レビューメディア「ジグソー」

今度は左目だ??締まった低域と、正確な定位の音場、近いヴォーカルの4BA、SeeAudio Bravery AE Exclusive Edition

やはり、人口はパワー。

日本が戦後復活した一つの要因は、(広いとは言えない国土に)人間がひしめき合っていて、その中で切磋琢磨してきたから。そのパワーは少し落ちてきてしまったけれど、日本の10倍以上の人口がある中国にはまだそのパワーがある。そうなるとけっこうな頻度で「おもしろいもの」が生まれてきている。

 

中華イヤホンメーカーも結構乱立した中で、ある程度の名声を得ながらも、それを引き継ぐ新作が出せなかったり、リリースされるものが玉石混淆なのは良いとしても「石確率」が高くなったりして淘汰されたメーカーや、そもそも元からダメダメなまま一度も浮上することなく退場してしまったメーカーなども多いが、確かな実力があるメーカーもまた次々と生まれてきている。

 

今のところラインアップの大多数がcybercatの好みに合うメーカーとしては、TANCHJIM

という南寧のメーカーがあるが、もう一つそれに加わってきたのが、2019年設立の深圳のメーカー、SeeAudio(杭州喜音科技有限公司=Hangzhou Xiyin Technologyのブランド)。

 

実はこのメーカーも?TANCHJIMや以前DAP

のレビューで触れた水月雨(Moondrop)と同じように、自社のイヤホンの外装に萌えキャラを採用している(後述するCIEMルーツのものを除く)。しかし、最近AliやTaobao等でよく見かける安物イヤホンの一部のように、ただアニメ調の外装をつけただけ、というお手軽ヲタクアピールイヤホンとは一線を画していて、結構評価が高い。

 

それはSeeAudioが、創業はCIEMメーカーであったからかも知れない。元々CIEMでは10BAや4BA+4EST(静電型ツイーター)の多ドラ高級機を手がけていて、高い評価を得ていた。そのSeeAudioが、UIEMで日本を含む世界進出をする際に、同社の公式イメージキャラクターのRinkoというキャラクターを押し立てて、販売するようになった(どうやらTANCHJIM水月雨の中の人同様に、SeeAudioの中の人もアニメ好きらしい)。多ドラで高価なCIEMが日本にはほとんど入ってきていないのと、同社のUIEMはCIEMに比べるとドライバー数も少なめで相対的に安価に設定されていること、日本専売品(SeeAudioにとって日本は重点市場らしい)や日本先行発売品だけでなく、グローバルパッケージもUIEMはすべてRinkoちゃんパッケージで、さらに最初期ロットにはRinkoちゃんのぬいぐるみやマウスパッドなどのノベルティをつけたりもしているのもあって、SeeAudio=単なる萌えイヤホンメーカーと思っている人もいるかも知れないが、それは違う。CIEMで培われた音楽再現性に、ユーザーからのフィードバックを製品に活かす企業姿勢で(ちょっと高めではあるが)質の高いイヤホンをリリースしている。

 

SeeAudioのUIEMとしては、日本での第一弾作品で日本専売モデル3BAの「anou」、「anou」とは同シェルでドライバー違い(1DD+2BA)のグローバルデビュー機「Yume」と、その音質チューニング版「Yume Midnight」、「Yume」のシェルを金属筐体にしてドライバーにも手をいれた後継機「YUME2」、1DD+2BA+2ESTの最上級機「MIU」があるが、今回入手したのはミドルクラスで4BA機の「Bravery」。

 

ただ今回のモノ、「普通の」Braveryではない。

 

このSeeAudioの製品、TANCHJIM水月雨と比べて、さらにマイナーなので、ごく一部のイヤホン専門店にしか入っていない。

 

ただ以前Braveryを試聴したことがあり、cybercatの好む「低域は存在感はあるのに締まっていて出過ぎず、中域には主張が感じられ、高域に開放感がある、楽器定位の見通しが良いイヤホン」という定義に合っていた音色だったので、好ましく思っていた。

 

ただ、一つだけ問題点が。

 

