最近イヤホンの一つの形として「IEM型」とでも呼べるシェイプのものが定着してきた。
もともと耳型をとって製作するCIEM=カスタムインイヤーモニターの形状から発展してきたもので、UIEM=ユニバーサルインイヤーモニターとも呼ばれる。
それまでのイヤホンより大きなサイズのこの形状、ドライバ配置の自由度などが多ドライバーの機種では有利なのか、元々CIEMを造っていないメーカーも多く採用し、最近では中~高級イヤホンの1/4ほどはこの形式のような印象すらある。
その中に、UIEMに自社のCIEMと同じ数のドライバーを積んで、チューニングを合わせ、ほぼ同等の音色を狙った機種もあるが、CIEMが市民権を得る前の2011年からCIEMを使うcybercatに言わせれば、CIEMとUIEMは「違う」。
UIEMは、CIEMに似た形状をしているが、耳介(いわゆる「耳」)の内部構造を写し取っているわけではないので、耳道の始まる前の部分(コンチャ)のフィッティングが悪く、「座り」が悪い。さらに、イヤーチップ(イヤーピース)の大きさや形状を変えても完全なフィッティング感は得られず、静寂度のランクはどうしても1~2ランク低い(周りの騒音が入る)。さらに、cybercatのような耳道が細いひとは、そもそもステム(IEMから飛び出した耳道に入れる部分)の径が耳道の径に比べて太すぎ、収まりが悪かったり、最悪途中までしか入らなかったりする。
一方、UIEMはある程度万人にフィットするよう造ってあるので、完全個人向けで他人用のものは耳に入りすらしないこともあるCIEMに比べてリセールバリューがよかったり、イヤーチップ(イヤーピース)の交換で音の微調整が出来たりと、CIEMにない利点や調整の楽しみがあったりするが、一度CIEMを経験すると、どうしても静寂度とフィッティング感でCEIMの方が格上となってしまう。
逆に言うとCIEMの弱点は、完全に自分の耳に合わせて造ってしまうので、つけ方やイヤピ交換などによる音色の「調整幅」というのが、ケーブルの変更くらいしか残されておらず、原則的に「一つの音色」しか出ないこと。そして、試聴機はあるとは言うものの、それらは「ユニバーサル対応改造」されたエセCIEMで、イヤピの影響などがあって、「できあがったCIEMと100%同じ音にはならない」ため、試聴機で「良い」と思って買ったが、できあがってみると「ビミョーにチガウ」ということがソコソコあること。そして、できあがった製品が気に入らなかった時に、売却しようと考えても、他人もそのまま使えるUIEMに比べて、再利用にはリシェル(シェルの作り直し)必須となり値落ちが大きいというバクチ要素があること。
ま、ある程度数造ってくると試聴機とできあがり品の音色傾向の差も「読めて」くるし、CIEMを複数台持っている場合、ある機種に多少弱点があっても、このジャンルにはコレ、このシチュエーションにはコレと変えて使えば、それはそれで楽しめるので、問題ないのだけれど...
そんな複数台持ちのCIEMジャンキィなcybercatのような人種は別にして、CIEM作成に踏み出せない人の多くは「造ったは良いが、できあがりが思ったとおり(試聴機で聴いて想像したとおり)でなかったらどうしよう」というのがリスクと感じているのではなかろうか。
そんな人に向けた?CIEMを造りたい...あるいは、音色を聴く状況やその時ハマっている音楽に合わせて音質を微調整出来るCIEMがあれば、面白いかも....と開発者の林さんが思ったかどうかは知らないw
cybercatにとって通算6つめのCIEMは、そんな製品だった。
一般的に見ると「多い」部類になるだろうcybercatのCIEM変遷は以下の通り。
初体験ということもあって、最も基準となる構成=2ウェイ3ドラのCIEM、canal works CW-L11
から始まり、低音域の重さを求めて低域にダイナミックドライバーを用いたハイブリッド機Unique Melody MERLIN
⇒どうしてもフィッティングが悪くなりがちな、カラ耳(耳の中が湿っていない)cybercatの細く下向きの耳道に対する、より良いフィット感を求めて、通常使われるアクリル製ではなく、シリコン製のシェルを持つCustom Art Harmony 8 Pro
⇒一般的なCIEMでは不得意領域である濃密で重い低音域を求めて、WIZARDことJohn Moulton博士が設計した低音番長Heir 8.Aの流れを汲むHEIR AUDIO Heir 10.A
