ART7と組み合わせるヘッドシェルはaudio-technica AT-LH15/OCC、シェルリード線はKS-Remasta KS-Stage401EVO.II-VKです。
先にWaxtime盤から聴いてみると、この1枚だけを聴いている限りは全然悪くないというのが第一印象です。強いて言えば中高域~高域にかけて何か後から強調したような不自然な押出しを感じる部分はありますが、デジタルメディアでもリリースするのであればこれ位かなという程度のバランスです。
しかしこれをOriginal Jazz Classicsにすると、まず「My Foolish Heart」の序盤のベースの深さが全く違っていますし、ピアノの変な煌びやかさが取れてナチュラルに感じられるようになります。Waxtime盤はさほど高品位とはいえないオーディオ機器で聴いてもそれなりに聞こえるという良さはあると思いますが、ある程度の再生環境をお持ちであるなら、少し物足りなさは残る気がします。
そして「Waltz For Debby」ではもっとはっきりとした差が付きます。冒頭のベースで弦を叩いている音ばかり強調されているWaxtime盤に対して、きちんと弦の震えや胴鳴りまできちんと表現されているのがOriginal Jazz Classicsとなります。ピアノの音も細身で歪み感が強いWaxtime盤に対してきちんとピアノらしい音色が出ています。
そしてドラムが演奏に加わってくるとWaxtime盤はブラシの音が妙に強調されてスネアドラムそのものの音が引っ込んでしまっています。ドラムの質感は特に大きく差が付く部分です。
ただ音質的な満足度はOriginal Jazz Classicsの方が高いのですが、気になるのは妙にドロップアウトや音揺れが多いということで、この辺りはWaxtime盤の方がコンディションは良好です。Original Jazz ClassicsはRiversideの原盤を管理するCraft Recrodingsからリリースされているのですが、2023年の再発に当たってマスターテープからきちんと原盤を起こしたものの、そのテープのコンディションがかなり悪くなっていたという話で、この音を聴くとそれにも納得させられてしまいます。こうなると全工程アナログ音源を使用と言いながら、実はDSDマスターを使っていたというMobile Fidelityの判断も一概に責められないなと思わされました。磁気テープはどうしても経年劣化が激しいですからね。
今回取り上げたOriginal Jazz ClassicsはWaxtime盤の約2倍の購入価格でしたが、音質的にはその価値は十分にあると思います。しかし、「Waltz For Debby」の冒頭のピアノの音が飛んでいたりと演奏そのものの印象に少なからず影響を与えてしまう劣化が多いことは明らかなマイナス要素であり、これが気になるのであれば数倍の金額を払っても再発される前のOriginal Jazz ClassicsやAnalog Productions盤を買うのが正解です。音よりもそちらを重視するのであればWaxtime盤の方がむしろ良いともいえます。
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購入金額
4,613円
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購入日
2025年12月02日
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購入場所
Amazon






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