昨日、私がZIGSOWで投稿したレビューに皆様からいただいたCOOL数が、累計30,000を突破しました。普段からご覧いただいている皆様に御礼申し上げます。
今回は節目に投稿しようということで、今まで取り上げていなかったイヤフォン、qdc TrESを紹介したいと思います。
qdcは中国Shenzhen Qili Audio Application Co., Ltd. の音響機器や補聴器を手がけるブランド名です。ちなみにここで「qdc」と小文字表記しているのは、彼ら自身は大文字の「QDC」を軍や警察で用いられている通信機器のブランドとして扱っているためで、ここでは公式サイトの表記に従うことにします。
彼らは元々カスタムIEM、ユニバーサルイヤフォンの双方を手がけていますが、元々はBA(Balanced Armature)ドライバーを複数組み合わせた、マルチBAタイプを得意としていました。そのqdcが初めてDD(Dynamic Driver)を組み込んだ製品としてリリースしたのが、Fusionという製品でした。
Fusionは発売時の試聴イベントで聴いた限りでは、DDにより今までのqdcにない低域が出ているということをアピールしたかったのか、ちょっと強調感が目立つという印象がありました。少なくとも敢えて約10万円払って買おうというほどの魅力は感じられなかったのです。
しかし、さすがにFusionはちょっと極端な音だということは、当時の代理店であったミックスウェーブも理解できていたのでしょう。Fusionをベースにリスニングに適したチューニングを施したというモデル、TrESを日本市場専用モデルとして企画したのです。TrESは限定150台のみ生産されたのですが、さすがに日本市場だけで10万円オーバーのイヤフォンが150台も完売するほどの市場規模はなかったのでしょう。最後に残った在庫分が各所で特価販売されるようになり、その中でも最も価格が下がっていたヨドバシカメラは5万円を割ってきましたので、それを購入したのが今回取り上げるものとなります。
qdcの型番シールの横にQDC-7803というラベルが貼付されていますが、これが代理店ミックスウェーブの型番を表すものとなります。なお、現在はqdcの国内代理店はアユートに移管されています。
かなり大きい箱に入っていますが、所詮イヤフォンですから中身の密度はスカスカです。
私のメインDAP、Cayin N6iiも中国製ですが、このTrESと同じようにクッションの部分に金属製のプレートが埋め込まれていました。中国人はこういう演出が好きなのでしょうか?
こちらは添付品ですが、左は革製のセミハードキャリングケース、右の箱の中はイヤーピース等細かい添付品がまとめて収納されています。
キャリングケースはイヤフォン+ケーブル1組を安全に運ぶには適した構造のしっかりしたものですが、スペース効率があまり良いとはいえないため、私はあまりこの類のケースは使いません…。
黒い箱の中に収納されていた添付品です。イヤーピースは標準タイプとダブルフランジタイプがS・M・Lと用意されています。他には3.5mm-6.3mm変換プラグ、航空機アダプター、クリーニングブラシが用意されています。
標準添付ケーブルは3.5mmシングルエンド対応の銀コート導体で、それなりの水準ではあるのですが、10万円クラスのイヤフォンで使うには少々格が落ちる感があります。
解像度が高く明瞭だが、奥行きや深みに欠ける
qdc製のイヤフォンは、通称qdc/UEカスタムと称される形状の2pin端子対応ケーブルを用います。標準的なCIEM 2pinケーブルも使えるのですが、ピン配置の極性が逆になっているため、逆挿しする必要があり、ケーブルの形状によっては使い物にならないこともあります。
生憎私はqdc製のイヤフォンは3SH SEというモデルしか所有しておらず、これもメイン級で使うほどの満足度ではなかったため、あまりグレードの高いqdc/UEカスタム向けケーブルを用意していませんでした。
そこで逆挿しに対応可能なグレードの高いCIEM 2pin用ケーブルということで、試聴用にBrise Audio ASUHAを使うことにしました。
用意したASUHAが2.5mm4極バランスということで、DAPも2.5mm4極バランス端子を備えたAstell&Kern A&futura SE100を使うことにします。なお、本格的に聴き始める前に、HiBy R6Pro AL
を使って約60時間慣らし再生をしています。
まずは「Babylon Sisters / Steely Dan」(LP「Gaucho」収録)を聴いてみましょう。
