レビューメディア「ジグソー」

作品の持つ「季節感」って大事?

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。リリース時期にかかわらず、アーティストやその作品に似合う季節、というのはあります。湘南や祭等に関する曲を多くリリースしたサザンオールスターズは夏のイメージですし、一時期冬のCMソング女王だった広瀬香美はやはり雪が似合います。一方、アーティストそのものには特定の季節の「色」がついているわけではないのに、作品全体として季節を想起させるアルバムもあります。そんな作品をご紹介します。

 

松任谷由実ユーミン)。今年(2022年)芸歴50周年を迎えた日本ポップス界の大ベテラン。どちらかと言えば、一般的な意味での「上手さ」というよりは、独特の味がある「旨い」声を使って、自身の創った作品を表現するシンガーソングライター。そんな彼女の29枚目!のオリジナルアルバムが、1997年末リリースの本作“スユアの波(WAVE OF THE ZUVUYA)”。ZUVUYAと言うのは、「時を越える波」だそうで、1997年版の方の映画「時をかける少女」(中本奈奈主演)の主題歌も、1983年版(原田知世主演)に続いて担当したユーミンの、その主題歌が含まれていることと、サーフィンのように波に乗る...というあたりのイメージを凝縮させているものらしい。

 

いつもながらのユーミン節ながら、半分がバンド構成、残りの曲で20人を越える構成の生ストリングスセクションを使用していて、それでいながらそれらの曲の多くはリズムが打ち込みであるなど、ちょっと意外な構成で形作られている。

 

Sunny day Holiday」。このアルバムの中では一番知名度が高い曲??ドラマの主題歌で、サビ以外半速取りのリズムで残響が大きいドラムスが、ちょっとナイアガラチック?で懐かしい感じ。この曲はストリングス隊が入っていながらバンド構成で、リズム隊が人間のプレイヤーであるという、このアルバムでは珍しい組み合わせ(バンド構成のみ、もしくは生ストリングス隊+打ち込みリズムのいずれかの組み合わせが多い)。こういう「タメ」がありつつ盛り上がりを表現するリズムは、ドラムスもベースもまだ「人間」かな、という感じ。演奏は、ドラムスがDaryl Hall & John OatesやKenny Loggins、日本でもこの時期の作品に多く参加した名手Mike Baird、ベースは近年TOTOのサポートにも入っていたLeland Sklar。少し盛りを過ぎた夏の海岸というイメージが強い曲。生ギターのカッティングが、風のように吹き抜ける。

 

時のカンツォーネ」は、中本奈奈版「時をかける少女」の主題歌だが、原田知世版「時をかける少女」の主題歌、「時をかける少女」の歌詞をなぞっており、区切り方は違うものの歌詞がほぼ同じなのにメロディは全く違うのがおもしろい:時のカンツォーネ「ゆうべの夢は金色の窓辺いつか遊んだ庭/たたずむあなたの/そばへ走って/ゆこうとするけど/もつれて/もつれて/涙/枕濡らす」時をかける少女「ゆうべの夢は金色/幼い頃に遊んだ庭/ただずむあなたのそばへ/走ってゆこうとするけれど/もつれて/もつれて/涙/枕濡らす」ギターは故松原正樹とPaul Jackson Jr.という名手二人の共演だが、Paulの軽やかなカッティングと松原のセンスの良いオブリで曲を盛り上げる。どちらがどちらを弾いているというクレジットはないが、これほどまでに個性が出ると明確にわかるな。

 

ラストは沁みるバラード、「Saint of Love」。この曲は20人超のストリングス隊に加えて、さらに、Jerry Hey率いるブラス隊も参加しており、とてもゴージャス。アレンジ的にはChicagoちっくなブラスを表に出した構成ながら(編曲にはJerryも名を連ねているので、ブラスアレンジはきっと彼)、リズムは淡々とした打ち込みで、過度に情緒的になることなく、ブラスとストリングスによる色づけを支えている。ただ、最後はゴスペル調のコーラス隊が包み込むように加わり、荘厳さも加えて余韻を残す終わり方は流石。

 

このユーミンのアルバム、曲順の構成も良くて、ギターのアルペジオからの導入で、抑えめのAメロ~ブリッジから、オルガンのグリスがぐわっと入り、徐々に盛り上がる「セイレーン」から始まり、生ギターのオブリがもの悲しい「きみなき世界」等の小休止?を挟みつつ、中間部にはハッピーなアメリカンロックチューン「結婚式をブッ飛ばせ」などバンド仕立ての曲を多く配置して盛り上げ、荘厳な「Saint of Love」で〆ると、カンペキなのだが、唯一問題と思われたのが、発売時期。

 

曲的には夏~秋口程度の季節を強く感じる曲が多く、歌詞にも海や波、岸辺のボートなど夏を想起させるワードが並び、さらにジャケットも碧い空をバックにしたサーフボードと、夏っぽい割りには、発売されたのは、12月と真冬。ヒットメイカーユーミンの新作という事で、当時街で多く流れていたが、ちょっと季節感??という感じで、耳に残ったのを想い出す(その不整合感がねらい?)。

 

配信主体で、所有する場合も1曲1曲ダウンロード販売の切り売り、という感じが強くなった最近はあまり気にするとこではないのかも知れませんが、まだCD等の物品販売が主だった時代に、この季節のアンマッチ感は...と、とても残念に思った作品だったことを想い出しました。

どう見ても夏っぽいよなー
どう見ても夏っぽいよなー

 

【収録曲】

1. セイレーン
2. Sunny day Holiday (Album mix)
3. 夢の中で〜We are not alone, forever (Album version)
4. きみなき世界
5. パーティーへ行こう
6. 人生ほど素敵なショーはない
7. 結婚式をブッ飛ばせ
8. 時のカンツォーネ (Album version)
9. Woman
10. Saint of Love

 

「Sunny day Holiday」

更新: 2022/09/19
必聴度

ちょうど今頃の時期(9月)に聴くべき作品

この作品、行く夏を惜しむ時期(完全に「秋」ではなく、まだ少し暑い)にリリースされたら、ドンピシャだったんだけれども...

 

この時期にアルバム通して聴くなら★4かな

  • 購入金額

    3,058円

  • 購入日

    1998年頃

  • 購入場所

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