現在私がアナログレコードの音源をデジタル化する際に使っているオーディオインターフェースは、MOTU HD192という製品で、これの内蔵ファンを停止させ、AudioWireケーブルをaudioquest製FireWireケーブル、CARBONに交換している状態です。
これだけでも標準状態と比べれば格段にオーディオ機器としての質が上がり、録音機材として十分使えると判断していました。
ただ、以前のMOTU1296も含めちょっと引っかかっていたのは、内蔵クロック発振器の精度があまり良くないのではということでした。音がどうというわけではなく、単純にサンプリング周波数切替時に動作が安定しないことがあり、クロック周りの設計が甘いのではないかという疑問があったのです。
そこで一度試したかったのはクロックの外部入力でした。とはいえ、MOTU HD192では高級デジタルオーディオ機器のように、10MHzのマスタークロックを供給すれば良いというわけではなく、サンプリング周波数と同一のワードクロック(マスタークロック)を入力する必要があります。
オーディオ品質を保っていてワードクロックの出力が可能というものをリストアップしてみると、手頃な価格帯のものは皆無といって良いほどに無いことがわかります。既に生産完了となっているものを含めても
・Sound Warrior SWD-CL10 / SWD-CL10 OCX
・Nmode X-CL3 / X-CL3 MKII
・Infranoise CCG-525
が辛うじて現実的な価格、もう少し上がって
・MUTEC MC-3+ USB
・ORTHOSPECTRUM(Infranoise) ABS-7777(元は高いが中古は案外手頃)
程度でしょうか。この分野で人気のあるAntelope Audio OCX HDだと30万円近い所まで上がってしまいます。
ここまでの値段をクロックジェネレーターに支払うのであれば、元々高精度クロックを搭載しているRME ADI-2 Pro fs R以上を買った方が合理的でしょう。
というわけで、中古や特価でX-CL3系かSWD-CL10系でも出てこないかなと思っていたところで見かけたのが、MC-3+USBシリーズの先祖といえる、MUTEC MC-3でした。現行のMC-3+USBシリーズと比べれば実力は落ちると思いますが、価格はその分手頃ですし、単体クロックですからさすがにHD192内蔵を下回ることはないだろうと考えて購入してみました。
10年も前に生産完了となった製品ですから外観はそれなりですが、一応正規代理店のヒビノインターサウンド経由ではありますね。
一応標準添付のBNCクロックケーブルと電源ケーブル、マニュアルは残っていました。まあケーブル類は標準添付品は使いませんが…。
クロックケーブルは以前800円ぐらいで買って置いてあった、Oyaide AS-808B V2 0.6mを使います。まあ新品でも3千円前後の、この分野としては格安なケーブルです。
MC-3やHD192の正確な仕様がわからない部分があるので、本当は念のためターミネーションをした方が良いのでしょうけど、今回は準備できていないのでこのまま接続するだけとします。
一聴すると地味だが純度が大幅に上がる
それでは早速HD192と接続してみましょう。MC-3の任意のBNC出力から、HD192のWORD CLOCK IN端子にAS-808 V2で繋ぎます。
なお、電源ケーブルはOrtofon 7N-PSC 2.0 Sが余っていたので、これを使いました。
私が普段主に使うサンプリング周波数は88.2KHzですので、MC-3の出力を44.1KHzの2倍にセットします。この写真はBNC OUT 2端子から出力しています。まあ、88.2KHz×1でも別に良いのですが、後で44.1KHzに切り替える際にこの方が楽ですので…。
接続が終わったら、HD192側の設定(MOTU PCI Audio Cosole)でクロックソースを変更します。
まず再生で効果を試してみました。再生に関してはMOTU PCI Audio Cosoleでワンクリックで切替が出来ますので聴き比べも容易です。
数曲聴いてみて、まず第一印象としては音が少し地味になるということです。スネアドラムやハイハットの音はHD192内蔵クロックの方が派手です。ただ、ハイハットの金属感はMC-3の方が良く出るようになりますので、HD192側の派手さは雑味だったということなのかも知れません。そしてヴォーカルは圧倒的にMC-3の方が肉声らしさが出てきますし、残響音などの間接音はMC-3の方が明らかに豊かです。
HD192の派手さはロック系の音では一つの持ち味として有りなのですが、オーディオ的にどちらが高品位であるかといわれれば間違いなくMC-3経由の音でしょう。まあ、MC-3はクロックにありがちな話なのですが、電源を投入して数時間おいた方が音が緻密になりますので、起動直後は本領を発揮できていなさそうで使い勝手は若干悪くなりますが。
続いて録音の方ですが、これは実際に録音して出来上がったファイルで比較するしかありません。MC-3導入前に作った最新のファイルが「Gaucho / Steely Dan」ですので、この中の「Babylon Sisters」をMC-3併用で録音して比較することにします。出来上がったファイルはFOSTEX HP-A8で再生します。
比べてみると、再生の時とほぼ同じ傾向の変化が感じられます。冒頭のドラムやハイハットはHD192単体の方が派手ですが、楽器の質感がより感じられるのはMC-3併用の方です。ヴォーカルやコーラスといった人間の声はMC-3の方が肉声に近づきますし、間接音もMC-3の方が豊かです。
結論としてはMC-3を併用することでオーディオ的な性能が底上げされ、色付けも減るということなのでしょう。また、クロック切替動作もMC-3側に依存しますので、以前のような不安定さが無くなりました。以前は一度機嫌を損ねるとHD192の電源を一度落としてWindowsを再起動するまで直らないということが時々ありましたから…。
動作の安定度の観点も含めて、外部クロックに投資する意味は十分にありました。より良いクロックジェネレーターやケーブルにも興味は出てきましたが、コストを考えればこの辺りが妥当かと思います。
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購入金額
27,500円
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購入日
2024年03月07日
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購入場所
HARD OFF
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