第一印象としてはとにかくクッキリ明瞭ということです。qdc製のこれまでのイヤフォンは高域方向はとても繊細に描き出すのですが、反面音色に固有の色が付くという弱点がありました。しかし、qdc初の金属製音導管採用モデルとなったFusion/TrESはqdc独特の癖が感じられず、解像度が高く抜群にキレの良い高域となります。ハイハットの金属感がこれほどはっきりと金属の音色で描かれるイヤフォンはあまり多くはありません。
一方、Fusionでわざとらしさが感じられた低域方向は、量感を抑え引き締まって力強く表現されます。ただ、引き締まりすぎて本来濃厚なはずのこの曲の雰囲気が妙にあっさりときこえてしまうのは弱点といえます。ドナルド・フェイゲンのヴォーカルも少し細身で神経質さが覗きます。
こういう音だったら恐らく合うだろうということで、J-Pop・アニソン系の曲から「stars we chase / ミア・テイラー(CV.内田秀)」を聴いてみると、若干声の細さは感じられるものの、低域から高域まで高解像度でクリアに描写されます。最初から奥行きがない録音の曲は文句なしに鳴らして見せますので、最初からこの辺りのジャンルで音決めしているのかも知れません。
続いて本来聴くジャンルに戻り、アルバム「Born For This Moment / Chicago」からいろいろ聴いてみます。シカゴのホーンの音色が若干安っぽいこと、「For The Love」辺りの空間があっさりすることは弱点ですが、「If This Isn't Love」は小気味よく鳴って好印象でした。ただ、ニール・ドネルの声も、やはりちょっと力が足りません。
ここで私が長年メインで使い続けているイヤフォン、64AUDIO U4と比較してみます。
高域方向の緻密さや金属系の音の質感は圧倒的にTrESが上なのですが、音場の奥行きや密度感、ヴォーカルの存在感はやはりU4に分があるようです。
ヘッドフォンをある程度知っている方であれば、質的な違いはあるもののU4がSENNHEISER HD650的であるとすれば、TrESはFOSTEX T50RP mk3的であると表現すればご理解いただけるかも知れません。あくまでイメージですので、音がそっくりというほど近いわけではありませんが。
SE100では少し駆動力不足かと思い、Chord Hugoを使ってみたのですが、中低域の密度感はある程度補われるものの、やはり奥行きはあまり描かれませんでした。左右はよく出るものの前後の表現が苦手なのが、TrESの特徴といえるのかも知れません。録音がある程度良いソースではどうしてもこの部分では不満が残りました。YOASOBIやRoseliaなど、ポータブルオーディオユーザーが好んで聴きそうなソースではあまり弱点は目立ちませんので、人によってはもっと高い評価を与えるのではないかと思います。
手持ちの中では群を抜いてHi-Fiだが、メインにはなり得ないか
その後しばらくBrise Audio ASUHAとの組み合わせで使っていたのですが、音はともかく取り回しの悪さが気になっていましたので、結局ケーブルはqdc/UEカスタム向けのLuminox Audio Kilowatt Jet Blackを入手して、それと付け替えてしまいました。
Kilowattは低域~中域にかけての情報量がASUHA比では落ちるのですが、標準添付ケーブルと比べれば力感も質感も良好に感じられましたので、使い勝手も含めれば何とか許容範囲と判断しました。
変換ケーブルを使ってメインDAPであるCayin N6ii/R01とも組み合わせていますが、DAPとしてはかなり濃厚なこのモデルと接続してもむしろあっさり気味に鳴る辺り、TrESの音色は徹底して「スッキリ、サッパリ、ハッキリ」というものなのでしょう。
解像度は抜群に高く明瞭な音なので、これを素晴らしい音と感じる人も恐らく少なくはないでしょう。ただ、私はどちらかというとアナログオーディオがメインという、一般的なポータブルユーザーとは対極の好みの持ち主であり、TrESの表現に深みがないことがどうしても気になってしまうのです。
TrESはキャラクターが明確であり、一定の方向に突き詰めた音ですので、その方向性と好みが合えば文句なしに素晴らしい製品と感じられるでしょう。ベースモデルのFusionよりは洗練され完成度も上がっていますので、興味がある方は是非実機を聴いていただきたいと思います。
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購入金額
49,800円
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購入日
2023年05月09日
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購入場所
ヨドバシ.com
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