所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。デモトラック(デモ音源)。以前はカセットテープ(最近の人、知ってる??)という、繰り返し録音できるメディアに入れてやりとりしていたことから「デモテープ」とも呼ばれる、作曲・編曲者などから、シンガーやプレイヤーなど表現者側や、ディレクター・プロデューサーといった制作側に、曲の原型を伝えるために創られる物です。そのデモトラックは「雰囲気が伝われば良い」ため、特にデジタル編集が盛んではなかった以前は、リズムマシンをバックに、ギター一本弾き語りで鼻歌...といった簡素なものも少なくありませんでした。そんななか、デモトラックを「ほぼ完成形」で納品し、それらを集めただけで作品たり得るクオリティを示したアーティストがいます。そんなアーティストの「作品の原型集」をご紹介します。
荒木真樹彦(アラキマキヒコ、ARK MAXICOとも)、シンガーソングライター。20世紀終盤にデビューし、自身も歌い、マツダのランティス(LANTIS)のCFソング「LANTIS-誘惑の未来-」などのヒット曲を持つが、ファンキィなテイストはありつつも、久保田利伸のようにビートが強くイロクな方には行かず、ロックテイストが強かったのが、デジタルダンスミュージック全盛だった1990年代には合わなかったのか、メジャーシーンでの活動は1990年代前半で終了する(インディーズでは今でも活躍中)。
しかし、彼の書く楽曲は高く評価され、ジャニーズ系を始めとするアイドルや、シンガーやコーラスグループに提供された。とくに田原俊彦のアルバム“夏の王様~my blue heaven”では、作詞家松井五郎と組んで全曲を書き下し、ソングライティング能力をいかんなく発揮している。
そんな彼の、他者提供作品のデモ音源を集めたのが“BIRTH of SONGS”。
女性への提供作品も含め、すべて彼が仮歌?を入れてるが、最終的に世に出た曲とは違った部分があって、新鮮な感じがするものが多い。
「君は泣いて強くなる」は、KinKi Kidsへの提供曲「キミは泣いてツヨくなる」の原型。KinKi Kidsが歌った“完成形”は、詞が三井拓のものに挿し換えられているが、このデモ版ではしっかりと別の日本語詞が歌われているので、むしろ「君は泣いて強くなる」というタイトルに三井がインスパイアされて、KinKi Kids向けの歌詞に書き直したという感じか。編曲も、この曲が収められたKinKi Kidsの3rdアルバム“C album”の中でのクレジットは、石塚知生名義にはなっているが、出だしの特徴的なピアノのフレーズ、Bメロのオブリ、ラスサビ前の転調まですべて荒木のデモ曲に原型があり、石塚は元曲ではシンセストリングスだったオブリをブラスに換えて前進力と若々しさを出したなど、役割としては微調整だったような印象。
曲では評価が高い荒木だが、詞の方は、自身も参加しているRie ScrΛmble(元C.C.ガールズの藤原理恵と荒木のユニット)でも別に作詞者がつくという感じで、あまり前面に出ていない。そんな中、他者提供曲なのに仮歌詞?がそのまま使われて、作詞作曲者としてクレジットされているのが、嵐への提供曲「どんな言葉で」。まだデビュー間もない嵐のメンバーから、♪どんな言葉で/傷は癒されてく/どんな想いで/悩み重ねてる/どんな言葉で/君を勇気づける/こんな僕でも君の役に立てるかい?♪と歌われる「どんな言葉で」は、中間部のファルセットと合わせて萌える女子が多かったらしく、実はディープなファンからは支持が高い曲とか。
そして、自分がこの“BIRTH of SONGS”を入手しようと考えたきっかけになったのが、Charへの提供曲「LET IT GO」。Charにとっては、アイドル売りされていた超初期以来、久しぶりの他者からの提供シングル曲で、「LET IT BLOW」
としてリリースされた。Char版では、歌詞は相田毅による和洋混合詞に書き換えられているが、荒木の元歌はすべて英詞。歌い方はちょっと「仮歌」っぽい印象で、やや何をどう歌っているか不明な感じ。さらにデモ版はリズムが打ち込みなので、Char版の神保彰+岡沢章の神リズム隊には敵わないし、Char版の前進力の半分を担う(残り半分は岡沢のベースリフ)小島良喜のオルガンプレイがなく、シンセのコード弾きなので、全体の楽曲クオリティは「LET IT BLOW」の方が上なのだが、ギターソロ、特にラスサビ被せ~アウトロで聴ける荒木のプレイが、ギターレジェンドCharに負けてないほどイイ。
この他者提供曲のデモ曲集“BIRTH of SONGS”、荒木がインディーズに居を移してからの作品で、当初(2004年)100枚のみの限定盤として売り出された(“BIRTH of SONGS(初回版)”←「版」であって「盤」でないのは、荒木のHPの表記に準拠)。あっという間に売り切れ、再販の声が高かったため2年後に再プレスされたのが、この“BIRTH of SONGS(追加版)”。初回版が赤いジャケットで「赤盤」と呼ばれるのに対して、この追加版は「青盤」と呼ばれている。
自分は、「LET IT BLOW」の元となった「LET IT GO」がインディーズで発売されているのをZIGSOW参加前後くらいに知り、ずぅぅぅぅぅぅぅぅっと探していたもの。とはいっても、インディーズで少数限定発売されたCDは、流石になかなか手に入らず、長い時を経てしまった。しかし、諦めずにいろいろと探索の手を緩めなかった結果、ついに発見した。
ネットでの買い物は、こういったとんでもない掘り出し物がときとぎ転がっているので、止められないねぇ...
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【一例】
■九州のインディーズバンド、しかもすでに活動停止して永いバンドの唯一のフルアルバム
■いにしえの伝説のボカロPかつ映像制作者の、ダウンロード販売移行前の最後のリアルディスク
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普段はリスナーという「エンドユーザー」が耳にすることがない、曲の「原型」を収めた作品。このデモ版に含まれる楽曲と最終的な作品の差があまり大きくないことが、荒木の頭の中から生まれ出た作品のアイデアの完成度をあらわしている作品です。
JASRACの許諾証紙が直接貼ってあるのが、メジャー界経験者のインディーズ盤らしい...
【収録曲】(制作年⇒リリース年 リリース時の題名/リリースしたシンガー・グループ)
1. Darts DADA!('95⇒'03 Empty world/BOYSTYLE)
2. 君は泣いて強くなる('99⇒'99 キミは泣いてツヨくなる/KinKi Kids)
3. どんな言葉で('02⇒'03 どんな言葉で/嵐)
4. わかっているから('03⇒'03 Bouquet/石野真子)
5. LET IT GO('98⇒'98 LET IT BLOW/Char)
6. Find Your Love('92⇒'03 Bright Lights/CHEMISTRY)
7. 文句があるなら来なさい!('96⇒'96 文句があるなら来なさい!/Rie ScrΛmble)
8. biru pulau('98⇒'98 biru pulau ~青い島~/池間アカネ)
「LET IT GO」
デモ曲の寄せ集めではあるが、完成形に近く、単体で味わうに足りる。
こういったデモ曲集は(作品の購入特典などについてくることもあるが)、アイデアの断片だったり、演奏がしょぼかったりで「曲」として完成域まで到達していないものも多いが、本作はすべて普通に鑑賞するに足るレベル。
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購入金額
4,000円
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購入日
2023年10月21日
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購入場所
メルカリ
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