⇒音数が多くなる多ドラであっても、濃密さよりも分離の良さ、コクよりもキレを追求した異端のハイブリッド機Unique Melody MAVERICK custom
と、原則として前作成機の弱点を補う形でCIEMを作成してきた。
次の「手持ちのCIEMでの穴(弱点)」は...多ドラCIEMでの10.Aとマベカス(MAVERICK custom)の隙間を埋めるものがホシイ、となったわけ。
10.Aは低音番長8.A程ではないが、WIZARDの好きな系統の低音盛り盛り、音の束を耳道内に押し込む位の音圧の「濃い」音造り(なお10.Aは、WIZARDがNoble Audioを興して、HEIR AUDIOを離れた後の機種なので、彼が設計したわけではないが、流れはある程度汲んでいる)。古めのロックで音数が少ない曲に熱を入れたり、交響曲のように多くの楽器がカタマリとして躰にたたきつけられるのを感じたりするには大変良いが、いかんせん濃すぎて、長時間はつらい。また音がガンガンカタマリで攻めてくるので、分析的に聴く感じではない。
一方、マベカスはヌケの良さとドラム中心チューニング(この日本専用モデルの音決めをしたミックスウェーブの宮永賢一氏に、展示会会場で直接確認)で、ベースやバスドラの圧もあり、スピード感があってスカッと心地良いモデルではあるが、低域の充実度という意味ではダイナミックドライバーを持つ多ドラ(片側5ドライバー)モデルとしてはかなり控えめ。ドラマー目線(耳線?)でプレイヤーとして聴くのは申し分ないが、音楽全体・曲全体の把握という意味ではやや高域に偏っている。
音数が多い多ドラ系に興味が強かったこの時期に、埋めたかった穴、つまり次の機種に望むのは...
・多ドラの特徴である音数はある
・しかし1音1音が立って聞こえる明瞭さも持つ
・低域の「立ち」と「迫力」のバランスを併せ持つ
・音色に強烈な色がついていない
という特徴で、つまり方向性としては「多ドラモニター系」。
こう決めて、2017年6月18日に、名古屋栄はナディアパークデザインホールで行われた「ポタフェス名古屋2017」こと「ポータブルオーディオフェスティバル2017 SPRING&SUMMER 愛知・名古屋」で物色した。
このポタフェス名古屋2017には、CIEMメーカーとして、64AUDIO、acs、canal works、JH AUDIO、NOBLE AUDIO、qdc、Unique Melody、Westoneあたりが参加、試聴機を展開していた。
高級機メーカー、人気ブランドも多かったが、それらの多ドラ機の多くは味わいが濃いものがほとんどで、「多ドラモニター系」ということになると、意外に多くなかった。数少ないモニター系多ドラCIEMの範疇となるWestoneのES60などと聴き比べて、最終的にcanal worksの当時の最上位機種、CW-L71に落ち着いた。
canal worksのCW-L71は、2014年発表時canal worksとしては同社初の8ドライバーCIEM。それまでのフラッグシップCW-L51(もしくはその改良型CW-L51a)は3way/6driverだったが、さらに高域側に2ドライバーを追加した3way/8driver構成(低域×2、中・低域×2、高域×4)。
canal worksは、cybercat初のCIEMであるCW-L11(製作を一時外部発注する前の、林さん手作りのケーブル直付けタイプ)のメーカーであり、自分にとっては「CIEMの原点」とも言えるメーカー。ただ、音の基本線はとても好みなのだが、若干フィッティングが甘い面もあった。しかし、会社の規模が拡大するにつれて、ここ数年で相当に洗練され、一時期の外注時期を経て、再び自社生産に戻してノウハウも蓄積し、フィッティングもかなり良くなったらしい。また、自分もインプレッション採取の時に慣れてきて、「第二カーブの奥まで深く採ってください」と依頼したり、採取時に咥える割り箸やバイトブロックを縦にしたりするとよいというコツもわかってきたので(口を開けてインプレッションを採る方がインプレッションが大きめになる⇒CIEMが大きく、つまりキツくなる)、フィッティングを良くする努力をしている。
このとき採ったインプレッション。第二カーブの曲がりキッツ。あと耳の穴の奥細いし..