何度か触れているがcybercatの耳は、耳穴が細く、空耳(耳の中が湿っていない)で下向き開口と、「奥まで入れづらく、摩擦がなく滑りやすく、落ちやすい」と三拍子揃っているダメ形状なので、特に太めになりがちな金属ステム(耳穴に挿入する「筒」部分)を採用するIEM形状のイヤホンの一部は、「筐体が大きくステムが短い場合、耳からイヤホンがこぼれ落ちないように、キチンと保持されるポジションまで挿入できず安定性が悪い」という問題がある(これは耳の形状・性状との相性問題であって、イヤホン側の優劣ではないが)。

 

この試聴時には、Braveryのシェルの造りの問題か、イマイチ収まりが悪かった(特に発売当初は添付されている標準ケーブルの「耳かけ」部分のクセの付き方が良くなかったという情報もあるので、ひょっとすると、それがさらに悪影響を与えた可能性もあり)。

 

これが1万円程度なら、いろいろイヤピで調整してみて収まりの良い組み合わせを探す、という手間をかけても良いほど音自体は気に入ったのだが、さすがに3万円台中盤となると、「最適な組み合わせを求めて遊ぶ」には高価すぎたため、その時はスルーした。

 

その後、このBraveryに改良版が出たのを(あとから)知った。

 

それがBraveryの発売1周年記念モデル「SeeAudio Bravery Anniversary Limited Edition」。これは「素の」Braveryから外装の箱が違うRinkoちゃんパッケージになるとか、Rinkoちゃんのマウスパッドが添付されるとかと言った萌え方向の付加価値アップと、添付ケーブルがモジュラー式になって3.5mmシングルエンド/2.5mmバランス/4.4mmバランスの三種交換式になったこと、およびシェルの形状が見直され、より小さくなったという変更が加えられた(あとシェルの色がバブルブラック&ホワイトからルビーレッドに)。

 

ただこのLimited Edition、世界で500台限定で気がついたときには入手できなくなってしまっていた。またLimited Editionとしての価格上昇(元の価格も279ドルから299ドルへ上昇)に加えて為替レートの変動で国内価格が4万台中盤になったのもあり、シェルが改良されたとはいえ試装着なしでは、一部出回った中古にも手が出しづらかった。

 

ここまでで終わっていたら、「音が気に入っていたイヤホンの改良限定版を買い逃した」というだけ?なのだが、このLimited Edition、そのシェイプに人気があったらしく、「同じシェイプのモデルが販売店限定版として再版された」のだ。

 

それが、「SeeAudio Bravery AE(Angelears) Exclusive Edition」。AEAngelears Audio StoreはSeeAudioの特約販売店で、ここがAnniversary Limited Editionと同じシェイプの限定版を企画、同じ299ドルで再販した。

 

Anniversary Limited Editionと同じところは、シェルの改良型シェイプと標準添付がモジュラー式ケーブルなこと。違いは先ず色。原則カラーはインクブルーとなった(一部販売店経由ならAnniversary Limited Editionと同じルビーレッドもオーダーできるらしい)。限定数は今度は1000台。そしてRinkoパッケージはリデザインされ、それと同じ柄のマウスパッドと最初期ロットはRinkoのアクリルスタンドが付くという付加価値あり。

 

フィッテングが良くなった、というのも話だけで、試装着していないのがイマイチ不安だったが、限定版シェイプのシェルを新品で手に入れる最後のチャンスかもと思い、AliのAngelears Audio Storeから直接購入してみた。

 

モノがやってきてみると、今までのうさ耳カチューシャをつけて清楚なドレスをまとったRinkoちゃんから、今回太ももも露わなオッドアイの女悪魔のパッケージ。その絵からすると前回のAnniversary Limited Edition右目で、今回のAE Exclusive Edition左目?アクスタは、Shanling M3X Limited Editionに付いてきた浅野天琪ちゃんや水月ゆきちゃんのものよりチョイ小さめ。ただ、本体両面印刷でどちら向きでも使えるし、ベース部分にも印刷があり、透明度も高くてけっこう出来が良い。マウスパッドは結構大きめ(およそ29.5cm×24.5cm)で、硬質な素材ではなくつるつるの布製(裏はゴムっぽい素材ですべり止めになっている)。

