レビューメディア「ジグソー」

旧来のイメージを残したリマスター

さほど洋楽に詳しくない人であっても、ビートルズの存在を全く知らない人は滅多にいないでしょう。そのビートルズの最終アルバムとなったのが「Let It Be」でした。

 

元々はドキュメンタリーフィルムのサウンドトラックという形で制作されていた作品ですが、結局は構想とは全く違った形で世に出たということで、制作過程で残されたボツのトラックが大量に存在していて、凄まじい程の海賊盤が出回っていることでも知られています。

 

これまで、このアルバムの制作時にはメンバー間の対立が深刻で上手くいかなかったという話ばかりが伝わっていたのですが、昨年になり制作時に記録されていた映像をまとめたドキュメンタリー「Get Back」が有料放送のDisney+で公開され、これまで伝わっていた話とは随分異なる部分もあるということが判ってきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこの「Get Back」の放送に合わせて、このセッション発祥となったラストアルバム「Let It Be」も徹底したリマスターが施されたSpecial Editionとして新たにリリースされることになりました。

 

私が購入したものは、オリジナルの「Let It Be」をリマスターしただけのLP1枚のものですが、豪華仕様のものは前述の未発表音源が多数収録され、アルバム「Let It Be」の原型となった未発表アルバム「Get Back」(発売直前の状態まで準備され、テストプレスも行われた)も、当時の形で収録されているということで、熱心なファンは歓喜したものです。

 

 

実は私自身はDisney+に加入しているわけではなく、このドキュメンタリーの「Get Back」は視ていませんし、このアルバム自体発売時に買ったわけではありません。発売された後で、そういえば出ていたんだな、という程度の印象だったのですが、この類の作品は後で欲しいと思ったときになかなか手に入らなかったり、価格が上がっていたりすることがあるので一応買っておいたということです。

 

昨年行われた東京インターナショナルオーディオショウ2021でアクティブスピーカーのAIRPULSE A300 Proのデモで使われていたのがこの作品で、丁度タイトル曲の「Let It Be」が再生されていたのですが、何となくこれまでのこの曲より音が良いのではないかという印象を受けたのです。そこで買ってあったレコードを聴いてみると、やはりベスト盤の「1」などとは結構音が異なっていることに気付きました。

 

というわけで、ここに取り上げる価値があると思い、このレビューを書いています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本作の従来盤については、東芝EMIから出ていた国内盤のLPは一応持っているのですが、安い中古盤でコンディションもさほど良くないため、敢えて比較はしないことにします。

更新: 2022/01/14
総評

安っぽさを感じないリマスター

まずは収録曲をおさらいしておきましょう。

 

 

Side A


1.Two Of Us
2.Dig A Pony
3.Across The Universe
4.I Me Mine
5.Dig It
6.Let It Be
7.Maggie Mae

 


Side B

 

1.I've Got A Feeling
2.One After 909
3.The Long And Winding Road
4.For You Blue
5.Get Back

 

 

音質に関しては、いつも通りのTechnics SL-1200G+Phasemation EA-200+audio-technica AT-OC9/IIIおよび新たに入手したカートリッジ(中古品)で評価しました。

 

テイク違いはあるものの、ベスト盤「1」に「Let It Be」「Get Back」「The Long And Winding Road」辺りは収録されているので、その辺りで聴き比べてみましょう。

 

 

 

 

 

 

 

この「Let It Be  Special Edition」のリマスターは、あくまでもオリジナルの音質を忠実に再現しようという意図が感じられるものとなっています。「1」の方はオリジナルのイメージを変えてでも現代的な音質に近づけようというアプローチのリマスターに感じられます。

 

「1」の方が音場は広く、低域や高域にアクセントが加えられていて、多くの人が「昔より音が良くなっている」と感じられる仕上がりです。一方で「Let It Be  Special Edition」の方は、きちんとしたオーディオ機器で聴かなければ、昔とあまり変わっていないと感じられるのではないでしょうか。昔に近いバランスのまま、一音ごとの音が生々しくなり、間接音もある程度明瞭に収録されているという印象です。音場は「1」より明らかに狭く、昔の国内盤と大差ない広さでは無いかと思うのですが、空間の描写は明瞭です。オリジナルのマスタリングに敬意を払い、その意図を可能な限り忠実に再現しようとしたと感じられ、一般的にみられる安直なリマスターとは一線を画しています。

 

アルバムの収録内容については今更言うまでも無いでしょう。アルバムとしてのまとまりがあるとは感じられませんが、ずば抜けた才能を持つメンバー達がそれぞれ仕事をすれば、「Let It Be」「The Long And Winding Road」「Get Back」「Across The Universe」「I've Got A Feeling」「Dig A Pony」など現在に至るまで名曲と言われ続ける楽曲が、短期間にあっさりと生み出されていたという事実が残るだけです。後期ビートルズの楽曲の完成度は、50年以上経過した今聴いていても驚かされるばかりです。

 

 

オリジナルの「Let It Be」を持っている人がこのSpecial Editionを新たに入手する意味があるかといわれれば、オーディオ趣味がある人以外には難しいところですが、これからこの作品を聴くのであればこちらのSpecial Editionで良いと思います。

  • 購入金額

    3,047円

  • 購入日

    2021年10月22日

  • 購入場所

    Amazon

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