所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。声の「掠れ」。クラシカルな分野や、童謡、合唱などでは、ない方が良い声の特徴ですが、一部のポピュラーソングのジャンルでは、声の存在感と色気が増すため、武器になったりもします。そんな「ハスキーさ」の度合いを自由に?操った歌姫の作品をご紹介します。
mink(이밍크:イ・ミンク)。韓国籍の歌姫。ほとんど人物情報なくデビューし、イラストレーターenaのモノトーンのイラストジャケットをトレードマークに、当初本人の顔出しなく1年半ほど活動した。4thシングルでようやくその姿を現し、その後ジャケット装丁のコンセプトをモノクロの動物の写真へと変えてリリースしたのが本作、5thシングルの“Together again”。
もともとタイアップを多くとって露出を高める、という制作側の販売方針だったらしく、それまでもタイアップ曲が多かったが、今回も2曲がタイアップ。ただ、彼女の声の相性が、ノリの良いアップテンポの曲よりも、そのハスキーで情感豊かな声を活かしたバラード系の方が良いと方向性が定まったのか、「ビートの激しい」曲はない。
タイトル曲の「Together again」は、CG-SF映画「ベクシル -2077 日本鎖国」の主題歌。この曲は「静かな」曲ではなく、ドラマチックかつダイナミックな曲。伴奏が、ピアノ⇒+ストリングス⇒+ギター⇒+リズム隊と徐々に加わっていくのは、こういったタイプの曲では定番のアレンジだが、ハマりすぎているほどしっくりきてる。minkのヴォーカルはまさに「朗々と」というのがぴったりくる歌い方で、彼女のハスキーで存在感のある声が迫ってくる。この曲では、歌い出しの静かなあたりはハスキーさが強く出ているが、サビになって喉が開いてくると、その度合いが弱まる...と曲の中でも声音が違う。♪もう二度と君を/見失いたくない/もう離さない/Cause I can’t sleep I can’t eat I won’t breath/Till when, we’re together again, we’re together again♪と歌う彼女の英語の発音が自然すぎてヤヴァイ。
カモメの鳴く声と波の音のSEで始まる「Why don’t you」は、ポロポロとつま弾かれるギターとともに歌い出されるが、その後8ビートのリズムが加わり進むミディアムテンポ+(プラス)の曲調に。国分佐智子主演の昼ドラ「金色の翼」の挿入歌だったらしい。♪君だけを求めていた/迷いさえも無かった/夢じゃない/現実じゃない/Why don’t you/Why don’t you♪と歌われる内容が、遺産を持った未亡人をだまそうと近づいた男が彼女に恋してしまう...という倒錯ドラマに合ってた?
ラストの「Blessing you」は、minkが作詞に挑戦した曲(作曲はヴォイストレーナーであり、ゴスペルコーラスグループも主宰する池末信)。この曲、このディスクで唯一のアップテンポで明るい曲なのだが、彼女の声の軽やかな側面が良く出ている。Every Little Thingのサポートとして識られる笠原直樹のグルーヴィなベースが、曲を前向きに進ませる。このテンポの曲では、minkの声は「色気ある微ハスキー」程度に掠れが抑えられていて、とてもキュート。歌詞は落ちサビ以外は日本語だが、コーラスは英語で、かなりセンスが良い。♪いつか夢が叶う/その日が訪れたときは(when my dreams come true)/あの照らされた道で/強く抱きしめる/この手で(hold you tight!)♪
DVDは映画「ベクシル -2077 日本鎖国-」のスタッフによるCGを使った「Together again」のMV。minkをモデルにしたCGの女性が歌うシーンと映画のシーン(背景中心)が重ねられた形。ただ、この頃はCGがまだ「CG」だな~。このあと、日本映画界では、スターウォーズのアニメやシドニアなどを手がけたポリゴン・ピクチュアズが台頭して「自然なアニメ調のCG」という分野を創るが、この頃はまだ「立体化した写真」を動かしている...という感じが抜けていない(CG製作はTBS系のOXYBOT)。実際に歌っているminkをモデリングしたのかもしれないその「動き」だが、ゆったりとした曲なので、手と腕の表現が主となっていてそもそも地味だし、ゆったりとしている分、動きがぎこちないのが目立っているし....映画の宣伝込み、という事だったのだろうが、これなら実写の方が良かったかも。
minkにとってこの作品、楽曲の方向性も定まったが、装丁もイラスト⇒動物の写真へと変わってそれまでの路線と印象が違う。それは本作が、彼女の「第二章」の始まりと位置づけられた作品で、「4 seasons」と名付けられた4部作の最初を飾るものだったから(リリース時期-2007年8月-に合わせて「夏」盤)。しかし、彼女はこの次の「秋」盤までリリースした後、消息を絶った。永い間行方がわからなかったが、実は現在は音楽を離れて母国韓国で暮らしているとか。
予定されていた「4 seasons」シリーズのリリース半ばで中断して音楽から離れる...というのはよほどのことがあったんだろうな...とは思うものの、彼女の美ハスキーな声を聴き直すとなお、今でももう一度彼女の歌を聴きたい、そう感じさせる作品でした。
【収録曲】
<CD>
1. Together again(映画「ベクシル -2077 日本鎖国-」主題歌)
2. Why don’t you(TVドラマ「金色の翼」挿入歌)
3. I’d forget to breathe (original)
4. Blessing you
<DVD>
1. Together again (Video Clip)
「Together again」
掠れ具合の魔術
ダイナミックな曲、力を抜いて歌っている曲、軽やかな曲...ハスキーさが邪魔に感じられず、それぞれ異なる曲調の表現力に繋がっているのがすばらしい。
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購入金額
1,575円
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購入日
2007年頃
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購入場所
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