イヤホンのケースとマウスパッド、アクリルスタンド
イヤホンのケースとアクリルスタンド、マウスパッド

 

アクスタはベース部分にも印刷がある
アクスタはベース部分にも印刷がある

 

ゆきちゃんにくらべると小さい
天琪ちゃん、ゆきちゃんにくらべると小さい

 

ただ裏側にも印刷があって基材の透明度も高く高品位
ただ裏側にも印刷があって基材の透明度も高く高品位

 

マウスパッドはかなり大きなサイズ
マウスパッドはかなり大きなサイズ

 

表面は硬質な素材ではなく、滑りが良い糸で編んだ布
表面は硬質な素材ではなく、滑りが良い糸で編んだ布

 

箱を開けると、萌え系添付品(ポストカード、ステッカー、SNS誘導のプラスチックカード、チャンスカード)の他に、イヤホン本体、ケーブル、2種のイヤーピース、交換用フィルター、ケース、説明書が入っている。

アクスタとマウスパッド以外も萌え系グッズ満載
アクスタとマウスパッド以外も萌え系グッズ満載

 

シェルの外観は、フェイスプレート側が雲母様の煌びやかさを持つ不透明なのプレート、内側は透過するトランスペアレントブルー)。耳側になるハウジング内側には限定No.が入る。プレートは左右非対称の文様で、左側ユニットにはSeeAudioを示す、エジプトの民芸品の人形にある切れ長の目にも見える「S」を図形化したマーク、右側ユニットには花のような図形が刻まれている。同社のYUME2には、「Y」をかたどったような、花を横から見たようなマークが刻まれているので、こちら側のマークは機種名を表しているとすると、Braveryの表意シンボルなのかも。その場合Braveryは、一般的な「勇気」とか「勇敢さ」、「勇壮な」と言った意味ではなく、「華麗」「華やかさ」という方の意味なのかも知れない。

ここに限定数の番号が入る(ちな100番以上200番未満)
ここに限定数の番号が入る(ちな100番以上200番未満)

 

オリジナルに比べて下側(「see」がある側)が細く絞られている
オリジナルに比べて下側(「See」がある側)が細く絞られている

 

シェルの大きさは記憶の中の素のBraveryと比べてあきらかに小さい、つか細い。ノーマルのBraveryは、全体的に丸っこい感じの形だったが、AE Exclusive Editionは逆三角というか、フェイスプレートがT字型に近いほど下が削れている。その分耳の中に入る部分も小さい感じ。BAドライバーは低域がKnowles×2、中域がSonion×1、高域はKnowles×1と明記されている。サンコーのマイクロスコープカメラ

も駆使して見た感じでは、かなり大きめのユニットにはKnowlesマークと31618とあるので、上は4kHz程度までしか出ないが、深みのある低音を出すデュアルドライバーHODVTEC-31618、一番小さなユニットにはやはりKnowlesマークに33518の数字が見えるので、WBFKの廉価系代用としては定番のRAD-33518。残る中域担当ドライバーはSonion製のハズ。拡大しても角度的・彫りの深さ的に明確には読み取れないが、なんとなく「2389」のようにも読めるのでおそらくReceiver 2389。これならばやや高域寄りのフルレンジのハズなので、中域担当としてはちょうど良いか(約6×4×3mm程度のユニットの大きさ的にも2389濃厚)。特徴的なのは、各ドライバの開口部から、鼓膜側に向けて導音管が伸びているが、その途中に膨らみがあり、フィルターのようなものがかましてありそうなところ。ケーブル接合部の0.78mm 2Pinの「受け側」には小さな基板が見えるが、抵抗などが載っている感じはなく、この導音管途中のフィルタ?と、ハウジング横に開いたピンホール(ベント)で、パッシブな方式で調音しているのかも知れない。

マイクロスコープカメラの解像度が悪いので写りは悪いが...
マイクロスコープカメラの解像度が悪いので写りは悪いが...

