ヒューレット・パッカードから発売されていた関数電卓で、Pioneerシリーズの最上位モデルです。行列の演算に対応しているところは HP 15Cの後継と言え、プログラム機能から見ると HP 41C の後継と言えます。
なお、下位モデルには HP 32S という機種がありましたが、そちらが1行表示で行列演算機能がないのに対し、42Sは2行表示です。HP 32S の後継機種である HP 33s、35s では2行表示になっています。その一方、42S は後継モデルが発売されず、HPの関数電卓(グラフ電卓を除く)の中で最強の機種として名を残すことになりました。
電池は酸化銀電池 SR44 を3つ使います(アルカリボタン電池 LR44 でも動かなくはないです)。かつては水銀電池 MR44、NR44 が使われていて出荷時搭載だったようです(マニュアルに書いてあった)。
ポケット関数電卓の最高峰
この機種は HP 15C の後継で、いくつかの機能が強化されています。また、人気があった HP 41C/CV の後継でもあります。
複素数機能が使いやすくなった
この機種は HP 15C の後継であるため複素数の計算ができます。15Cから改良された点として、まずは実部と虚部が一度に表示されるようになった点が挙げられます。15Cでは11Cから無理やり拡張した感じが否めず、10桁表示しかできないので虚部を表示するには操作が必要だったのに対し、42Sでは表示桁数に余裕があるため同時に表示できるようになっています。また、極形式で表示したまま計算できるようになりました(勿論直交形式で計算することもできます)。また、15Cにあった実数モードと複素数モードの区別がなくなり、実数型と複素数型になっています。
行列演算が使いやすくなった
HP 15Cでは行列演算機能が導入されましたが、予め5つの変数のどれかに割り当てて初めて使えるようになっていました。行列の積など、行列同士の2項演算を計算するには、解を格納する変数と合わせて3つ必要でした。
一方、42S では in-place で行列を入力できるようになり、行列エディタが搭載されました。但し、情報量が多い為変数に保存しておくことが推奨されています。行列エディタを実行中もEnterを押すとスタックに何か入力されることがあるので気をつけたほうが良いでしょう。
大きな強化として、42Sでは複素行列にも対応しました。15C では実行列しか対応しておらず、複素行列は実行列にバラして入力する必要がありました。一方、42Sでは実行列型と複素行列型が導入され、同じ型の実行列をXとYに置いて シフト→[COMPLEX] とすると複素行列になります。当然、複素行列の行列式とかも(正方行列であれば)求められます。
問題点としては、15Cと同様行列の型は表示されますが特に操作しない限り中身が表示されないことです。シフト→[SHOW] で 1,1-要素を見ることはできます。縦16ドットしかないので詰めても3行しか表示できないでしょうがなかったのでしょう(RPL電卓では表示領域に余裕があるので行列がそのまま表示されます)。
ベクトル演算
ベクトルは1行または1列の行列で表します(どちらでも認識する)。シフト→[MATRIX] のメニューには行列演算用のコマンドに混ざって「DOT」「CROSS」というコマンドがあり、読んで字のごとくドット積、クロス積を計算します([×]を押すと行列の積 XY(RPNとして自然と思われるYXではない)として計算されるため、エラー(行列として積が計算できない)になるか、内積(但し DOT コマンドと違い1×1行列型になる)になるか、直積(解は行列)になるかのどれかになります)。
当然のことながら、クロス積は3次元でしか定義されていないので4次元以上でやるとエラーになりますが、2次元以下は足りない成分を0と見做して計算するようです。
整数演算モード
HP 42S では、16進・10進・8進・2進の BASE モードが搭載されています。これは、HP 16C のようなコンピュータプログラマ向けの計算機能ですが、何故かワードサイズは36ビットで固定、符号形式は2の補数で固定(実際、1の補数形式はあまり使われないのだが)になっています。なぜ32ビットや64ビットではなく36ビットなのかは不明ですが、この仕様は HP 35s にも受け継がれています。
ビット演算は AND、OR、XOR、NOT、BIT?(整数Yの、X番目のビット(LSBが0)を判定する。16Cの B? に相当)、ROTXY(整数YをXビットだけ右回転する。Xをマイナスにすると左回転する。16C の RRn に相当)だけです。
基数指定は68~71の4つのフラグを2進数と見做して使用します(直接変更できません)。しかし、16進、10進、8進、2進しかないのでシステムフラグ2つで済むはずですが、コード最適化の都合でそうなっているのかもしれません。かといって4進法とか6進法とか12進法が使えるわけではないのでやっぱり無駄な気がします。
プログラム機能
プログラム機能は HP 41C にあった FOCAL を使用します。要するにキーストローク式プログラミングですが、41Cと同様に命令がキーコード(数字)ではなくニーモニック(英数字)で表示されるようになっています。15Cでは7セグメント10桁だったため不可能でした。
また、15Cと違い、ラベルに英数字の名前を付けることができるようになっています。[XEQ] ボタンを押すと、メニューにラベル名が表示されます。
42Sに無いもの:分数
無いものを探すほうが難しい気もしますが、下位機種の32SⅡで追加された分数は搭載されていません。もし 42SⅡ(勝手に命名)が発売されていれば、間違いなく搭載されていたでしょう。
42Sで無くなったもの:拡張モジュール
41C/CV/CX(私は持っていません)には、拡張モジュールのスロットが付いていました。一方、42Sにそれは無く、印刷用の赤外線LEDが搭載されているにとどまります。しかし、41Cの場合拡張性が飛びぬけて大きいイレギュラーな機種で(BASICは使えないが)ポケコンに近い性質を持っているため(一応HPも71BというBASICポケコンを発売しています。私は持っていませんが)、デメリットとして数えないほうが良いでしょう。
あまりうるさくないタクタイル
キーボードはHPの関数電卓の特徴でもあるタクタイルフィーリングです。Voyagerシリーズ(16Cの実機)と比べて低い音がし、それほどうるさい感じはしません(アプリで計測したところピークが42dBくらい)。
ちょうどよいポケットサイズ
Voyagerシリーズ (15C、16C)と比べ、長さが電池ボックスの分(2cmくらい)だけ長くなっていますが、幅や厚みはほぼそのままです。なお、Voyagerシリーズが横長であるのに対し、Pioneerシリーズは縦長になっているため、「長さ」は長辺、「幅」は短辺を指します。
28Sや48GXといったRPL電卓は42Sより高機能ですがポケットサイズより大きいため、サイズ感では42Sに軍配が上がります。
後世のプロジェクトの手本に
HPからこれ以上のポケット関数電卓は(グラフ電卓を除いて)発売されることがありませんでした。他社の電卓を見ても、これ以上のものを見つけることは難しいと思われます。
鳴れると使いやすいRPN式であることやボタンの押し心地なども良好であることから、HP電卓にはファンが多く、特に42Sや15C、16Cはプレミアが付きます。このため、
- Free42 というアプリで、HP 42S が再現されています。
- WP 34s の機能は、HP 42S を手本にしています(但し整数演算は 16C を手本にしています)。
- SwissMicrosから、Free42 をベースにした DM42 という電卓が発売されました(これは持っていません)。
このように、後世のプロジェクトの手本にもされています。
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購入金額
36,000円
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購入日
2021年01月02日
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購入場所
ヤフオク
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