私は普段オーディオ機器で真空管を使うことをあまり好みません。真空管を使うと確かに独特のムードは出てくるというメリットはあるのですが、個人的にそういった色付けは特に必要ないと考えています。
ただ、ポータブルオーディオの世界ではちょっと考えが違っていて、イヤフォンの類でそこまで色付け感の無いものはまず無く、アンプによる演出で好みに近づくのであればアリかな、という程度には考えています。実際に私が気に入っているDAPの一つであるCayin N8/N8ii、iBasso Audio DX320+AMP13辺りは真空管(NuTube)を採用している製品です。特にiBasso DX320は真空管採用のAMP13以外ではあまりしっくりとは来ない感覚がありましたので、この辺りは積極的に真空管搭載製品を選ぶ価値はあると考えています。
さて、据え置き型のヘッドフォンアンプはポータブルオーディオと据え置きの中間というべき存在で、今のところ私自身の環境ではCHORD Hugo(厳密に言えばこれは一応ポータブルアンプ)やFOSTEX HP-A8辺りを中心に使っています。これらは製品ジャンルはヘッドフォンアンプではあるものの、純粋なヘッドフォン駆動用のアンプというよりはUSB DACがそこそこ強力なヘッドフォンアンプを備えているという性質のものです。比較的鳴らしにくいといわれるSENNHEISER HD650や平面磁界型でも十分鳴らせてはいますが、例えばLUXMAN製のP-750uのような圧倒的な駆動力というところまでは行きません。それはさすがに単体型ヘッドフォンアンプの領域です。
その単体型のヘッドフォンアンプとして、比較的低価格で面白い存在と思っているのが、Cayin HA-1A MK2という真空管アンプです。以前ヘッドホン祭り等の機会に聴かせていただいて、実売価格から考えればかなり良く鳴っているという印象だったのです。そのHA-1A MK2の前身となるHA-1Aをジャンク扱いで見つけたので、まずはこれを試してみようと思い購入してきました。
そこそこ古い品ですし、傷もある程度は入っていて、外装は価格なりという印象です。
細かい作り込みが甘いのが残念
私も入手して初めて気付いたのですが、純粋なヘッドフォンアンプである現行製品のHA-1A MK2とは異なり、初代のHA-1Aは一応名目上プリメンインアンプだということです。
従って、バナナプラグ対応型のスピーカーターミナルがきちんと用意されています。
ソースの入力はRCA端子1系統のみですが、一応プリアウトが用意されています。
また、スピーカーターミナルの下に「TRIODE」と「ULTRALINEAR」の切り替えが用意されています。これは一応駆動方式の差らしいのですが、どちらかというと出力ゲインに切り替えの性質が濃いものとなります。
ヘッドフォン出力時のみ有効となるインピーダンス切り替えも用意されています。後継のHA-1A MK2ではスピーカー出力が出来なくなった代わりに、こちらのインピーダンス切り替えが最大600Ωとなっていて、鳴らしにくさに定評があるbeyerdynamics T1系(600Ω)にも余裕を持って対応できるようになっています。
この個体がジャンクとなっていた理由は、こちらの丸窓の中と、電源ボタン上部の照明がどちらも点灯しないということでした。とはいえ、丸窓の中は真空管の光があるので照明が無いことは正直さほど気になりません。
さて、動作確認を兼ねて音を出してみました。ソースはPCに接続したCHORD Hugoから入力しています。ヘッドフォンはMassdrop × SENNHEISER HD6XX(ケーブルはBrise Audio STD001HP for HD650)を接続しています。
まず第一印象としては「とにかくホワイトノイズが目立つ」というものです。私は普段MCカートリッジで再生するレコードをメインに使っているくらいですから、そこまでノイズに対して頓着している訳ではありません。それでもこの製品のノイズはやはり多いと感じます。特にHD6XXに合わせてインピーダンス切り替えを121-300Ωにセットして駆動するとノイズがより目立ちますので、敢えて65-120Ωにセットして試聴することにしました。
ノイズといえばもう一つ気になるのが、スイッチ類一つ一つも劣化があるのかも知れませんが、動かす度に結構大きめのノイズが出ているということです。特に頼みのインピーダンス切り替えスイッチですら結構ノイズを発するのには閉口します。この辺りの詰めの甘さが製品の品質感を大きく損なってしまっている印象を受けました。
気を取り直して音質の方をチェックしてみると、基本的には真空管らしくやや甘口で濃厚な音といえます。
CHORD Hugoで直接聴くと音質的にヴォーカルの質が思ったほど良くないと感じた「さよなら夏の日 / 山下達郎」を聴いても、声の艶が足されて粗が目立たなくなるため、聴いていてとても心地よい鳴り方です。
ただ、「Orphan / TOTO」では、ベースラインやバスドラムがちょっとのっぺりとした感じになり、輪郭の甘さを意識させられてしまいます。キレや解像度といった要素はHugoで直接聴いた方が良好です。ただ、低域方向の沈み込みについては、駆動力に余裕があるHA-1Aの方がより深さを感じます。
「Oh Lady Be Good / 小川理子」では、ピアノの艶のような部分はHA-1A経由が有利であるものの、ハイハットの刻み方がより緻密に感じるのはHugoで直接聴いたものでした。ただ、ハイハットの音色そのものはHA-1A経由の方がより生っぽさは感じます。
という訳で、HA-1Aは良くも悪くも真空管らしいアンプということです。質感や雰囲気はとても魅力的ですが、オーディオ的な正確さという意味ではやや落ちるという結果です。
そしてHA-1Aという製品の出来については正直言って完成度は低いと思います。出てくる音だけを聴いていれば価格相応以上の価値はあると思うのですが、どのスイッチを動かしてもそれなりに大きいノイズが乗ったり、ホワイトノイズが多すぎることによるS/N比の劣悪さは、常用するのは我慢を強いられるという感覚でしょう。
今回はジャンク購入品なので、もう少しコンディションの良い個体を使えば印象が変わる可能性はありますが、ホワイトノイズの多さは発売当初から指摘されていた話ですから、設計そのものの問題でしょう。
一台持っていれば楽しめる製品ではありますが、私自身これは常用することは無いと思います。
真空管の交換で大きく改善
実はこの後Cayinの代理店であるコペックジャパンのS氏と会った際にこの製品のノイズについて質問してみたところ、真空管の劣化である可能性が高いというお話だったため、新品の真空管(EL84×2本)に入れ替えるとともに、12AX7を12AT7に交換した方がノイズが下がる(代わりに出力は落ちる)可能性が高いということで、この3本について入れ替えを行ってみました。
元々装着されていたEL84はElectro-Harmonix製でしたが、今回は安価な処分品を入手できたJJ製としています。また、前述の通りノイズ低減を狙ってCayin純正12AX7をJJ 12AT7へと交換しました。
真空管のメーカーの違いによるものなのか、交換後の方が濃厚さが薄れた代わりに見通しが良くクリアさが出てきましたし、ノイズは劇的に低減されました。
真空管を3本入れ替えた後のHA-1Aは常用できるレベルの機器になってくれたと思いますので、後日改めて真空管について書きたいと思います。
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購入金額
11,000円
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購入日
2022年08月15日
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購入場所
HARD OFF
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