 

DDではないのにベントが開いている
DDではないのにベントが開いている。BAドライバから延びるチューブの途中のはフィルタ?

 

ケースはRinkoちゃんのトレードマーク、うさ耳カチューシャが入った丸形ケース。ねじ込み式ではなく、蓋とケースの摩擦力で閉めておくタイプ。

 

イヤホンとケーブルの接合は、元がCIEMメーカーらしく0.78mm 2Pinで、自分にとっては現有資産が活かしやすい。

 

そのケーブルだが、流石ミドルクラスイヤホンということか、社外品が最初から付いてくる。台湾からケーブル材を取り寄せて製作する中国のケーブルメーカーHAKUGEI社の6N OCCケーブルが付いてくる。素のBraveryとは違って、Anniversary Limited Edition同様、プラグ側を付け替えることで、3.5mmシングルエンドと2.5mmバランス、4.4mmバランスプラグに変更できるタイプ。このHAKUGEIのケーブルは日本ではミミソラオーディオが取り扱っているが(ちなみにSeeAudioの取り扱いもミミソラ)、日本に入ってきているグレードでは6N OCCのタイプはない。

モジュラー式のプラグ部分
モジュラー式のプラグ部分

 

差し込みはネジ式などではなくスポッと抜き差し
差し込みはネジ式などではなくスポッと抜き差し

 

Ali等での扱いを見ると、Big Riceというグレードのものの外装を黒の布巻にし、プラグ部分をモジュラー式に変更したというあたりだろうか(Big Riceは価格的にも4千円ほどなのでバランス的には納得がいく)。

 

ケーブルのプラグ部分の変更は抜いて挿すだけでロック機構などはないので、丁寧には扱わなければならないが、例えばDAPに刺さったプラグをケーブル部分を掴んで抜いたとしても、モジュラー接合部ではなく、きちんとプラグ部分が抜けるので、プラグのつけ外しは結構硬め。ケーブルはブラックの布巻でしなやか、耳かけ部分は硬すぎない癖が付いていて結構いい感じ。

 

イヤピは2種が3サイズずつ入っていて、ひとつはフォームタイプで、ひとつは熱可塑性エラストマー採用のAZLA SednaEarfit XELASTECAZLA SednaEarfit XELASTECは3異サイズひと組ずつ入っているタイプが定価2,980円売価2,000円ほどなのでけっこうな高級イヤピ。体温で柔らかくなって耳に沿って変形し密着するタイプ。やや粘着性があるので、ちょっと汚れやすい面があるものの、金属で太めのステムのBraveryを耳の中にとどめるには良い選択か。ただ、扱いやすい単なるシリコンチップがないのは、このステムの太さで装着に問題ない人にとっては、マイナスかも(XELASTECはペタペタするので、嫌う人もいる)。

イヤピはAZLA SednaEarfit XELASTECとフォームタイプが3サイズ
イヤピはAZLA SednaEarfit XELASTECとフォームタイプが3サイズ

 

記憶の中の素のBraveryと比べると、相当に耳への収まりは良い。シェル形状以外にもステムの角度も違うらしいが、ノーマルBraveryよりも耳道の奥に届く(記憶との照合だが)。世のレビューでは、シェル形状が違う(ハウジング容量が少ない)ため、素のBraveryAnniversary Limited Edition/AE Exclusive Editionは微妙に違うようだ(サブベース領域が素のBraveryの方が充実しているらしい。対して限定版系はスッキリ系)が、あの「記憶の中の(素の)Bravery」とどれほど違うのだろうか。

 

例によって100時間ほどのエイジングを終えてから、現在のメインDAP、Shanling M3X Limited Edition直刺しで聴いた。DAP側のセッティングは、ゲインはLowでDUAL DAC(DAC Turboモード)、EQはスルー。ケーブルはもちろん付属標準ケーブルで、接続方法は4.4mmバランス。

 

選んだイヤピは添付のなかで、AZLA SednaEarfit XELASTECの一番小さいヤツ。

※ちなみに、この一番小さい径のAZLA SednaEarfit XELASTECは約11mmΦなので、市販のものだと「S」相当(公称11.2mmΦ)。他の2サイズは、ノギス