そうはいっても、密着度などはメーカーのポリシーもあって同じ型を送ってもできあがりは様々と言われる。「試聴機とはこれくらいの違い」という予想で発注したのだが、低音の響きがフィッティング改良でどれくらい改善するかが、予想を下回った...もしくは予想を遙かに上回り、過剰になったときのことを考えて、あと面白いもの/新しい物好きのcybercatの野次馬根性が発揮されて、凝り性の研究肌の林さん(canal works社長)ならではの機構が選べるグレードであったのもあり、その「機構」も追加してみた。
その機構が「PSTS(パーソナル・サウンド・チューニング・システム)」。低音域の回路の一部をシェルの外に出し、その回路の抵抗値を0Ω(直結)~56Ωの間で変更することで、低音域の量感を+12dB~-4dBで調整できる機構。
その調整方法が、「露出させた抵抗器(おそらく炭素皮膜抵抗器)を物理的に差し替える」というのが、林さん理系だねーという感じの仕組み。標準装着の抵抗値のものを含めて、直結(導線だけ)と抵抗値の異なる10種類の抵抗器が添付されており、好みのものに差し替えて音量調整(低音域の音量調節なので、最終的には音質調節)する...というもの。回路変更で音色を変えることが出来るCIEMは、他にもVision EarsやJomo Audio、qdcなどの一部機種であるが、それらはスイッチ切替で2つの音色...というのが普通(EMPIRE EARSだけは、切替は2段階ながら、way構成まで変える凝ったものだけれど)。しかしPSTSは回路の途中の抵抗値を、抵抗器の物理的な交換で11段階に変更可能という、近年の変身ヒーローがスロットにカードやメモリを入れて別種のヒーローに変身するがごとくのギミック。
このオトコノコこころをくすぐるギミックが気に入り、税抜き11,000円で付けられるオプションを選択した。
ちなみにPSTSオプションを付けるとフェイスプレートに使える素材に制限があるので、注意が必要だ。実は会場でオーダーしたときには「メキシコ貝」を指定したのだが、自然素材だと抵抗器を装着する穴を開ける際に割れやすく加工が出来ないとのことで、貝やウッドプレートはダメらしい。結局、カナルワークスと直接打ち合わせをして、ポタフェス会場で決めたシェルカラーも、フェイスプレートカラーもプレート素材・エンブレムも、つまり外観に関するオーダーを全て変更して完成したのが、こちら。
美しい桜色+カーボンのギャップ萌え?(名前とS/N部分加工してます)
10ペアの調整用抵抗とその説明書がこのギミックつきのCIEMを特徴付けている。
元々はメキシコ貝フェイスプレートとガラス瓶風シェル(ガラス)を選択して青系で攻めようとしていたのだが、180度変更してベースは暖色系の「サクラ」に。フェイスプレート素材は綾織りのカーボン。エンブレムは、もともと選択した貝だと地模様が複雑なので、かつて作ったCW-L11同様、大きな「CW」マークを選択していたが、カーボンにして色が沈むのでピンキッシュゴールドの小さな「canal works」ロゴに変更。
オーダー遂行不可の連絡があったときに、電話口でイメージして、その場で依頼変更したにもかかわらず、結構考えた通りのできあがり。
初号機のCW-L11と比較すると工作精度も飛躍的に上昇し、こちらも耳型の取り方のノウハウがたまったのか、ややキツめ(大きめ)しあがりでフィッティングの改善と、それに伴う静寂度の上昇が素晴らしい。
以前のプロトタイプCW-L11と比べるとおなじ耳から作ったとは...
