レビューメディア「ジグソー」

懐かしさと新しさの融合

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽を生業とする人には「定年」はありません。そのため、高齢になっても創作活動を続ける人も少なくありませんが、一度音楽界から退場して別の業界に身を移し、かなり経ってから復帰するというケースは多くはないと思われます。音楽界から一度遠ざかり、その後30年ほどのブランクから復帰し、ソロアルバムをリリースしたアーティストの作品をご紹介します。

 

Jeff "Skunk" Baxter、ギタリスト?..というか、最近では軍事アナリストとしての活動の方が多かった??しかし、これに関しては20世紀終盤以降の話で、1970年代は名だたるバンドを経験しているミュージシャン。彼が注目されたのは、あのSteely Danの初期メンバーであるあたりから。その後、The Doobie Brothersにも参加し、一度人気に陰りが見えた彼らが「Minute by Minute」で返り咲いて全米1位を獲る、その基礎を造った。

 

ただ、Skunkは両バンドとも、最後までは在籍しなかった。

 

Steely Danに関しては、凝り性の作曲陣(Walter BeckerとDonald Fagen)の曲に対する作り込みが先鋭化し、Skunkを含むバンドメンバーへの要求が過大になった結果、最終的にバンドメンバー全員を解雇、Steve GaddやLarry Carlton、Lee Ritenour、Michael McDonaldなど凄腕スタジオミュージャンを入れて作品としての頂点=“Aja (彩-エイジャ-)”

に到達しているが、この時点では初期のパンドメンバーだったSkunkはすでにいない。

 

The Doobie Brothersに関しても、初期の顔(再結成・復帰後もフロントマン)であるTom Johnstonの体調が悪くなり、一時退団して休養に入ることになって、それまでの高い人気に陰りが見えたあたりでSkunkは加入して、Steely Danなどで親交のあったMichael McDonaldを口説き落とし、それまで熱いサザンロックを演っていたThe Doobie Brothersを、見事にAOR~ブルーアイドソウル系のブラスロックグループに脱皮させて復活させる下地を作ったが、Michaelがイニシアティブを取るようになると、それまで加入後続けていた楽曲提供も止め、最終的にThe Doobie Brothersの一時休止前に離脱している。

 

いずれのグループでも、「基礎工事だけして去ってしまった」という感じ。そのあとは音楽界では表舞台での目立った活動はなく、特に21世紀になってからは、1980年代に嵌まった軍事ヲタクの才を活かして?アメリカ国防総省の軍事顧問を務めるなど、音楽からは離れてしまったのかと思っていたのだが、デビューから半世紀以上、実に御年73歳の時に、彼にとっての初ソロアルバムをリリースしてきた。

 

それが本作“Speed Of Heat”。6曲のオリジナルと4曲のカバーからなる作品だが、自身でギターとヴォーカルだけでなく、プロデュースも手がけ、共同プロデューサーのJeffery CJ Vanstonとともに1枚の作品に仕上げてきた。Jefferyは「CJ Vanston」とクレジットされることもあるプロデューサー/キーボーディストで、PrinceやCéline Dion、Steve Lukather、TOTOなどの作品でクレジットされている人物。なお、クレジットにはドラマー(打ち込みらしき1曲を除いて、Joe PusateriとToss Panosの二人が叩いている)と、数曲でゲストミュージシャン扱いでリードヴォーカルやギター類、オルガンのクレジットがあるだけなので、他の楽器、ギター・ベースとキーボード類はSkunkとJefferyによるものなのだろう。

 

My Old School」。Steely Danの2ndアルバム“Countdown To Ecstasy(邦題:エクスタシー)”に収められたこの曲、元曲は、後のSteely Danで思い起こされるような構築された音世界...ではなく、結構ストレートなロックで、デッドな音場のカチッとしたノリなのだが、このテイクではテンポを少し速め、ギターソロのバックには16ビートも取り入れた今風のノリ。短いがいい味出しているオルガンプレイは、元TOTOのDavid Paich。

 

My Place In The Sun」は、Skunk(と共同プロデューサーのJeffery)の手になるオリジナルだが、Michael McDonaldが参加しており、リードヴォーカルも(アコギも)Michael。マイナー系のこの曲、最初はキーボードだけをバックに歌い、徐々にエレキギターの装飾が加わり、ベースも入り..のあたりで1st Chorus(サビ)を迎える。その後リズムインするが、まだバックビート(2拍、4拍目)にスネアは入らず、2nd Chorus(サビ)でタム廻しとともに強いリズムになり、ソウルフルなMichaelのシャウトが入り...と、だんだん盛り上がっていく楽曲。Skunkは、導入部分はミュート音でのリズムギターと、ヴォーカル切れ目のオブリのみで、たいして弾いていないのだが、ソロになるとエモーショナルに弾き倒し、ラスサビはMichaelのヴォーカルと歌い合うように弾くと魅せ場たっぷり。これは味のあるMichaelのヴォーカル含めていい曲だったな...

 

The Rose」は、Amanda McBroomの曲で、映画「The Rose(邦題:ローズ)」のテーマ。映画では、主演のBette Midlerが歌い、スタンダード化されたため、多くのカバー楽曲があるが、今回Skunkはあえて歌わず、インストで表現。ギターとスチールギターで、エモく「あのメロディ」が奏でられる。

 

他にも、いにしえのロック!と言うような曲や、ピアノとエレキギターメインの環境音楽系のモノもあれば、ギターのリフが強いオルタネイティヴ系があったりと、ジャンルは結構幅広い。ただ、自分が書いた曲ではないSteely Dan時代の曲を2曲も取り上げているのに、自分が書いた曲もあるDoobies時代の曲を取り上げていないのが、ちょっと片手落ち?

 

年齢考えると、「次」があるのか判らないけれど、あるなら、Doobies時代の曲も含めた2ndアルバム、期待しちゃうなー。

※このCDでは、アーティスト名はSkunk Baxterと表記されており、Jeff "Skunk" Baxterの名はプロデュースの部分にしか使っていないので、ZIGSOWの分類も「S」の項に分類した。

二つ折り紙ジャケだが、アナログレコードに多いように外側が開いてるのでなく、中心部に開口してるのが珍しい。
二つ折り紙ジャケだが、アナログレコードのように外側ではなく、中心部に開口してるのが珍しい

 

【収録曲】

1. Ladies From Hell
2. My Old School
3. Juliet
4. I Can Do Without
5. Do It Again
6. Apache
7. My Place In The Sun
8. The Rose
9. Bad Move
10. Giselle
11. Insecurity
12. Speed Of Heat

 

「My Old School」

更新: 2023/09/02
必聴度

懐かしくもあり、新しくもあり

Skunkのかつてのプレイが好きな人には、昔のまま変わらない部分もあり、懐かしい。

全体の楽曲自体の音造りは70年代の音ではなく、最近の音造りなので、新しさもある。

  • 購入金額

    2,874円

  • 購入日

    2022年11月29日

  • 購入場所

    Amazon

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