で実測約12mmΦと13mm弱Φなので、それぞれ11.9mmΦと12.6mmΦの「MS」と「M」だと思う。

 

まず、音質評価で一番最初に聴く曲、「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。吉田賢一ピアノトリオのライヴ録音、PCM24bit/96kHzのハイレゾ録音ファイル“STARDUST”

からFLAC化したものを。イヤピにAZLA SednaEarfit XELASTECを選んだせいか、鼓膜正対でノズル方向がずれないため、結構ライドシンバルが優勢。この曲、3ピースジャズで、定位がベースセンター、ドラムス右ch、ピアノ左ch~センターという位置なのだが、ドラムスが近い。ブラシのコーテッドヘッドをこする感じや、ハイハットの締め方の違いによる音色変化がよくわかる。ベースは伴奏時は下を支えているが出しゃばっておらず、ソロになって高音域を使うようになるとグッと前に出る。そしてピアノがいい鳴り。3つの楽器のバランス的には、手持ちのイヤホン屈指かも知れない。

 

つづいて同じハイレゾ音源(PCM24bit/96kHz)、宇多田ヒカルの「First Love」をUSBメモリ販売だった“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”

から。これは空間の広さがいい感じ。中域から上の音域が広く、耳の外から頭の上まで広大に広がり、ヒカルの後ろで場を埋めるストリングスがゴージャス。低域はちょうど良いいなし方で、大きめのベースがドンと中央に居座るこの曲でも飽和感なく聴けるが、そのゆったりとしたベースのグルーヴに乗って歌うヒカルの弱ハスキーな声は近い。

 

女性ヴォーカルで、ドラマチック系バラードということで、比較的「First Love」と同系統の楽曲なのに、多くの場合違った評価になる女性声優あやちゃんこと洲崎綾の「」は、メモリアルファンブック“Campus”

から。この曲、バックの楽器とあやちゃんの声がどちらも負けることなく良いところを聴かせるイヤホンが多くはないのだが、中域以上の音場の広さ+定位の確かさと、ブーミーではない低域が良い仕事をしていて、結構両立している。なんと言っても華は中域で、あやちゃんのヴォーカルとその後ろで鳴るピアノ、左chのエレキギター、右chのアコースティックギターの分離が良い。サビになるとバックを埋めるストリングスが、あやちゃんの声を消すことはない(この曲、結構Aメロ良くてもサビになると飽和するイヤホンも多い)。上は「詰まった」感じはないが、すごく開けた感じもしないのはソース由来か。

 

おなじくあやちゃんが演じる、アイドルカードバトルゲーム“THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS”の新田美波の初期持ち歌「ヴィーナスシンドローム」は、“THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 019 新田美波”

から。4つ打ち以上で連打されるキックと譜割りが細かいシンベが下を埋め、駆け回るシーケンスパターン、複数本入るディストーションギターのリフとオケヒットも含んでドラマチックに盛り上げるストリングスが中高域を覆い尽くす中で、あやちゃんが女子大生アイドルの色気を表現するこの楽曲、完全音飽和系楽曲でサビになるとヴォーカルを上手く描き出せるかがキモだが、きちんと壁をかき分けヴォーカルセンター。サブベースあたりがしっかりとしているので、ディスコティックなビートははっきりしているが、中域がよりしっかりしつつ左右に広くて分離も良いので聴きとりやすい。ただ、中域の主張が強いので、低音域のゴリゴリ感や高域のヌケはやや抑えめ。ドンシャリの刺激的な音が好きな向きにはやや物足りないかも知れない。

 

打ち込みのラウド系リズム重視曲から、「人力」のリズムコンシャスなジャパニーズフュージョン、T-SQUAREの「RADIO STAR」を、ベーシスト&ラッパーの日野"JINO"賢二をゲストプレイヤーに迎えたセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”

から。基本この曲ではJINOはスラップ中心なので、ラインは追えるし、小技もわかるのだが、低音弦のプッシュの重低音はちょっと物足りないかも。板東クンのキックのキレは素晴らしいが。一方、中域主体となる河野啓三の流麗なピアノソロは近くてプレイの詳細までわかる。