そして外に飛び出した抵抗器が良いアクセントとなっている。
実際どのような音なのだろうか。
基本音をしっかり聴きたいときはバランス接続で聴いているため、アンバランスの標準ケーブルがあってもほぼ使わないので、今回は標準添付ケーブルのバランス化変更でオーダーした。そのケーブルを用いて、音の素直なONKYO DP-X1A
に直結して、いつもの楽曲を評価した。なお、まずPSTSは標準の33Ω設定で、PSTS機構なしの「素の」CW-L71相当として評価した。
まずはcybercat的音質評価基準曲で、何度も様々な機器で再生している吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」(PCM24bit/96kHz)だが、ベース気持ちいいな、これ。もともとcanal worksの音は繊細で中域の表現力に秀でる傾向があるのだが、その下の中低域のリアリティさが素晴らしい。ウッベのソロ部分は特に、指板に弦が当たる音の「近さ」が素晴らしく、リアリティがある。そしてこの録音では右に位置するドラムスの塩梅が絶妙。キックとライドシンバルレガート、リムショット、ハイハットフットクローズで基本リズムができあがっているので、ライドシンバルの金物臭がキツかったり、リムショットが耳に刺さると楽しめないのだが、各楽器はきちんと描き出しながらも、優しい感じの音色。そしてメロディを奏でるピアノの音も柔らかく、ブライトネスを効かせすぎたような過度のリアリティはない。一方部屋の広さやリヴァーブなどの音加工はきちんと追えるというモニター系の音色。
宇多田ヒカルの名曲「First Love」は、同じくハイレゾ(PCM24bit/96kHz)の“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”
から。部屋の大きさの描き出しがイイ(ただし音場はさほど広くはない⇒耳の間の距離の外にまでは伸びない)。どこに何の音がいるのかが非常によくわかる感じ。そしてヒカルの声は、ブレスの擦過音が、喉の奥の震えが非常にリアル。そして打ち込みのため、表情が乏しいベース音と他のストリングスなどの生楽器系の音のリアルさの対比もきちんと描き出す。このあたりはモニター系、という感じで、「お化粧」は少なめ←機械音と人による演奏がわかる写実系。
ストリングスの音と言えば、緊迫した感じの音ではあるが、交響曲系の交響アクティブNEETsの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”
からラストの勇壮な「鉄底海峡の死闘」はどうだろう。ちなみにこれはゲームでは、2020年夏のイベント「鉄底海峡の死闘」のBGMの方ではなく、2013年の秋のイベント「決戦!鉄底海峡を抜けて!」のBGMをベースとしたもの。低域担当のストリングスの圧はさほどに大きくはない。10.Aのゴリゴリ押してくるタイプとはチガウ。では低域が出ていないのか、というとそんなことは全くなく、ティンパニのアタックは結構強い。「重低音」の少し上のあたりのピークがグッときている感じ。リアルさと言い、空間表現と言い、素晴らしかったのは和笛を模したフルートの調べ。導入部では勇壮に、中間部では優しく、そして盛り上がるところでは切れ味鋭く切れ込んでくる。
打って変わってEaglesの古典ロックの名曲、世紀を超えて聴き継がれる「Hotel California」を同名アルバム
から。この曲、Glenn Freyの弾くあの特徴的な12弦ギターのアルペジオ、ラストのDon FelderとJoe Walshのツインギターソロが印象的すぎて、「ギターの曲」という感じもするが、実は結構大きめヴォリュームで鳴るRandy Meisnerの「動き」と「止め」の対比がセンスが良いベースと、Don Henleyのティンバレスを組み合わせた結構饒舌なドラムスがグルーヴ形成には欠かせない。10.A程の下の埋め尽くしはないが、グルーヴを形作るには十分なベース音はあり、左右いっぱいに広げられたドラムスのフィルインはアタックが強く、ローピッチチューニングのスネアも「あの頃の音」。だが、欲を言えばもう少し下が充実した方が良いか。一方ツインギターソロは、ふたりの使うピックアップの形式の差が、きちんと聞き分けられる精密さ。
ベースが曲の重要なポイントなれど、指弾きの柔らかめの古典ロックと違って、キレとダイナミクス、そして細かい技の聞き取りが重要なフュージョンベースは、JINOこと日野賢二をゲストに迎えたジャパニーズフュージョンの雄T-SQUAREのセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
