レビューメディア「ジグソー」

NOBLE AUDIO最新作は異色の出音。

ウィザードの二つ名を持つ高名な博士が、その知見を惜しみなく投入して実現したというコダワリのUS製IEMブランドであるNOBLE AUDIO。

聴覚学者で医師でもあるというジョン・モールトン博士が2013年にブランドを設立してまもなく、国内でもちらほらと取り扱いを行っている店が見受けられるようになりました。

 

当時は音楽業界の仕事に携わっていた関係から、カナルタイプのSHURE信奉者だった私は、静電型のKSE1500の発売を心待ちにしており、イヤホン購入への意欲的な思いが非常に高まっていく中でNOBLE AUDIOと出会ったことを覚えています。

実際にKSE1500は予約までして購入し、その出音の解放感とキレ、そしてモニターライクな性格は残しつつも広く伸びやかで美しい高音域にはとても満足した覚えがあります。

その後、しばらくは他のイヤホンに心引かれる事は全く無く、重さを除いては通勤時の幸せな音楽鑑賞を楽しめておりました。

 

それがたしか7〜8年前ごろの私のポータブルシステムだったと思います。

 

その頃に以前の仕事仲間でもあった某大手のレコーディングエンジニアから手渡されたのが、このNOBLE AUDIOのKATANAというイヤホンでした。

一聴して感じたのは、バランスが崩れているように思えた事でした。

高音域の硬さと低域の無駄に張り出したサウンドメイクは、中音域に必要以上の主張を持たせることでなんとか成り立たせているような、そんな印象でした。

食事の席だったこともあり、あまり集中して聴くことが出来ない環境だったことも手伝って、友人からはしばらく貸してやると言われて、そのまま素直に自宅に持ち帰ったものの、実際にはしばらく聴く気にもならずに防湿庫に入れっぱなしになっていたのが実際でした。

 

ひと月ほどしてまた友人と食事をする機会があったので、イヤホンを借りっ放しであったことを思い出しました。

そのまま全く聴かないまま返すのも憚られると思い、手元のチェック音源をいくつか流し聴いてお礼とともにお返しするつもりでした。

再度、視聴してみた印象は、最初に聞いたときと同じものでした。

一言で言うと、脚色を感じる。

と、いう印象です。

 

しかし、いくつかの音源を試しているうちに、ふと気がついた事ありました。

それは自分自身が、この異色の音を意外に楽しんでいる。というものでした。

 

モニターライクな音からはほど遠いのに、どこか正確性を感じさせる音であること。

そして、音楽全体が明らかに色付けされているのにも関わらず、純粋に、単純に、楽しい音であること。

 

今まで他社のイヤホンやヘッドフォンに感じた脚色感とは明らかに異なった、なにか、があることを2度目の視聴で体感することになりました。

気がつくと2時間以上も聴き入っていたのですが、当時、仕事以外の趣味としてこれほど真剣に音源に向き合った事は久しぶりのことでした。

 

結局、そのKATANAは友人にお願いして、物々交換で私の手元に残ることになってしまいました。

フォルムも未来的で見た目ほど重たくなく、KSE1500とは全く違った性質を持ったイヤホンとして、音楽の楽しさを再認識させてくれたイヤホンになりました。

 

このKATANAは数年間使っていましたが、残念ながら取り扱いの悪さからか片方のチャンネルが使えなくなり、莫大な修理見積もりにひるんだ結果、ジャンクとして手放ししてしまうことになりました。

 

KATANAは私がNOBLE AUDIOのイヤホンを愛用する事になったきっかけを作ってくれた名機だったと思っております。

 

その後、KATANAが手元からいなくなってしまったことがとても寂しくなり、いくつか中堅クラスのNOBLE AUDIO製品を購入してみてはいたのですが、残念ながら私の好みとはかけ離れた音作りのものしかなく、結果的にあまり長く付き合った機種はありませんでした。

どれもあのKATANAから得られていた、特殊な喜びを満たすような音造りではなかったからです。

 

しかし、ついに今年、NOBLE AUDIOからあのKATANAの後継機に位置づけられたフラッグシップモデルが登場したのです。

 

その名もRONIN。

ネーミングの痛さはコンシューマー向けのイヤホン全般に言えることだと思いますが、まさかKATANAつながりでRONINとは。

人に話すのも微妙な空気にさせるネーミングです。

 

でも、私はそれを買ってしまったのです。

新品では無く、中古をたっぷりと視聴させていただけた都内のお店で、ほぼ衝動的に購入してしまいました。

 

音の内容につきましては適宜更新をして行きたいと思います。

 

☆使いこなしへの道のり

 

さて、最大の期待値を込めて購入を決意したRONINでしたが、実は購入するタイミングでは同価格帯のViking RAGNARにするか、非常に悩んだ末の決断でした。

Viking RAGNARは、すでに何度も視聴して、その傾向も音作りも理解していたつもりでした。

非常に開放的で、高音域の美しさや繊細さは、確実にViking RAGNARにしか無い個性を持っていると思います。

中音域、低音域についても一般的に言われている以上に、私にはフラットでナチュラルに感じられました。

重低音域はさすがに作り込みも音圧も、そのどちらもが現代的ではなく、控えめであるという理解でした。

 

Viking RAGNARの弦楽器は類を見ない美しさであり、リケーブルすることでKSE1500よりもさらに繊細な表現を可能にするとも思っております。

しかし、大昔のことですが、私自身がレコーディングからマスターパッケージまでの工程に立ち会わせて頂いたいくつかの音源を再生すると、やはりどうしても全体バランスが上よりに偏っており、低域の質感もシルキーすぎるように感じられることが気になる点でした。

もちろん、これもイヤホンの個性であると割り切って十分に楽しむことも出来るとは思うのですが、音楽の持っている熱気やエネルギー感が、どこか蒸溜されてしまったかのうような印象であることは、ぬぐい去れませんでした。

 

一方、こちらのRONINですが、付属ケーブルのままでは、正直なところKATANAの後継機とは思えないような音の構成であるといった印象でした。

もちろん、気持ちの良い音の骨格にはじまり、中音域のみっちりと詰まった好感の持てる精密な音造りは

また、全体を通しての情報量の豊富さ、高いイメージング性能と解像感などは、KATANAの印象のままに、すべてがアップグレードしているとは感じられます。

しかし、どうしてもあの切れ味が良いのに、パワー感のある高音域だけは再現されているどころか、むしろ薄くてもっさりとしてしまったように感じてしまったのです。

 

しかしながら、私が趣味として音楽を聴く際にもっとも大切にしている中音域から低音域の仕上がり具合に関しては、他社フラッグシップのどれとも違った完成度をRONINから感じたことから、これは絶対に使いこなしがいのあるイヤホンであると信じてRONINの購入を決断いたしました。

 

どう考えてもそのままでは、決して常用機種だとは言えないこのイヤホンですが、リケーブルとイヤーピースの変更によって、現在はウェルバランスで万能な状態にまで追い込むことに成功しております。

美音でありながら、熱く。キレがありながら違和感のない余韻。

中音域から上下に滑らかに広がっていく音の構成と、前後左右への空間表現は、音楽を聴く楽しみを再確認させてくれます。

 

詳細はまた後日にて・・・。

 

  • 購入金額

    0円

  • 購入日

    2023年06月30日

  • 購入場所

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