 

今度はスピーカー聴取が基本となる時代にミキシングされた、前世紀の古典ロック、Eaglesの「Hotel California」は金蒸着の同名アルバムCD

から起こしたFLACで。ピラミッド型の元バランスを識っていると、結構ベースが控えめで音色が硬め。楽器音や女性ヴォーカルでは良かった中音域だが、Don Henleyの声域だと若干沈む。一方楽器は良くて、右ch端のワウギターや左chやや内目の生ギター、左右いっぱいに広げたドラムなどは定位がきちっとしていて揺らがず、聴きやすいし、ラストのツインギターソロも他の楽器がパカッと左右に割れている中、中央でハモリ合い、素晴らしい。2ndVerseのDon Felderのピッキングハーモニクスも冴え渡る。

 

機器に再生能力を要求するオーケストラ系楽曲は、交響アクティブNEETsの「艦これ」BGMのオーケストラアレンジ、“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から「鉄底海峡の死闘」。左右の広さによる中域の弦の「多人数感」や、ティンパニのアタックのダイナミクス、空を渡るトライアングルの響き、管の煌びやかさなどは良いのだが、この手の曲だとあと一歩下が欲しいかも。中低域までは充分充実している分、重低域の相対的な弱さが気になる感じ。

 

最近多くなってきた配信圧縮音源のmp3楽曲(ビットレート269kbps)としては、YOASOBIのサポートベーシストやまもとひかるの2nd配信シングル「NOISE」。

この曲も音飽和系でなかなか分離良く聴けないのだが、もう少し芯が欲しい気はするが、ひかるちゃんの声の分離は良く、ラウドなバックをかき分けて中央に来る。ベーシストのひかるちゃんにとって、主役とも言えるベースに関しては若干控えめで、ソロやフィル以外の部分ではむしろドラムスの方が目立つ感じ。スラップより指弾きの方が目立つのは帯域のせい?一方中域の分離は良く、今まで注意を払ってこなかったが、やや左ch寄りに通しでガッツリワウギターが入っているのに気づく。ピアノの響きも良い。

 

約1年前に改良前のオリジナルシェイプのものを聴いて、音は大変気に入り、しかし装着性の悪さから見送ったイヤホンが、小型にリシェイプされた情報を得て、試装着せずに突撃した4BAのミドルクラスUIEM、SeeAudio Bravery AE(Angelears) Exclusive Edition。想像以上に耳への収まりは改善されていて、いい感じのフィッティング。そして、中域の分離と定位の素晴らしさ、および、ソロ楽器やヴォーカルの主旋律を「近く」で提示する、記憶にある音色は損なわれていなかった。

 

このイヤホン、底力が相当にあって

◎「主」となる旋律をとる声や楽器をグッと近くに引き寄せ鮮やかに提示する

◎音場自体は耳の外まで広がるほどではないが、楽器のフォーカスが明瞭で分離が良く広く感じる

◎ベースの一次倍音領域まではしっかりと芯がある音が支え、グルーヴィ

◎高域も結構強めに主張するが刺さらない音色

◎能率高めで、DAPで完全にドライヴできる

というアピールポイントがある。さらにAE Exclusive Editionの付加価値としては、

○素のBraveryからのハウジングシェイプの変更で大幅改善された装着性

Anniversary Limited Edition同様に3種交換式のプラグを持つ6N OCCケーブル添付

○小悪魔的なRinkoちゃんのアクリルスタンド付属

Anniversary Limited Editionにも添付されていたマウスパッドは小悪魔Rinkoちゃんに変更

○パッケージも小悪魔Rinkoちゃ...もういいかw

 

一方

■中域の近さと緻密さは高次元だが、「これ」といった音色的特徴に乏しい

■中低域の芯の強さに比べ、重低音はやや物足りない

■高域は伸びてはいるが、音量を上げると、やや中域にマスキングされがち

という好みによってはマイナスととれる部分もある。特にドンシャリで派手な音色が好きな人には若干物足りないか....