から、ファンキィな「RADIO STAR」。これは合っている!JINOのスラップベースのプッシュの音も充分沈み込んでいるし、時々挟まれるプルの音もきちんと抜けている。それに絡む板東クン(坂東慧)のキックもキレがよい。先日惜しくも療養のため一線を退く告知があった河野啓三のリリカルなピアノも立っているのはモチロンのこと、そのバックでの安藤正容の複数(ダビング)のリズムギターの分離が良く、分析的にも聴くことが出来る。
低音の量が過剰気味で、ともすれば上物を覆い隠してしまうダンス曲、打ち込みリズムのゲーム曲「ヴィーナスシンドローム」
は、清楚な女子大生アイドルを女性声優あやちゃんこと洲崎綾が演じ、歌った。この曲、ほぼ同時発音のベースとドラムスの分離が再生機器を選ぶが、本品ではAメロでは完璧。ストリングスの低域まで入ってくるサビではやや飽和気味だが、それでも聴き取れる。一方、あやちゃんの声は、いつでもきちんと音像の芯で聴こえるところが、「いなし方」が素晴らしい。これだけ回数聴いている曲なのに、ブレッジ部分にシンコペーションリズムのウッドブロックのような音が入っているのに今回初めて気づいたワ。
そのあやちゃんが自身の30歳の記念に出したファンブック
に収められていた、バラード「空」。あやちゃんの声が「立つ」。特にピアノのみの伴奏となるブリッジ部分が素晴らしい。右chの生ギターと左chのエレキギターもリアルで良いが、ベースはもう少し芯があった方がよりグルーヴィーか。バスドラのアタックはきちんとあるので帯域の微妙な差か?ハイハットクローズなどは細かく聴こえて分解能はピカイチ。
このCIEMの最大の特徴、PSTSの評価だが、さすがに全ての曲を11種の抵抗値全てで評価するのは無理なので、もう少し低域がホシイと感じた「Hotel California」と、少々飽和気味かと感じた「ヴィーナスシンドローム」に関して、標準の33Ωと+4dBの18Ω、-4dBの56Ωで比べてみた。
まず、「Hotel California」。33Ωの標準だと、この時代のロックの音造りとしては少々ヌケが良すぎる感じだが、抵抗を18Ωに換えて低音域を+4dBとすると、座りがグッと良くなる。グルーヴィーな感じが増すのだ。その割りに上が陰ることはなくて、canal worksの特徴である中域~中高域の芯は揺らがないので聴きやすい。一方56Ωの-4dBにするとさすがに軽い。ただ、劇的に軽い...というよりはベースとバスドラが控えめになり、ドラムスはタムとスネア優勢、そしてギターが前に出るようになる。ギターのフレーズコピーなどではこちらの方が良いかもしれない。特にピッキングハーモニクスは響き渡る。ラストのソロではDon Felderのピッキングノイズがよりよく聴こえるようになって来る。ギター注視のリスニングであればアリ、かも。
打ち込み低域飽和曲の「ヴィーナスシンドローム」。33Ωの標準だと、低域がやや飽和気味で、Aメロは分離よく聴き取れたシンベとバスドラの音が、曲後半盛り上がってくると混じり合うようになる。では、これをさらに低音域を+4dBする18Ωに換えると破綻するか....と思いきや、ブーストする領域と飽和している領域が少々異なるのか、意外に持ちこたえている(飽和気味なのは変わらず)。どちらかと言えばバスドラのアタックのあたりが上昇し、シンベはさほどに大きくならないので、なんとか耐えているという感じ。一方56Ωの-4dBにするとベースの存在感はさほどに変わらないが、バスドラがあきらかに引いて飽和感はやや下がる。ギターも目立つようになって、やや明瞭度は上がるが、「ダンスミュージック」と見た場合はやや軽い。バランスとしては気持ち抑えすぎのような感じ。
一応極端例として直結の0Ω(導線のみ)=+12dBを聴いてみたが、さすがに低音が大きい。ただ「破綻」までは行っておらず、低音過剰の「ヴィーナスシンドローム」でもかろうじて聴ける。シンベよりも明らかにバスドラが大きくなり、クリップ感が増すが、ビート感も上がるので、まだ耐えられる。一方「Hotel California」はベースが大きすぎてもたつく感じに。スピード感が落ちた感じになってしまい、あまり良いところがなくなった。
結局、キモチ低音プラスが自分のスイートスポットのようなので、当面+2dBの22Ωで使用することにした。
多ドライバーCIEMに関してそれまで持っていたHeir 10.AとMAVERICK customが両極端な性格であったため、その隙間を埋めるべく、中庸な性格であり、自分としては「原点」とも言えるcanal worksのフラッグシップ機(当時)CW-L71PSTSを入手してみた。それ以前のフラッグシップ機CW-L51a(PSTS)と比べると(試聴機比較だが)高域も伸びており、非常に素直な多ドラ機だった。
特徴としては
○充実した解像度の高い中~中高域で、素直で明瞭なヴォーカル/主旋律が味わえる
○伸びの良い高域で「つまり感」は皆無
○低域は「濃く」はないが、芯があり、強い
○多ドラ機ならではの音数の多さは堪能できる
○分離が明瞭で各楽器がきちんと聴き分けられる
○大音量楽器の影に小音量楽器が隠れてしまうことが少ない
○特に苦手分野がないオールラウンダー
●超高域と重低音への上下の「伸び感」はない
●左右のサウンドステージの広さはさほどに広くない
●この機種と言えばコレ!という絶対的な特徴に欠ける
という感じ。
一方、オプションで付けた音質調整機構PSTSは、明らかに音が変わるし、調整幅も結構あるのだが、スイッチ式のものと比べると
・曲によって切り換えて楽しむほどワンタッチではない
・物理的な抜き差しになるので、抵抗紛失や足折れの危険性がある
・完全に回路を切り換えるのではなく、抵抗値のみの変更なので劇的変化はない
という感じで、曲によって切り換えて楽しむのではなく、好みや他の機器に合わせた微チューン、最終調整という感じ。
実際に、PSTSの使用抵抗が固定化した場合、クリア塗装で封印してしまうサービスもある。交換して音を変えられる楽しみはなくなるが、紛失などのリスクは減る。単なる「トーンコントロール」「ラウドネス機構」と捉えると、高額な割りには劇的変化はなく、しかも変更が面倒くさいシステムだが、PSTSを付けていれば、試聴時と若干完成品のイメージが違った場合、抵抗器の変更で微調整出来るので、試聴機の時のイメージに近づけることも可能。それを、最終音質決定までの「猶予」を買う、と考えたらアリなのかもしれない。他にもネット情報だが、DAPを変えたので、PSTSで微調整した...というようなコメントも見たので、そういう「微調整」には良い機構。
CIEMは安いものではないし、一部の都市部に住む人以外はインプレッションを取ること自体が、そこそこ手間でもあるので、せっかく作ったCIEMを作り直したりすることを考えれば、11,000円のオプションは価値があるのかも。自分としては+2dBでほぼ満足。当面コレで行こうと考えている。
予定通り、モニター系の多ドラCIEMが手に入ったので、多ドラCIEMに関しては既存の機種があるのを前提に、ファイナルアンサーっぽくなってきた感じ。
このCW-L71(PSTS)は、この半年後、直属後継機のCW-L72と、別方向へ進化した同価格のCW-L77の双頭フラッグシップ体勢に変わった。それぞれに魅力的な機種ではあったが、原点とも言えるニュートラルなCW-L71が色あせることはなかった。
一応cybercatの多ドラCIEMの終着点、と考えているCIEMです。
【cybercat所持CIEM比較】
【仕様】
型番:CW-L71PSTS
商品名:3way/8driver Custom In-Ear Monitor
ドライバー:Low x 2, Low-Mid x 2, High x 4
インピーダンス:20Ω
感度:119dB
【代金】総額191,160円
請求総額:196,560円
※ポタフェス名古屋2017開催記念特価
オプション:
・カーボンプレート(綾織り):12,960円
・2.5mm 4極 127cm ブラックバランスケーブル:5400円
インプレッション採取代金:5400円
【今回購入時のタイムチャート】
2017/6/18 ポータブルオーディオフェスティバル2017 SPRING&SUMMER 愛知・名古屋で契約
その場でインプレッション採取
2017/7/29 製品受領
※PSTS(パーソナル・サウンド・チューニング・システム)について
伸びきっている気配は薄いが、実は「ある」
中高域にクリアなヴォーカル/主旋律領域があって、そこが明瞭にアピールするので、「高域出てます!」という主張はないが、きちんとある。「つまり感」は全くない。
「素直」で表現力が高い
特に際立った特徴はないことが特徴。実は多ドラCIEMでは結構貴重。多ドラ=上級機種になるほどクセが強くなってくる機種が多い中、実に素直で中道。自分の持つCW-L11比較では全ての方向性に広く深く伸ばしたという感じの正統進化、上位互換。
濃くはないが十分な質量がある
芯がある音なので、実際の量よりも存在感があって、ベースやバスドラが良く聴こえる。量ではなく質で稼ぐ感じ。
音場(左右)は広くはないが、各楽器の分離はクリア
各楽器の分離が良くて音数の多いのが際立つ。カタマリで攻めてくるのではなく、音の数で攻めてくる。
ただし、サウンドステージの左右の広さはさほど広くない。
-
購入金額
196,560円
-
購入日
2017年06月18日
-
購入場所
e✩イヤホン ポタフェス店(秋葉原店扱い)
ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。