 

複数イヤホン類を持っていると、「この曲/このジャンルにはコレ!」という、尖っていてジャンル対応性は広くはないが、嵌まれば場外ホームラン的機種を選択しがちになるので、強い音色的特色がなく、特徴が少ないオールラウンダーな機種はちょっと後回しになりがち。

 

ただこのイヤホン、重低音ゴリゴリでないと楽しめないジャンル以外は、広く高い次元で再生するハイレベルな万能性がある。音質的にはハイレゾ⇒CDクラス⇒mp3と結構明確にわかったので、元々モニター系CIEMを得意とするSeeAudioらしいとも言えるが、どの音源でもソコソコクラス以上には仕上げてくるので、モニタリングというよりリスニング向け。

 

「ひとつだけ」イヤホン類を持ち出す場合には、結構な頻度で第一選択になってきそうな機種でした。

 

【SeeAudio Bravery AE(Angelears) Limited Edition仕様】オーディオなんちゃってマニア道

ドライバー:4BA レビュー 

      低域Knowles社製BA×2、中域Sonion社製BA×1、高域Knowles社製BA×1
THD+N:<1% @1kHz
インピーダンス:18Ω @1kHz
感度:110dB±1dB SPL/mW @1kHz
再生周波数帯域:20Hz-20kHz
ケーブルコネクタ:0.78mm 2Pin

ケーブル長:1.2m±5%

ケーブル:HAKUGEI社製 6N OCC

     3.5mmシングルエンド、2.5mmバランス、4.4mmバランス交換式
付属品:AZLA XELASTECイヤーチップ、フォームタイプイヤーチップ

カラー:インクブルー(限定カラー)

更新: 2023/01/09
高音

刺さらないが伸び感ある高域

ただ中域の存在感がスゴイので、ラウドな曲だとやや目立たない。ジャズトリオなどだと、広がりがものすごいが。

更新: 2023/01/09
中域

主旋律楽器と(特に女声)ヴォーカルを近くにグッと引き寄せる感じ

中域というより中高域の楽器や声の分離が極めて良く、様々なバッキング楽器の表情や小技を描き出しつつ、それをかき分けて、メインヴォーカルやソロ楽器が目の前に来る。

更新: 2023/01/09
低音

中低音域の芯のある音質が下を支える

「重」低音の「量」はないので、強ドンシャリが好きな人には勧めないが、ベースのうねりやキックのアタック、ティンパニの破裂音などはしっかりとある。

更新: 2023/01/09
音像

定位がシャープなので、横と前後のスペースが広く感じる

中域が近いので相対的に上のヌケ感(高さ)は今一歩だが、両耳の端から端まで広がる定位感の良い音のポジションの分離で平面方向の広さは広い。

  • 購入金額

    45,139円

  • 購入日

    2022年11月03日

  • 購入場所

    Angelears Audio Store (AliExpress)

20人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • harmankardonさん

    2023/01/09

    SeeAudioは気になっているのですが,最近試聴の機会がなく,まだ聴いたことがありません.
    そのため,Fearless Audioにちょっと浮気中です.
  • jive9821さん

    2023/01/09

    See Audioは丁度コロナ禍の中で開催されたeイヤホンの
    合同試聴イベントで、Yumeの試作品(3種類)を聴かせて
    いただいて色々意見を聞かれて以来、結構注目していました。

    当初のYumeはケーブルがあまり良くなかったのですが、
    試聴時に試しにBrise Audio STR7を使ったらかなり良い結果
    となり、製品化されるときにはケーブルの質も随分良くなって
    いました。

    元々実力もあるメーカーですし、改良には貪欲な姿勢を見せて
    いますので、今後も要注目かも知れません。
  • cybercatさん

    2023/01/09

    SeeAudio,これの下の新製品「YUME2」も正確な定位で評判高いんですよ.
    金属製シェルになって高音域が延びたのに加え、2BA+1DDの構成なので下にも熱があって、でも芯を貫く音色方向性はBraveryと近いようなので. . .
    ちょっと1~2月は出費が多いのでどうにもならないけれど,余裕が出たら行ってみようかな.
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